気に入ったようです
光希は桑崎くんが気に入ったのか、あれからちょくちょく、りょーたくんりょーたくんと、桑崎くんに会わせろ的な空気を出す。
桑崎くんも小さな男の子の扱いが上手い。まさかあんな数十分でこんなになつくとは思わなかったわ。
「光希。桑崎くん…亮太くんは私達のお家知らないから、遊びにはこれないのよ?」
「え~、じゃあおねーちゃんがつれてきてよ~」
「うぐ、」
そんな涙目にならなくっても……
私も桑崎くんの家なんて知らないしなぁ。
どうしたものか。
「……と言う訳なんだけどね?」
「じゃあ、行こうか?」
「へ?」
終業式の日。
桑崎くんに何となく光希の話をしたら、考える素振りすらせずに家に来てくれるとの答えを頂きましたよ?
「え、いいの?」
「うん。あぁでも、金曜はムリだからそれ以外な」
ちょっと、即決過ぎやしませんか? 普通親に聞いたりとか…
あれ、私だけですか? ウダウダ考えてたの。
内心戸惑いつつも、申し出は嬉しかったので(光希がちょっとしつこいので)さくさくと約束が決まり、学校が終わる頃には三日後に学校の正門で待ち合わせることになっていた。
「光希、桑崎くん…亮太くんが遊びに来てくれることになったよ」
「ほんとっ? やったぁ!」
光希に教えれば、文字通り跳び跳ねて喜んでくれました。
お母さんにも約束のことを伝えておやつのリクエストもちゃっかりとしてみたり。
さてさて。
夏休み初日と二日目は午前中に宿題をちょっと多目に片付けてお母さんと光希と昼食を食べ、午後は光希と公園で遊びました。
そして三日目。今日は桑崎くんが遊びに来てくれる日です。
「桑崎くん迎えに行ってくるねー」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けるのよ?」
「おねーちゃんっはやくりょーたくんつれてきてね!」
「はーい」
玄関で二人に見送られて外に出る。
なんか光希の言い方が。催促が酷くないか? そんなに桑崎くんがいいの? お姉ちゃんよりも?
泣くぞ。
家から学校までは歩いて10分くらい。
なんで学校で待ち合わせたかって、桑崎くんの家が学校挟んでほぼ真逆だったからだよ。
チリチリする日射しにうんざりしながら正門まで歩いていけば、桑崎くんが既に待っていた。
門柱に少しだけ背を凭れかけながら片手だけズボンのポケットに入れて空を見てる。
……うん。小一じゃないよアナタ。
なんですかそのアンニュイな雰囲気。私、女としても中身の年齢的にも負けてる気がするわ。
「桑崎くん、ごめんね。おまたせ~」
「神代。少し早くついただけだから、気にしないで」
「ぁ、はい…」
何だろうな。桑崎くんの対応が大人っていうか、紳士に近い気がするわ。
今時こんな気のきいた受け答えも、爽やかな嫌みのない微笑みも珍しい。
……うん、気にしないでおこうかな!
桑崎くんに光希のことを話ながら(光希が二つ下だとすら言ってなかった)、家まで歩く。
桑崎くんもお兄さんのこととか少し聞かせてくれたりして、もうこれはお友達って言えるよねっ? 友達でオッケーですよね!
初めての男友達にちょっと興奮したのは内緒です。