ごめん、かなちゃん……いや、マジで。
「じゃあまぁ、とりあえずは俺が壁になってればいいんだよな?」
「そうだな。流石に部活動中に常に一緒にいることは不可能だからな」
「恵太兄が、かな姉を迎えに行って、テニス部に顔とか覚えさせればいいんじゃないかな?」
「分かった! 明日から行き帰りはなるべく一緒に行動するな」
長谷部君がうちへ来たあと、少しの話し合いの末に、一日の大半を一緒に過ごしていれば良い。という結論になったようです。
二人は同じクラスなので、休憩時間や教室移動時、お昼休みは一緒にいることが可能です。選択授業が違うのでそこは仕方なし、となりましたが。
部活の後輩やらに対しては、部活終わりに部室まで迎えに行って、部員さん達にかなちゃんのとなりには長谷部君。という図式を刷り込むようです。
まさに周りから固めるって作戦です。
……私が報告したせいなんだけど、かなちゃんに彼氏が出来る日は来るのだろうか?
そんな疑問をぽつりと漏らせば、三人に不思議そうな顔をされました。
「だって野崎が欲しいっていってるのは『彼氏』だろ? 『彼氏が欲しい』なんて言ってるうちは、邪魔するぞ」
「えー、じゃあかなちゃんと付き合いますって男子がいたらどうするの? 付き合うの反対するの?」
「「「もちろん」」」
うわぁ…三人の声が揃っちゃったよ。
流石にかなちゃんが可哀想。
「姉ちゃん。かな姉は『彼氏』が欲しいんだよ? 『好きな人』が出来た訳じゃないんだよ? かな姉の『好きな人』が『彼氏』になる訳じゃないんだよ?」
「…あ~…なるほどぉ」
光希に噛み砕いて説明され、やっと理解しました。
ただ漠然と彼氏が欲しいって言ってるうちは、作らせる気はないと。
好きな人が出来て、その人と付き合いたいとかなら、協力するのね?
「ははは。まずはソイツのことを調べるぞ」
「最低でも一度会ってみないとな」
「しっかり確認しなくちゃね」
「あ、はい……」
粗を探して突き付けてぶっ潰す。って聞こえるの、私だけかなぁ…
……なんか、ごめんね。かなちゃん……
話はちょっと変わりますが、なんと!
光希と早苗ちゃんが、正式 (?)に付き合い始めました!
今年は光希が受験なんですが、これで心置き無く勉強が出来るとか言ってましたよ。
早苗ちゃんに告白‐むしろおばさんもいたし、プロポーズになっていたらしい‐をオッケーして貰ったと、夕食時に発表されまして。
家族プラス亮くんで御祝いしました。
「ご飯作る前に言ってくれれば、もっと豪華な食事になったのに…」
「ごめん、言うの忘れてたわ」
弟のてへぺろは可愛くないよ。
まぁ付き合うことになったとは言っても、光希はちょくちょく早苗ちゃんの家に行ってるし、電話も毎日しているので、特に変わったことは無いらしいです。
きちんと (?)彼氏面出来るようになったくらいかな?
「早苗ちゃんがお嫁に来てくれるのね~。……あら? でも早苗ちゃんはお母さんと二人暮らしよね? 光希がお婿に行くのかしら?」
「そうだな。早苗ちゃんのお母さんが望むなら、光希が婿入りした方が良いな」
「ん~、そこはまだ聞いてないからなぁ」
……なんか既に結婚についての話になってる。
お付き合いイコール、結婚なんですか? 結婚なんですね?
…………、早苗ちゃんが義妹になるのか。……ありかな。うん、ありですね。
「結婚式は和装が良いなぁ。早苗ちゃんに白無垢着せたいです!」
「あら~、ドレスの方が華やかよ~」
「早苗ちゃんには和装が似合うって!」
「そうだけど~。ドレス姿も見たいわ~。それに、光希に羽織袴が似合うと思う?」
……光希には和装が似合わないわぁ。
式は洋装、和装は写真だけってことになりました。
………しかし、そっかぁ。
光希と早苗ちゃんが付き合うのかぁ。
多分、もう、早苗ちゃんの自殺はない、かな……。
もちろん完全に無いとは言い切れないけれど、早苗ちゃんにもしも悩み事や心配事があるなら、光希が気付くと思うし、早苗ちゃんからも頼ってくると思う。
それに、学校での様子も、クラスが違うから絶対とは言えないけど、楽しそうだし。
早苗ちゃん、この前また美術展で入賞してたんだよね。
その絵を見せて貰ったけれど、とても素敵な絵でした。
朝陽が水平線から出る瞬間の絵。
夜の暗い空が紫色から赤、黄色、白へと徐々に明るくなるのと、朝陽を反射して一本の光の道を描く海。
そして、海辺に佇む二人の人影。
人影は誰だろ? と思って尋ねたら、誰か。と笑顔で言われました。
自分と母親でもあり、自分と友達でもあり、友達二人でもあり……。
見る人が、絵の中に大切な`誰か´を見つけてくれたら、それがこの絵の人物なんだよ。と語ってくれました。
夏休み明けから、何度も描き直しながら出来上がったという早苗ちゃんの絵。
見てると何となく明るい気持ちとか、前向きな気持ちになれる絵。
あの絵を描ける早苗ちゃんに、自殺の影は見えませんでした。
だから、多分……
私の`後悔´は、全て終わりました。