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ちらほらと見学者が入ってきます。

どの人も、まずは教室中のレース作品に驚いて、それから一つずつの出来栄えをじっくり見てから感嘆し、レース以外の作品を見てきゃっきゃして帰っていきます。

良かった、私達の作品も見てくれて…。


木内君? 今は三人に囲まれて面接試験の対策やら、入学後の部活日程の確認やらを話し合って? ます。

どうやら二人にも腕前を認められたようで、木内君も手芸部という名のインディーズブランドの人員の一人になるのが確定してしまったらしいですね。


「そう言えばさ? そっちの二人は? うちの高校来る気ないの?」

「えっ!?」

「いやっ、無理ですムリムリ!」


しなちゃんと、あまり大きな声を出さないようにお喋りしていたら、話がこっちに投げられました。

しかし、いきなり何を言うんですか、桐生さん?

しなちゃんが全力で手を顔の前で振ってます。私もしなちゃんと同じように首を振りました。

桐生さんはえ~、と言いながらも、本気ではなかったのか苦笑気味です。


「そんな全力で否定しなくても~」

「阿呆。この時期になったらもう本命決まっちゃってるわよ」

「あー、でも、川口さんと神代さんも、欲しいなぁ……」


ヒィッ! 飯塚先輩が怖いこと呟いてる!?

如月さんと桐生さん、そんなあ~あ、みたいな表情しないで? 飯塚先輩言い出したら否定許さない人なんだもん!


飯塚先輩、良い先輩なんだけど、妥協とか許さない人だし…そんな先輩と一緒に行動してて、尚且つ嫌そうとか苦労してるとか言わないってことは、この二人も飯塚先輩と同類っぽい…

つまり、手芸部は職人的な人しかいないんじゃないかって予想が立つのよ。

……うん、胃が痛くなりそうだから、無理かな。


「もう志望校ありますし…」

「え~、でも普通科でしょ? 別に専門学科じゃないなら、うちに来たって同じじゃないかな?」


普通科だよね? と念を押されて頷くと、じゃあ問題ないじゃないか。とニッコリ笑われた。

問題ありますよ。


「いやでも、」

「その学校に何か特別な授業科目とかあるの? 行きたい大学の附属とか?」

「そういうのは、ないですけど…」

「今の時期でも志望校変える子はいるし、別に神代さん頭悪くないでしょ? 確かに電車使うようになるから、多少お金は掛かるけどさ、市外って訳でもないし、いざとなれば自転車で行けるよ?」


うぅ…飯塚先輩グイグイ来るなぁ。

しなちゃんは巻き込まれないようにか、口を閉じて私から離れていくし、木内君は桐生さんにレースの何かを作るように言われて相談? してるし。

亮くん助け……いや、亮くんは飯塚先輩の援護射撃に回るわ。ついでに自分もそこにするとか言い出しかねない。


「それに、うちの高校割りと大学への進学率とか就職斡旋の伝とか結構良いよ? 手芸部入れば自己PRバッチリだし名前売れるし、」

「飯塚、いい加減にしなさいよ」

「あ痛っ」


あわあわしてたら、呆れたのか如月さんが止めてくれました。

飯塚先輩を叩いて。

ぱしんって、結構良い音したけど大丈夫かな?


「如月、痛いじゃないか」

「あんたがしつこいからでしょ。神代さんにだって色々考えがあって志望校決めてんだから、無理いうんじゃないの」

「え~……分かった、分かったから拳を作るの止めようよ」


ニッコリ笑って拳を構えた如月さんに、飯塚先輩は降参したように両手を上げて肩を竦めました。

桐生さんは我関せずで木内君と連絡先交換してます。

飯塚先輩にごめんね。とは言われましたが、気が向いたら来てね。とか最後に言って帰っていったので、反省はしていないんだと分かりました。






………そりゃぁ、ね。

木内君みたいに、励まされて叱咤されて。努力して結果をだして認められて。

誰かに頼られて目標を見出して。

羨ましくないと言えば嘘になるし、あんな風に忙しくしながらも充実しているのは良いなぁ、って思う。


私も、`先´を、`最後´を知らなければ、あんな風に進路を決めたり、目標を持ったりしたかも知れない。

ミシンを扱えるようになって、もっと服や小物を作ってみたい。

料理が上達してくるにつれて、食材の栄養について勉強をしてみたい。

日々、少しずつ湧いてくる欲求。

でも、それを叶えるのは無理。


私は十八で消える。十九まで生きられない。

もしかしたら、`前´とは違うかもしれない。私も、ずっとずっと大人になれるかもしれない。なんて、思ったこともある。

けど、同じなのよ。

新人俳優と言われて出てきた人。アイドルの新曲。小説や漫画の新刊。新しいドラマ。

`前の時´によく一緒にいた友達の性格や考え方や口癖。

注意深く思い返せば、地震が起きた日も、台風の来た日も、海外のテロ事件も。

同じ。私の周りがほんの少し変わったとしても、何も変わっていないんだな、と思えるくらい。

デジャヴ? ってくらい、同じ。


きっと私の人生も同じ。何も変わらない。

だから、私は私の手の届く処で後悔を潰していく。それくらいの変化なら起こせるんじゃないかな。


光希を死なせない。

習い事を投げ出さない。

勉強も運動も頑張る。

早苗ちゃんを死なせない。

親友を孤立させない。


ほんのちょっとの後悔。でも、行動しないよりはましでしょ?

だから私の人生は`前の時´と同じで良い。同じでなければいけないの。

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