表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/127

もどかしい


『もしもし、晶子ちゃん?』

「早苗ちゃん? どうしたの?」


春休みもあと数日。

家でのんびりしていたら、早苗ちゃんから電話がきた。


いつもの明るく元気な声じゃない、小さくか細い、震えてる声。


『お爺ちゃんが…っ、…おじぃちゃ、……んじゃっ、…』


ーーお爺ちゃんが、死んじゃったーー





後日行われたお葬式は、とても簡素なものだった。

店主さんの奥さんは大分前に亡くなっていて、親戚もほとんど居らず、早苗ちゃんのお母さんが喪主を務めた。

参列したのは商店街や近所の人達。私みたいなお店の常連客。皆静かに黙祷し、言葉少なに帰っていった。


「早苗ちゃん」

「しょうこちゃん」


俯きっぱなしの早苗ちゃんに声をかければ、ゆっくりと顔をあげてくれた。

真っ赤に泣き腫らした目に涙を浮かべて、寝れていないのか、隈ができた下まぶたは擦ったせいで赤黒く見える。

声を出さないようにしていたのか、唇は噛み締めた形に血が滲んで痛そう。


何も、掛けてあげられる言葉なんて、無かった。

何か伝えたくて、でも何を言っても上辺だけになりそうで……

早苗ちゃんを、ぎゅっと抱き締めた。


「っ、……ふ、ぅぇ……っ、う゛え゛ぇぇぇんっ お゛ぢぃちゃ~んっ」


早苗ちゃんは、私にしがみついて泣き続けた。

声を押し殺すことなく泣き叫ぶ早苗ちゃん。凄く痛々しくて、店主さんが大好きなのが伝わってきて、私も一緒に泣いてしまった。


「………ありがと、晶子ちゃん」

「うん………」


しばらく抱き締めあって、段々落ち着いてきた早苗ちゃん。

腕を解いて顔をあげた早苗ちゃん。声は掠れてがらがらで、目も頬も泣いたせいで真っ赤になってる。

でも、少しはスッキリしたのか恥ずかしいのか、ほんのちょっとだけ、笑顔になってくれた。





「はぁ……」


夜。

自室の机に広げたメモ用紙を見ながらため息が出た。

中学生になるから、と一人部屋を貰って広くなった部屋。

光希の部屋との仕切りの壁をチラリと見て、またメモ用紙に視線を落とす。


二回目の人生。自分の知っている限りの出来事。

どうにか変えたいと、書き出した汚い走り書きのメモ。変えたいと、変えようとして行動も、行動範囲も友達も、出来うるかぎり変えて、増やして。

そうして初めての、変えてしまったがための、新しい、知り合いの死。


店主さんの死因は老衰。

最期はとても穏やかな表情で、自宅で、眠ったまま逝ったのだろう。と聞いた。

多分これは、どう足掻こうとも変えられなかっただろう。

でも、早苗ちゃんのことを考えると、どうにかしたかったと思ってしまう。


「自分勝手、だなぁ」


やるせないってこういうことかな。

深いため息が出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ