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から、とあめと歯が当たって音がする。
抱えた紙袋には、買った児童書がちゃんと入ってる。
「ふふ、夢じゃない」
不思議な達成感? 満足感? に浸って、思わず呟いてしまった。
さて、あんまり遅くなっても心配かけるし、そろそろ帰ろう。
帰る方へ視線を向ける時、視界に入った人にふと意識がいく。
同じ歳くらいの女の子。クラスの子じゃないし、ピアノ教室で見たことない。知ってる子ではないはずなんだけど、妙な既視感。
だれだっけ……?
思い出せそうで思い出せないなぁ、と首を傾げてる間に、女の子は私の横を通り抜け、私が出てきたばかりの店に入っていく。
「ただいま~。おじぃちゃ~んっ」
「おかえり、さなえ」
…っ! ………さなえ、って………
思い出した……
中学からの同級生。高校も一緒だった……
…あの子、は………
そこから、どう帰ったのか記憶にない。
しばらく固まっていて、自転車が横を通り抜けるのに気づいて動き出したのは、覚えてる。
多分そのまま帰ってきたんだと思う。
気づけば夕飯を食べながら、光希に呼ばれていた。
「お姉ちゃん、きいてる?」
「ぁ、ごめんごめん。ぼーっとしてたわ」
「もぅっ」
腕を揺すられて慌てて返事をすれば、光希はぷくっと頬を膨らませて怒る。
ごめんね、と更に謝ると、お父さんが苦笑しながら話題を引き継いだ。
「はは、光希はお姉ちゃんに一番に聞いて欲しかったんだもんな」
なんと、光希は少年野球を始めるらしい。
ここ最近、休日にお父さんと二人でちょくちょく出掛けていたのは、何のスポーツをしようかと色々見学に行っていたかららしい。
「野球? 亮くんと一緒の剣道とかじゃなくて?」
「それも考えたんだが、桑崎君のお父さんの道場少し遠いだろう? 送り迎えが絶対出来るってわけじゃないからな」
不思議に思って聞けば、お父さんに苦笑を返された。
まぁ確かに、亮くんちは遠いか。
光希は野球のルールを知らないはずなんだけど、その辺はまぁ追々、とのこと。
最初のうちは体力作りとボール遊びが主になるのかな?
お父さんと光希はキャッチボールを楽しみにしてるらしく、ご飯を何時もより早く食べ終わると早速庭に出ていった。
元気ですね。
「はぁ~……」
今日はビックリしたわ。
まさかさなえさん…高柳早苗さんを見掛けるとは思わなかった。
「よく思い出したな、私」
ほとんど話したことも、関わりもなかったのに…
まぁ、それだけ印象的だったというか、衝撃が強かったんだけどね。
「光希だけじゃなく、あの子も…なんとか、したい……」
目を閉じたら、今日見たばかりの、記憶よりも大分幼い、けれど面影のあった、一度も見たことのなかった笑顔が思い出された。