この男だ!!
「*」印をつける程ではありませんが、ここから二話分、少しですが残酷表現が入ります。
流血表現がなくてもダメだと言う方は二話次話の冒頭のみ、目を通せばざっくり分かります。
のろのろと立ち上がり、カバンを片付けるために二階へ行く。
何か飲もうかな、と階段を降りている時に、玄関がカチャリと音を立てた。
そういえば、急いでいて鍵を掛けてなかったな。
誰か帰ってきたのかと階段を降りながら見ていたら、ゆっくり開いた玄関の外、見たことのない男の人が、いた。
「っ!」
目があった瞬間、一気に記憶が甦った。
あいつだ! あいつが、殺した! 光希を殺した!
ニュースになった。割りとすぐに捕まった犯人。
捕まった時も、裁判でも、反省の色はなく、終始ニヤニヤと笑っていたと、ニュースキャスターが言っていた。
動機はありふれた、むしゃくしゃしていたから。
「っ」
男は、私を見詰めながら、ニヤリ、といやな笑顔を浮かべた。
私は弾かれたように走り出した。
階段脇を抜けてリビングの奥へ。キッチンの横にある御勝手口を目指す。
男は歩いているのか、靴がフローリングを打つカツンカツンとした音がゆっくり聞こえた。
足音は直ぐに近付き、リビングのドアを閉めようとした私の腕を掴まえてきた。
「イヤっ!」
子供だとあまり力を入れていなかったのか、引き抜くように振ったら手が離れた。
すぐに走り出し、キッチンに逃げる。
御勝手口のドアは二重鍵になってる。
ガチャガチャと慌てて鍵を開く。
「あいてっ早くっ、はやくっ」
手が滑って上手くいかない。
男はニヤニヤと笑いながら、私を眺めている。
ゆっくりと、焦らすように歩いてくる。
まるで私が逃げられないんだと、そう決まっているかのよう。嫌な汗が出てきた。
「っ、っ……、っ!」
開いた!!
カチャン、と軽い音を立てて外れた鍵。体当たりする勢いでドアを開いて、転がるように飛び出した。
「っ、のガキっ」
「ひっ」
外に出れば、背後から唸るような男の声が聞こえた。
悪寒が背筋を走る固まりそうになる体を叱咤して走る。
逃げなきゃ。人の沢山いる場所。商店街は遠い。公園は子供ばかりだからダメ。
「…そうだ、」
スカートのウエストに手を伸ばす。
手に触れた防犯ブザー。光希の入学祝いに、お揃いで買ったやつ。
外そうとしたけど、手が震えてる。多分落とす。
スカートにつけたまま、紐を思い切り引っ張った。
「っ!」
ビーッと大きな音が立つ。
スカートについたままだから耳が痛い。
我慢して、音が鳴っている状態のまま走り出す。
すぐに男に追い付かれ、背中を押されて倒された。
倒れた私の背を、男が踏んだ。
「はははっ」
笑い声がした。パチン、と何か音がして、踏まれた背が軋む。
「っ、」
「晶子!!」
もうダメ。
ギュッと目を閉じた私の耳に、馴染んだ声が聞こえた。
え、と目を開くより前に、背を踏んでいた足が、痛みが消える。
同時に何か鈍い音がして、男が呻いたのか、くぐもった声がする。
「晶子」
「りょ、うくん…? ぇ…」
顔を上げると、亮くんが眉間に皺を寄せ、心配そうに私を覗き込んでる。
亮くんに支えられて起き上がろうとしたら背中がズキンと痛む。
痛みで顔をしかめると、亮くんまで痛そうな顔をした。
「……えー、と? …」
男は。と後ろを振り返ると、柔道かなにかの絞め技? をかけられもがいている男と、技をかけて眉間に皺を寄せている少年? がいた。
少年は隣で私を支えてくれている亮くんそっくりなんですが。
というか、誰か説明を下さい。