剣道部一年
『親友発見しました』の回、
『悪徳』探偵を『悪辣』探偵へ変更しました。
まさかの、本屋さんで同タイトルの小説発見です(´・ω・`)
何時もの休日。
何時もの部活。
高校に入ってから、そろそろ慣れてきた先輩達やクラブメイト。
今日も何時もと同じ、同級生の桑崎目当てに群がる女どものウルセェ金切り声に集中を乱されながら基礎練をこなしていた。
「よしっ、次! 二年!」
「「「ハイッ」」」
主将の号令で、一年の基本の型が終わる。
二年生に場所を譲り、壁沿いで荷物からタオルを出したり、水分補給をして休憩する。
―ピルリリッピルリリッ
左隣から、くぐもった電子音が聞こえた。
携帯の電源くらい落としておけよ。と思いながら目を向けると、桑崎が普通に電話に出た。
「どうした、晶子」
おいおい。
電話に出たらまずはもしもしとかじゃねーのかよ! つか、部活中だっつーの!
あっけに取られてか、一年は誰も桑崎を止められねぇ。
練習している二年と、向かい側の壁沿いにいる三年にはまだ気付かれてないっぽい。
さっさと電話を切れ!
念じたお陰か、短い会話で通話を終えた桑崎にホッとした。
…が、次の瞬間には立ち上がってそのまま武道舘の外に早足でいっちまいやがった。
「ちょ、おい桑崎!」
流石に止めようとした田宮が声を掛けるが、一瞬も止まらなかった。
田宮の、半端に挙がったまま行き場を無くした手がむなしい。
因みに、トイレには逆側のドアから出た方が近いから、トイレではない、確実に。
つか、たとえ普通にトイレ行くにしても、あのウルセェ女どもを突っ切っては行かないだろうな。
武道舘から外に向かうのに気付いた主将が、イライラしてるのが判る。
直ぐに戻ると思っていたのか、五分も経つ頃には主将の顔面がヤベェ感じになった。
チッ、と盛大に舌打ちした主将がドスドスと足を鳴らしながら外に出ていく。
「桑崎ぃっ! テメェさっさと戻れっ!」
主将の声、デケェな…。
しかしまぁ、これで戻ってくるだろうと思っていた。
………桑崎と主将は、戻ってきた。可愛い私服の女子を連れて……。
……俺達剣道部は、正座をしていた。
俺達の正面には、桑崎と、桑崎に連れられて来た女の子。
桑崎の`彼女´らしい。
チクショウ羨ましい!
`彼女´さんはこの状態に戸惑っているらしく、目線をキョロキョロ、ソワソワしながら桑崎と俺達を見比べている。
「……えー、と…、亮くんがいつもお世話になってます」
「…彼女通り越して、嫁…だとっ!?……」
「これは……桑崎が女子に無関心な訳だわ」
暫く沈黙が続いたが、`彼女´さんがペコリとお辞儀して挨拶をした。
先輩が嫁っつってるが、確かに発言は嫁だな。
ざわざわし始めた部員達は、だけど`彼女´さんが可愛いとしか口にしない。
いやだって、ちょっと照れたように微笑みながら言うんだぜ? クッソ可愛いんだけど!?
しかし、隣にいる桑崎の顔がヤバイんだが…
めちゃめちゃ眉間に皺寄ってんぞ? 何でそんなに機嫌悪いんだよ、彼女が応援にきたら、普通嬉しいよなぁ?
「…あ、あの! 彼女さん、は…何で、ここへ…?」
隣に座ってた奴が、意を決したように手をあげて聞いた。
`彼女´さんは戸惑っているのか、言い淀んだ後、桑崎と目を合わせた。
桑崎が無言で頷いたのが、ちょっとイラッとした。格好つけてるようにしか見えん。
「差し入れを、昨日作っておいたのですが、亮くんがうちに置いていってしまったので…」
「「「差し入れ!?」」」
`彼女´さんの言葉に、全員声がそろっちまった。無理もねぇ。
うちにはマネージャーもいねぇし、見学してる女どもは桑崎しか見てねぇ。
つーか、見学してる奴等は差し入れだとかの女子力見せようとかねーのかねぇ?
`彼女´さんが取り出したタッパを、副主将に渡した。
結構大きめのタッパが二つ…一年にも回りそうだな。
「……ぅ、……ゥォオオオオ~!!」
副主将や主将、二年と三年の雄叫びがウルセェ。
一年の中でもチラホラ叫んでるやつがいるな。
まぁ気持ちは解らんでもない。剣道部って実はあんまモテねーんだよな。
やっぱ面かぶるせいか? 顔が見えねぇからな~。
わいわいと騒いでいたら、`彼女´さんと桑崎の会話が聞こえてきた。
「……亮くん、昨日夕飯後に食べたじゃない」
「それはそれ。これはこれだ」
「う~ん。……今日の夕飯に、しょうが焼き。プチトマトが入った、具沢山ポトフ。大根と海藻のネバトロサラダ」
「……冷たい茶碗蒸しも…」
「具はエビとカマボコでいい?」
ゆ、夕飯のリクエスト……だと!?
「なぁ、俺には、晩飯を一緒に食べる約束に聞こえるんだが…」
「俺もだ…しかも、あの女の子の手作りっぽくねーか…?」
隣にいた田宮にぼそりと漏らせば、同じことを思ったのか頷かれた。
しかも、昨日の夕飯とかも聞こえるんだが…一緒に暮らしてんのか?
あ、彼女じゃなくて、実は姉とか妹だとか!
兄弟説を田宮と呟いていたが、それをあっさりと否定する桑崎の言葉が聞こえた。
「じゃあ私そろそろ帰るね。買い物行かなきゃ」
「あぁ。…今日、おじさんは?」
「お父さん? 家にいると思うけど」
「電話して、迎えに来てもらえ」
`おじさん´が`お父さん´な時点でやっぱ他人だわ。
兄弟説が崩れた。しかも`彼女´さんが電話口で桑崎の名前を普通に出すってことは、親公認の仲ってことか?
`彼女´さんと一緒に武道舘を出ていく桑崎を見ながら、剣道部全員が泣き崩れた。
桑崎ばっかりモテてる現実がツラい!