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加害者への執拗なまでの糾弾がありますが、直す気は基本的にありませんのでご容赦ください。
残酷描写というか、残酷な言動があります。
木内君が苛められてる? いつもって、何時から?
私…全然気がつかなかった。
「チッ…喋ってんじゃねーよ」
「赤城、今の話は本当か?」
舌打ちしてぼそりと何か呟いた赤城君。
山元先生と加藤先生が赤城君の方を見れば、嫌そうに顔をしかめてる。
「…なんだよ。仕方ねーだろ、アイツムカつくし。…生意気だからちょっとシメてやったんだよっ」
「なに、それ…ムカつくからって、木内君を殴ったの? 生意気だと思ったから、あんな場所に、木内君を置いていったの?」
「ハァ? お前ダレだよ。かんけーねぇじゃん」
あのまま、木内君が朝まで見付からなかったら…。
そんな最悪なことが頭を過り、言葉が荒くなる。
「っ! あんたのしたことは暴行なのよっ! 殺人未遂よっ! 」
「アイツが悪いんだ! 男のくせに家庭科部なんて入って、ちょっと器用なだけで女子にチヤホヤされて…ちえまでアイツがカッコいいとか言い出すし…むかつくんだよっ!」
自分勝手な理由に、頭に血が上るのが解る。
カァッと熱くなって、目の前が一瞬白くなった。
震える手を握りしめる。
「神代さん、いじめの問題は学校側から、」
「いじめなんて、オブラートに包むからいけないのよっ! 殴る蹴るの暴行加えて、山の中に一晩も置き去りにしたら、衰弱するし、風邪だって…肺炎に掛かって死んじゃうのよっ!? それを、たかがいじめなんて軽い言葉で片付けないで!!」
赤城君を睨み付けていた私を抑えようとしたのか、加藤先生が口を開いたけど、その単語を聞いて、私は憤ってしまった。
理不尽な暴力を、いじめなんて言葉でくるむから、重さのない話として流されるのよ。
いじめって言葉で、暴行も、脅迫も犯罪とされなくなっちゃっているのよ。痛みが感じられない言葉を、使わないで欲しい。
「あんたに解るのっ!? 力の敵わない相手に踏みつけられる恐怖がっ! 笑いながら凶器を振り下ろされる絶望がっ!
あんたなんかっ! あんたなんかっ!」
「晶子!!」
叫ぼうとしたら、背後から抱き締められた。
両目を、片手の平で覆われた。回された腕に、肩や腕を力強く抱き締められ、背中にぴったりとくっついた体から、震える体に温かさがじんわり広がる。
「晶子、大丈夫だ。晶子、晶子…」
「ぁ…」
亮くんの、低い優しい声が耳を擽る。
いつもの、亮くんの匂いに包まれる。
いつもより、少し速い鼓動が背中から私の体に響く。
きっと、走ってきてくれたんだろう。
ドクドクと耳に響く嫌な音が、亮くんの鼓動と同じリズムになっていく。
何度も何度も亮くんに名前を呼ばれ、強張り震えていた体から力が抜けていく。
血の上った頭が冷静になっていく。
‐あんたなんかっ‐
私は、何て言おうとした?
目の前の男子に、`ダレ´を重ねた?
私は、亮くんの優しい声を聞きながら、糸が切れるみたいに、意識を手放した。
‐side、桑崎亮太‐
「おっ、と……」
どうやら意識を失ったらしい。
倒れそうになった晶子を、腰を抱くように抱え直し、目の前の男子生徒を見据える。
「なっ…なんだよこいつ。いきなり、訳わかんねぇ…」
晶子を、気味悪そうに見るこいつは、自分のしたことを理解していないようだ。
俺のいたロッジに飛び込んできた南川に、ここに来る間に概要は聞いたし、晶子の叫んだ内容で大体は理解した。
俺は晶子の顔を見られないように体の向きを変えながら、こいつに、一言だけ口を開いた。
「人間っていうのは、案外簡単に死ぬ。そして、お前は何処までも愚かだ」
「っ、はぁ?」
こんなやつとは話すだけ無駄だろう。
人の痛みに鈍感で、自分の傷には過剰な類いの奴だ。
何か喚き始めたが無視し、近くの教師に晶子を休ませたいと打診する。
「出来れば木内の傍で休ませたいんですが。起きたとき、木内の姿がないと錯乱する可能性もある。勿論俺も一緒に付いてます」
「…救急車を呼んだから、木内君は運ばれるぞ?」
「運ばれる際に一度起こします。確認出来れば安心するはずですから」
譲るつもりのない俺に、教師はため息を吐くと了承を示した。
晶子を横抱きにし、顔を俺の肩口に伏せる。
教師が驚いた表情をしたが、晶子くらいなら普通に抱いて運べる。むしろ、他の奴に頼む訳がない。
木内の怪我を手当てしているログハウスへ行く。
目を覚ましたらしい木内の寝る布団の隣にもう一つ布団を敷き、晶子を寝かせる。
しっかりと俺の服を掴んでいる手を、包むように握りしめ、ゆっくりと指を離させる。
「慣れてるね、桑崎くん」
「ずっと一緒にいるからな。木内、俺のことは気にしなくていいから、ゆっくり休め。救急車は寝心地悪いぞ」
「ふふ、そうなんだ? …ありがとう」
痛みに顔を歪め、それでも笑顔を見せた木内。その唇はまだ血色が悪い。
本当に、一晩も山中で過ごしていたら、と考えるとゾッとする。
同級生とは思えないくらい、稚拙な行動をしたあいつは、まだ未成年だから、何のお咎めもなく、反省もしないのだろう。
人一人、自らの手を下さなくとも、簡単に死に追いやれることを、自覚する時は来るのだろうか?
「りょ、くん…」
「晶子…傍にいる。ずっと…」
パタパタと何かを探す晶子の手に、自分の手を重ねる。
ふにゃりと笑う晶子に、きゅっと指を握られる。
温かい。晶子の体温に安心する。
生きている。俺が、守る。
初の試み、話の途中で視点切り換えしてみました。
晶子視点だけでは補えなかったので…




