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桑崎亮太

亮くん視点。

だが三人称。難しいです


「……良かったな。間に合って」


晶子の家から再発進したタクシーの中、敦は独り言のように、ふぅ、と息を吐きながら呟いた。

亮太はそれにこくりと首肯だけ返して、窓の外に顔を向けた。


晶子が、何かに怯えていたのを、数年前から知っていた。


小学一年の終わり頃、雪が降りそうな暗い夕方。授業が終わった後に教室に残っていた晶子に帰らないのか、と声を掛けた。

ゆっくりと顔を上げた晶子に、亮太は驚いた。

真っ青な顔色、表情が抜け落ちたように無表情で、目が死んでいるという言葉の意味がよく分かる、なんとも言えない顔をしていた。


一体どうしたんだ。

心配になり再度呼び掛ければ、晶子の顔がくしゃりと歪み、涙が溢れだした。

顔を覆い泣きじゃくる晶子は、独り言のように、無意識に溢すように支離滅裂な言葉を呟いていた。


「光希が、早く、しないと…っ、殺されっ…あた……じゃなっ、…早く、はやくっ…」


多分、亮太に聞かせるつもりはなかったのだろう。

なんとか聞き取れた言葉を繋げれば、

光希は三年後の夏休みに殺される。

となった。


それ以外はきちんとした言葉になっておらず、呻くような嗚咽に変わった。

亮太はなんとかしようと晶子を抱き締め宥めて泣き止ませ、家まで送っていった。


その日以来、時々晶子は時々思い出したように泣き出す。周りに誰も居なくなると我慢が出来なくなるのだろう。表情が抜け落ちる瞬間を見ることもあった。

亮太は、なぜ晶子がそんなことを言い出したのか、本当に光希が殺されるのか疑問だらけだったが、晶子がそんな嘘をつくとは思えないし、嘘だったらこんな風に取り乱したりはしないだろうと、晶子の溢す言葉を聞き逃さないよう必死だった。


暫くすると、晶子はいつも通りに戻った。

泣いている時の記憶は曖昧になっているのか、亮太に何か言うこともなく普通に接してくるし、ぼうっと物思いに耽ることも無くなっていった。


だが、亮太は晶子の言葉と表情、涙を忘れることが出来ず、晶子の様子を注意深く見るようになった。

光希の様子も気にかけ、遊ぶ日も増えたし、色々な話を聞き考えた。





四年生。

晶子の言っていた、`三年後´がきた。

亮太は晶子の様子をじっと見守った。

夏休みに入る前に、晶子のピアノ教室の日も聞き、光希の予定も他愛ない話をするように聞いた。

そして、八月のある日に見当をつけた。


亮太はちょうど家にいた兄の敦を適当な言い訳で少し強引に連れ出し、様子を見に行こうと晶子の家へ向かった時。

住宅街に不自然な音が響いた。


「っ!!」

「亮太!?」


咄嗟に駆け出した亮太を、敦は慌てて追いかけた。

路地を曲がり、晶子の家の前の通りへでると、音が一層大きくなった。


「晶子!!」


見知らぬ男に、押し倒され背中を踏まれている晶子。男の振り上げた手に、光るナイフが見えた。


叫び、走り寄ろうとした亮太の横を、事態に気付いた敦が駆け抜けていった。

すぐに捕らえられた男。痛そうな表情の晶子に、亮太は混乱しながらも、晶子に駆け寄った。


その後すぐに警察と救急車がつき、亮太と敦も晶子に付き添い病院へ向かった。

乗せられた救急車の中、処置を受ける晶子を見守りながらも、亮太の頭ではぐるぐると疑問が回る。


なぜ、晶子がナイフを向けられていたのか。光希が危険なのではなかったのか。


誰にも、晶子自身へも聞くことの出来ない疑問。


まだ安心は出来ないのか。光希の危険はこれからなのか。


とりあえずは、数日は晶子は通院する。きっと光希も一緒だろう。


「落ち着いたら、改めてお見舞い行こうか」

「うん、そうする」


気落ちしているように見える亮太にそう話しかけた敦に、亮太は頷き、一緒に行って欲しい。と頼んだ。

亮太だけでは、大人の男には対抗できないと思った。


光希への心配と晶子への思いやりで、亮太は夏休み中、晶子の家に入り浸るようになった。

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