とある休日
亮くんに申し訳ないくらい、噂が広がっている気がする。
一応言っておこう、と亮くんに謝ったら、そうか。で終わっちゃったけどね。ちょっと心が広すぎないかい?
「いってきま~す」
まぁ、亮くんのことはひとまず置いておいて。
私は一人で本屋さんへお出掛けです。
光希はお父さんと朝から何処かに行ってるみたい。最近二人でよく出ていくけど、何か買って帰ってくる訳でもないし、何してるんだろう?
お昼ご飯を食べた後は、お母さんは近所の友達を呼んでミシンやら布やらを広げ出した。
お母さん達に一緒にやるか聞かれたけど、私は不器用です。裁縫は雑巾が作れるくらいなんだよね。
なので、散歩と称して本屋さんへ行くのよ。
「ふんふんふ~。とうちゃっく!」
商店街の端にある、小さな本屋さん。
ショッピングモールに入ってる大きな本屋さんも行きたいけど、個人経営のひっそりこじんまりした感じも素敵だよね。
カラカラ、と軽い音を立ててガラスの引き戸を開いて入っていく。
「ふぁぁ……」
別・世・界!!
天上近くまである高さの本棚が、人が二人すれ違えるかどうかの感覚で入口から奥まで並んでる。
入口以外は壁全面本棚だし、本が焼けないようにか、窓も細長いものが奥のカウンターから更に奥の、部屋? に一ヶ所あるだけでちょっと薄暗い店内です。
私の少ない語彙ではちゃんと表現出来ないけど、とにかく素敵です。ノスタルジックというものですねっ。
興奮しながら、本棚を見上げて歩く。
凄い。児童書や参考書、漫画まで、なんか素敵なものに見えてくる本屋さんマジック!!
絵本が高級品に思えてきた。手にとって良いの? 触ったら怒られない?
「いらっしゃい」
「ふぁっ!?」
戸惑いながら手を伸ばして本を触ろうとしたら、真後ろから声を掛けられた。
凄く間抜けな声が出たわ。ビクッて、文字通り飛び上がった気がします。
「あっ、お、おじゃましてます…?」
「ふふ、ごゆっくりどうぞ」
恥ずかしいしびっくりしたし、驚きすぎて情けないしで、おかしなことを言いながら振り返ってお辞儀をしてしまった。
挙動不審な私にふわりと笑って頭を撫でてくれたのは、店主さんと思われるお爺さんでした。
手に取って色々読んで、気に入るのがあると良いね。とお爺さんは笑って奥のカウンターへ行ってしまった。
うん。つまりは触って良いということですね!
私はさっそく本棚に向き直って気になった本に手を伸ばした。
「…………」
………はっ!
つい夢中になって本を読んでしまった。
というか、一冊まるっと読み終わってしまった。
これじゃあただの迷惑な客だわ。いけないいけない。
私は今読み終わったばかりの児童書を抱え直して奥のカウンターに歩いていく。
ふっふ~ん。ちゃんとお金持ってきたもんね!
コツコツと貯めたお小遣いに、お手伝いで時々貰ったお駄賃が、総額千円越えました!!
小三で千円は大金だよね。貯まったのに気付いた時感動したもの。
「これ、ください」
レジスターが置いてあるカウンターに児童書をのせる。後ろから見たタンスみたいな、木のカウンターにレジスターって、なんか違和感ありますね。しかもいるのはお爺さんだよ。
「おや、気に入ったものが見つかったかい?」
「はいっ、おうちで弟と読みます!」
優しく微笑まれて、私も笑い返して言えば、お爺さんはそれは良かった。とうんうん頷き、本をレジに通してくれた。
「890円になります」
「ん、と……はい」
「900円のお預り……10円お返しです。ありがとう」
百円玉ばっかりでごめんね、お爺さん。
お釣りを貰った時に、オマケだとあめ玉を貰っちゃった。
小学生だから遠慮はしないよっ! しっかりお礼を言って、さっそくあめを口に含む。イチゴですね。
「ありがとうございました。また来ますっ」
「はい、いつでもいらっしゃい」
ばいばいと手を振りつつ店から出る。
うん、現実に帰ってきたって感じがする。まるで夢の中みたいだったわ、全然雰囲気が違うもの。