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* 高柳早苗 *

印をつけるほどではないとは思いますが、念のため。

夏休み最後の日曜日です。

課題は全部やったし、学校の準備も完璧に終わったから、新しいスケッチブックを買いに行ってきた。

暑いからあんまり外を出歩きたくないから、さっさと帰ってきた。


「早苗ちゃん」

「ん? あ、光希君」


商店街に入った所で、後ろから光希君に声を掛けられた。

私服だね、聞けば、今日は部活はなかったらしい。


「姉ちゃんがシフォンケーキ作ったから、持ってきた。確か今日、おばさん早上がりだったよね?」

「シフォンケーキ? ありがとー。晶子ちゃんのお菓子美味しいから好きー」


光希君が持ってた紙袋を揺らしながら言った言葉に、ついついにやにやしてしまう。晶子ちゃんは料理もお菓子作りも上手なのよね~。

羨ましい。


光希君と二人で、私の家へ向かいます。

夕方になってきても、まだ外は暑い。でも今日は風があるから、まだ涼しいかな。


「…高柳早苗?」

「はい?」


家まであと少しって所で、知らない女の子に名前を呼ばれた。

私よりも年下っぽい女の子。多分、小学生…か、中学一年くらい?

腕を前で組んで、仁王立ちで私を見てる。


「…早苗ちゃん、知ってる子?」

「う~ん…知らない…」


光希君がこそっと聞いてくるのに、首を傾げながら答えた。

良く良く見ても、記憶にないなぁ。誰だろう?


その子は私をジロジロ見ると、フンッと鼻で笑った。


「ちょっと可愛いかもだけど、私に比べたら全然ね。やっぱりパパは私だけのパパよ、あんたなんかちっとも愛されてないわ」


……何を、言ってるんだろう?

ううん。今の言葉で、大体解った。

多分、この子、`お父さん´の子供だわ。


「っ…な、に…」

「なぁにその顔。ちっとも聞いてないみたいね。私のパパにちょっと優しくされたくらいでいい気にでもなってたの? 私のパパには、ママがいるの。ママと私とお兄ちゃんだけが家族なの。あんたやあんたのママなんて、パパが本気で好きになったとでも思ってたの?」


ヒュッ、と喉が鳴った。

言葉が出てこない。


そうだ……

お父さんは、`お父さん´じゃなかった……

私は、`家族´じゃない……愛されてなんか、なかっ……


「……こうき、くん……」

「大丈夫」


`あの絵´みたいに、目の前が暗くなりそうになった。

フラ、と揺らいだ体を、光希君がぐっと肩を抱いてくれた。

見上げれば力強い目とかち合う。


あぁ、何だか安心する。


「……早苗ちゃんを傷つけた。アレ、要らないよね?」


安心しちゃダメだった!

にっこり笑った光希君は、一見笑顔なんだけど、目が笑ってない!

これダメなやつ!


「あ! あなたが誰だか知らないけど、今後一切私達の前に現れないで!」


危険だからっ! あなたが!


とりあえず、まだなんか言ってるけど無視!

私の主張 (?)だけして光希君の腕をつかんで、家までダッシュした。






「ぜーっ、ぜーっ……はぁ、はぁ~…」


全速力ツラい。

そして光希君は息一つ乱れてない。なんか理不尽だわ。


「大丈夫、早苗ちゃん?」

「…だいじょ、ぶ…」


心配そうに背中さすってくれるけど、原因光希君だからね。

本当、なんかヤバイ気がしたのよ?

ジトリと光希君を見上げれば、光希君は肩を竦めるようにして苦笑した。


「早苗? どうしたのそんなにゼィゼィ言って」

「お母さん…」

「あ、おばさん。これ姉ちゃんから。シフォンケーキ、上手くいったから」

「まぁ、ありがとう。光希君も寄っていくでしょう? さ、上がって」


光希君に一言言おうとしたら、お母さんがお店から出てきた。

仕事が終わって帰ろうとしたら私達が見えたみたいで、店側のドアから出てきたらしい。

光希君に言いたいことが、色々、あったのに……

お母さんのせいでひっこんじゃったじゃない。

さっきの子のことは、お母さんには言わない方がいいと思うし…

タイミング無くしたわ。


お母さんと光希君が先に歩いていっちゃったから、慌てて後を追う。

玄関に私が入る頃には、既にお母さんがケーキをお皿に乗せようとしてた。

行動が素早すぎない?


「はぁ~、晶子ちゃんのお菓子美味しいわ~。料理も上手いし、良いお嫁さんになるわね~」

「…私の料理下手はお母さんの遺伝だからね……」

「え~、お母さんはキチンと平均的な味に仕上げれるわよ~。早苗のは、絶妙に微妙な味じゃない」

「ぅグゥ…言い返せない」


晶子ちゃんのシフォンケーキ、美味しい。

ふぁっふぁ! な生地で、口の中でほわりとほどけてふんわりバニラの良い匂い。

私の料理なぁ、ちゃんとレシピ通り作ってる筈なのに思ってるのと違う味になるんだよなぁ。

何でかなぁ?


「うぅん……晶子ちゃんに料理を教わるべきか、晶子ちゃんを嫁に貰うべきか……」

「早苗ちゃん。姉ちゃん程じゃないけど俺も料理出来るから大丈夫」

「ふぁっ!?」


何を言い出すの光希君!?

お母さん、あらじゃあ安心ね。じゃないよっ

何その生温なまぬるい笑顔! こっち見てニヤニヤしないで!


「………」

「早苗ちゃん?」

「ぁぅ…そ、掃除と洗濯は、ちゃんと出来るもん…」


光希君からにっこり笑顔の圧力が……

いやまぁ、別にね? 光希君が嫌とかじゃ、なくてね?

……何で告白とかカレカノすっ飛ばして、生活での役割分担を話してるの、私達……

しかもお母さんも巻き込んで……


「光希君は長男なのよね~、早苗がお嫁さんに行くのかしら?」

「別に俺が婿入りでも良いんじゃない? 亮太兄のとこは敦兄いるし」

「あらそう? でもやっぱり最初は二人暮らしよね~、うちから近いと嬉しいわ~」

「商店街の裏にアパートが何軒かあるし、そこがちょうど空いてれば……」


………ちょっと何言ってるか解らないなぁ。

晶子ちゃんもこういう苦労あるのかな……

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