全ての、告白
`前の人生´
光希が殺され、両親が離婚し、何となくで流されて適当に生きてきた。
特に何かに打ち込むことなく、平均値が出せれば良いか、と思ってた。
同級生のイジメも自殺も、どこか遠くの出来事だった。
……なぁんてことを、微に入り細に入り説明させられて、最後に、私が死ぬ時のことを説明したら、亮くんの眉がピクリと上がった。
器用ですね…
「……で、バイトが終わった後にアパートに帰ってる途中で、車…多分トラック? にひかれたっぽいです…」
「…バイト?」
「あ、うん。大学に入ってから始めたの、居酒屋さん」
「居酒屋? …アパートってのは?」
「駅前の居酒屋さん。やっぱ深夜帯の方が時給良かったし。アパートは、私独り暮らししてて……」
「…深夜…独り暮らし…」
これで全部かな? …うん、全部説明したね。
ひとりうんうんと頷いていたら、亮くんにガシッと両肩を掴まれました。
「晶子、お前が死ぬことは、有り得ない」
「……え?」
「考えてみろ。居酒屋の、しかも深夜帯のバイトなんて、俺が許すと思うか?」
「………あ、」
「独り暮らし? 俺はもちろん、光希が首を縦に振るわけないよな?」
「ぉおぅ…」
た、確かに。
亮くんや光希、それにもしかしたらお父さんだって、深夜のバイトなんて良いって言うわけないわ。
しかも居酒屋。酔っ払い客が沢山居たしなぁ。
独り暮らしも、お母さんは良いって…あ、言わないわ。百歩譲って、誰かと一緒に暮らすんならオッケーって感じ?
しかも多分、隣の部屋に亮くんとか居ないとダメそうだわ。
「な? 晶子がその居酒屋にバイトに行くことは有り得ない。つまり、深夜に車にひかれるなんてこと、有り得ない訳だ」
「いやでも、」
「晶子。死ぬことが決まってるって言っていたが、じゃあ光希は? 生きてるじゃないか。お前が光希の運命を変えたように、お前自身の人生だって、いくらでも`前´とは違うものに出来るんだ」
解るな? と見詰められる。
確かに。光希の死を回避した時点で、`前の人生´とは全く違うものになってしまっている。
早苗ちゃんに会うことも、かなちゃんや由紀乃ちゃん、長谷部君とこんなに仲良くはなっていなかった。
じゃあ……
「…じゃあ、私…死ななくても、良いの? ……将来の夢、とか…考えても、良いの?」
「勿論」
「…っ、」
亮くんにはっきり頷かれて、視界が歪んだ。
喉が勝手に震える。唇が震える。
ボロ、と涙が溢れて、しゃくりあげる声が止まらない。
亮くんに抱き締められた。優しく背中や頭を撫でられて、気が付けば亮くんにしがみつきながら思いきり泣いてしまいました。
「……ぐすっ…、ん」
「……落ち着いたか?」
「ん、ありがと亮くん」
恥ずかしい。顔が上げられません。
涙は止まりましたが、未だ亮くんに引っ付いて顔を見られないようにしています。
背中をポンポンされながら、亮くんが笑ってるのを感じます。
あぁ、亮くんのシャツが私の涙で結構酷いことに…は、鼻水ついてないよね? 大丈夫だよね?
うぅぅ……ここからどうしよう? 顔を上げたくないけど、何時までも引っ付いてるのも恥ずかしいよね?
あぁ、そういえば、亮くんは私のことが好きって………。
「…っ!!」
うぎゃあっ!
ま、マジでどうしよう!?
言われた言葉とか今この状態だとか色々自覚して固まってしまいました。
硬直した私に気付いたのか、亮くんが頭を軽く撫でてから、肩に手を置いて私を剥がそうとします。
離れてなるものか!
引っ付いてるのも恥ずかしいが、顔を見られるのも亮くんの顔を見るのも恥ずかしい!
グググ、と抵抗を試みるも、簡単に剥がされてしまいました。
亮くんに顔を覗き込まれる。私今顔真っ赤だよ絶対。ついでに涙で顔ぐちゃぐちゃです。
ティッシュ、ティッシュを下さい。鼻水だけでも確認させて。
「……晶子。俺はお前が好きだ。俺と一緒に、生きてくれ」
「………はい」
亮くんが微笑みながら、静かに言ってくれた。
`生きて´。
それはずっと前に諦めた言葉。
誰にも相談できず、独りで考えて、飲み込んだ望み。
本当はずっと、欲しかった未来。
私の本当の後悔は、自分が死んでしまったこと。
亮くんはその言葉をくれる。望みを叶えてくれる。未来を、一緒に歩んでくれる。
私の最大の後悔を、潰してくれる。
「私も、亮くんが大好きよ」
「当たり前だ」
無意識に押し込んで閉じ込めていた気持ち。生まれる前に無視して無かったものとしていた、亮くんへの本当の気持ち。
小さな声で呟いたら、亮くんがふっ、と何時ものように笑って頷いてくれました。