もどかしい
『もしもし、晶子ちゃん?』
「早苗ちゃん? どうしたの?」
春休みもあと数日。
家でのんびりしていたら、早苗ちゃんから電話がきた。
いつもの明るく元気な声じゃない、小さくか細い、震えてる声。
『お爺ちゃんが…っ、…おじぃちゃ、……んじゃっ、…』
ーーお爺ちゃんが、死んじゃったーー
後日行われたお葬式は、とても簡素なものだった。
店主さんの奥さんは大分前に亡くなっていて、親戚もほとんど居らず、早苗ちゃんのお母さんが喪主を務めた。
参列したのは商店街や近所の人達。私みたいなお店の常連客。皆静かに黙祷し、言葉少なに帰っていった。
「早苗ちゃん」
「しょうこちゃん」
俯きっぱなしの早苗ちゃんに声をかければ、ゆっくりと顔をあげてくれた。
真っ赤に泣き腫らした目に涙を浮かべて、寝れていないのか、隈ができた下まぶたは擦ったせいで赤黒く見える。
声を出さないようにしていたのか、唇は噛み締めた形に血が滲んで痛そう。
何も、掛けてあげられる言葉なんて、無かった。
何か伝えたくて、でも何を言っても上辺だけになりそうで……
早苗ちゃんを、ぎゅっと抱き締めた。
「っ、……ふ、ぅぇ……っ、う゛え゛ぇぇぇんっ お゛ぢぃちゃ~んっ」
早苗ちゃんは、私にしがみついて泣き続けた。
声を押し殺すことなく泣き叫ぶ早苗ちゃん。凄く痛々しくて、店主さんが大好きなのが伝わってきて、私も一緒に泣いてしまった。
「………ありがと、晶子ちゃん」
「うん………」
しばらく抱き締めあって、段々落ち着いてきた早苗ちゃん。
腕を解いて顔をあげた早苗ちゃん。声は掠れてがらがらで、目も頬も泣いたせいで真っ赤になってる。
でも、少しはスッキリしたのか恥ずかしいのか、ほんのちょっとだけ、笑顔になってくれた。
「はぁ……」
夜。
自室の机に広げたメモ用紙を見ながらため息が出た。
中学生になるから、と一人部屋を貰って広くなった部屋。
光希の部屋との仕切りの壁をチラリと見て、またメモ用紙に視線を落とす。
二回目の人生。自分の知っている限りの出来事。
どうにか変えたいと、書き出した汚い走り書きのメモ。変えたいと、変えようとして行動も、行動範囲も友達も、出来うるかぎり変えて、増やして。
そうして初めての、変えてしまったがための、新しい、知り合いの死。
店主さんの死因は老衰。
最期はとても穏やかな表情で、自宅で、眠ったまま逝ったのだろう。と聞いた。
多分これは、どう足掻こうとも変えられなかっただろう。
でも、早苗ちゃんのことを考えると、どうにかしたかったと思ってしまう。
「自分勝手、だなぁ」
やるせないってこういうことかな。
深いため息が出た。