寝不足
~前回の話~
一度目の生で、主人公が家に帰った時に弟が部屋で殺されていたのを発見してしまった時の情景。
読み飛ばした方への簡潔説明でした
「っ!! ……? …、はぁ」
今のは…夢?
暗闇の中視線をさ迷わせれば、自室だとすぐに分かる。
ふう、と大きなため息を吐き、体の力を抜いた。
「…違う。あれは……私の、記憶…」
`前の時´の、記憶。
習い事があったの。それで、お母さんと光希は家に居て、私は、友達とお喋りしてたから遅くなって。
お母さんは…? 何で居なかったの? お母さんは死んでないし、大きな怪我もしてなかったはず。
「……とりあえず、季節は判った。だけど……何歳?」
半袖を着ていた。それに、光希はタンクトップだったわ。
夏。それで、多分…夏休み……?
たった今見ていた夢を、思い出したくない光景を思い返しながら、ヒントになるものがないか慎重に考えてみる。
もう一度眠る気になんてなれるはずはなく、私は部屋が明るくなるまでじっと天井を見つめていた。
あれから、時々思い出したように夢を見る。
一番最初の、光希を見つけた時の夢はもちろん、ちょっと後の、警察が喋ってる夢や、お葬式の時の夢。
一番酷いのが、光希を見つけたと思ったら、画面が切り替わって、両親が叫び、喧嘩をしているという夢……いや、記憶。
「ふぁ…」
寝不足です。
最近は夢を見たくないと思うせいか、眠るのに時間がかかるし、眠りが浅くなった。
学校に着いてから欠伸ばっかりしてるわ。
「しょうこちゃんおはよう、起きて」
「かなちゃん、おはよ~、おやすみ~」
「違うでしょっ」
教室に入ってきたかなちゃんに若干ふざけて言ったら、本気にしたのか凄く慌てた返事が返ってきた。
良い突っ込みだわかなちゃん。
「冗談だよ。起きてるから、大丈夫」
「もぅ、びっくりしたよ~」
「あはは、ごめんごめん」
ふぅ、って息を吐くかなちゃんが可愛い。眼福だわぁ~、眠気吹き飛ぶわぁ~。
「おはよ! かなちゃん、しょうこちゃん」
「「おはよう」」
ぱらぱらと教室に入ってくる子達と挨拶しながら、他愛もないお喋りをして、先生が来るのを待つ。
入学して1ヶ月もすれば、大体のクラスメイトと話せるようになってきて、名前も分かるようになってきた。
まぁでも、あんまり話さない子達もいるんだけどね。
「おはよう」
「あ、おはよう、桑崎くん」
ぼぅっとしてたら、隣の席に桑崎亮太くんが来た。
桑崎くんは、小学校一年生とは思えないほど落ち着いてる。
普通このくらいの男の子ってぎゃいぎゃい騒ぐのがデフォルトだと思うんだけど、桑崎くんは冷静沈着。でも文学少年って訳でもないらしい。運動神経凄く良いのよ、勉強は中の上、かな?
大人や中高生に憧れてるっていうのとも違う、自然体なんだけど大人っぽい桑崎くん。
ぜひお友達になりたいんだけど………
「………」
「…、……」
……駄目だわ、話題が出てこない。
話しかけたいんだけど、何の話なら興味があるのかすら謎なのよね。
結局、この日も桑崎くんと喋ることなく終わってしまった。