強引でした
ひと棚ずつ見ていくと、一番下の棚に目当ての本を見つけた。
シリーズ名を確認して、背表紙を開いて何番目の本か確認。どうやら読み終わった本の次の次のものらしい。
「う~ん…」
ない。
お父さんが買ったのは一巻目。私が欲しいのは、二巻。ここには三巻からしか置いてない。
「残念。置いてないみたい」
隣の棚を見ていた亮くんに言えば、他の本屋に行ってみるか?と聞かれた。それも良いけど、他に本屋さんは駅前まで行かなきゃいけない。
結構歩くんだよね。時間も微妙かなぁ。
仕方ないからお父さんに頼もうかな。
あんまり遅くなると、お母さん心配するし。
「探し物?」
「え?」
帰ろうか。と亮くんに言おうとしたら、後ろから声を掛けられた。
ビクッとなりながら振り返ると、棚から顔を覗かせてる女の子がこっちを見て笑っていた。
「っ、………」
「ごめんね、おどろかせた?」
女の子を見たまま固まった私に、女の子はクスクス笑って私の正面まで出てきた。
亮くんは何故か私の手を握っています。なぜだ?
「私、高柳早苗って言うの。このお店、おじいちゃんがやってるのよ」
「ぁ、私は、神代晶子。あの、欲しかったのが、無かったのよ」
にこにこと話す高柳さんに、若干気圧されながら帰ろうとしたことを告げると、注文出来るよ。と亮くんに繋がれていない方の腕を取られ、何か言う前にカウンターまで連れていかれた。
……あれ、こんなアクティブな性格だったっけ?
「おじーちゃーんっ」
記憶にある印象との違いに困惑していたら、大きな声で店主さんを呼ばれてしまった。
いくら他にお客さんが居ないからって、そんな大きな声出さなくっても…。
「早苗? どうしたんだい」
「おじいちゃん、この子の欲しい本無かったんだって。注文してあげて?」
奥の部屋から出てきた店主さんと、高柳さんがどんどん話を進めていき、いつの間にか注文書に名前を書いてる私がいました。
見事な手腕と連携プレーでした。
改めて店主さんに自己紹介をして、高柳さんを早苗ちゃんと呼ぶことになり、早苗ちゃんも私を晶子ちゃんと呼ぶようになった。
何故か亮くんは桑崎くんのまま。早苗ちゃんの表情が…なんか、ここでも誤解が……
はっ! ずっと手を繋いだ状態だった!
「じゃあ入ったら電話するので、お母さん達に言っておいてね」
「はい、ありがとうございます」
「晶子ちゃん、今度は遊ぼうね」
「うん」
注文書の控えを受け取りお辞儀をして店を出る。
このまま遊ぼうと早苗ちゃんに誘われたけど、本屋に行くとしかお母さんに言ってないので止めておいた。
入荷連絡のときに、来る日を決めてその日に遊ぶ約束をする。
早苗ちゃんと店主さんに手を振り、亮くんと商店街を歩く。
4時を過ぎたからか、お総菜の匂いが漂っていて、ちょっとお腹減ってきた。
でも今食べると夕飯が……。それに、おやつ買ったら本のお金が無くなっちゃうので、がまんですね。
「…………」
「? どうした?」
「…ううん、何でもない」
一体いつまで手を繋いでいるのか。
自然に離そうとすると力が込められるのよ。どうしてかなぁ?
迷子になるとでも思われてる? いやでも。
聞きたいけど、亮くんが心なしか機嫌が良いような気がするので言いにくい。
結局、私の家まで繋いだ手をブラブラしながら帰りました。