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さてどうしましょうか?
目の前には、剣道部の人達が勢揃いで正座しています。
私の隣では、亮くんがまだ拗ねたまま座っています。
そして誰も口を開きません。何だろうか、この図。
……私、何で中まで来ちゃってるんだろう?
「……あ、あの! 彼女さん、は…何で、ここへ…?」
「あー……、えっと」
何故か挙手しながら問われました。
沈黙を破ってくれたのは正直助かりましたが、何か、彼女って名前みたいじゃないですか? その呼び方だと。
まぁ、とりあえず彼女云々は今はちょっと置いておいて。
来た理由は、話して良いのかな?
亮くん、自分一人で食べるとか言っていたよね?
ちら、と亮くんを見ると、ムスッとしながらも仕方なさそうに頷いたので、袋からタッパを取り出します。
「差し入れを、昨日作っておいたのですが、亮くんがうちに置いていってしまったので…」
「「「差し入れ!?」」」
おう、一瞬で騒がしくなってしまいました。
えー、部活への差し入れくらい普通じゃないの? 父母会とか。あ、無いっぽいね。
そういえば、亮くんに部員が何人かとか聞いてなかったわ。全員分あるかな? あるよね?
タッパを、一番近い場所にいた人に渡すと、恐る恐るって感じで受け取られました。
ビックリ箱とかじゃないし、臭いものは入ってないよ。そんな恐がるものじゃないよ、ただのはちみつレモンだよ。
「……ぅ、……ゥォオオオオ~!!」
「ひっ」
渡した人がプルプル震えてる、と思っていたら、いきなりタッパ掲げて叫びました。
そして伝染したように全員が叫び出しました。
ビックリして思わず亮くんに縋りついてしまったのは仕方ないですよね。
声大きいなぁ。
「ど、どうし…」
「あぁ。うちの部に差し入れをするような女子はいないからな。感動してるんじゃないか? 諸々」
「諸々…」
亮くんは、ちら、と見学していた女の子達のいた場所を視線だけで指し示して、軽く息を吐きます。
どうやら、あの子達は亮くんのみが目当てだったみたいです。
そして、キャーキャー言うだけで、煩くて気が散るのだそうです。
眉間に皺が寄ってるよ、相当嫌なんだろうなぁ。
あ、因みに、見学していた子達は解散させられました。亮くんの一声で。
さて、渡すものも渡したし、皆さん大分落ち着いてきたみたいだし、帰ろうかな、とは思うのですが。
……亮くんの機嫌を治してからですかね? やっぱり。
ジッとはちみつレモンのタッパを見てるし。
視線が固定されてます。ちょっと怖いよ。
「……亮くん、昨日夕飯後に食べたじゃない」
「それはそれ。これはこれだ」
「う~ん。……今日の夕飯に、しょうが焼き。プチトマトが入った、具沢山ポトフ。大根と海藻のネバトロサラダ」
「……冷たい茶碗蒸しも…」
「具はエビとカマボコでいい?」
献立を一つ一つあげていく度に、ピクリと動く肩や眉毛がちょっと可愛い。
茶碗蒸しの具を提案したら、こくりと頷いた亮くん。
やっと機嫌が上向きになったかな?
「じゃあ私そろそろ帰るね。買い物行かなきゃ」
「あぁ。…今日、おじさんは?」
「お父さん? 家にいると思うけど」
「電話して、迎えに来てもらえ」
えー。
……でも、そうだな。買い物行くなら、荷物多くなるし。
お母さんに夕飯は私が作ること言わなきゃだし。
電話をするのは必然ですかね。
亮くんに促されるままに、携帯を取り出して電話します。
因みに、外で電話を掛けようとしたんだけど、私がちゃんとお父さんにお迎えを頼むか確認したいのか、亮くんがしっかり腕を掴んでます。ので、座ったまま電話です。
……私って信用無いのかしら?
家に掛けると、すぐにお母さんが出たので、夕飯を作ること、献立、お父さんに車を出して欲しいこと、などを伝えれば、すぐにオッケーが出ました。
献立を考えなくて良いのが嬉しいそうです。
通話を終えて、亮くんの帰宅時間を聞いて、武道舘から退却 (?)です。
もう一度、部員の皆さんに挨拶をして、亮くんに促されて校門へ向かいます。
…亮くん、付いてきたけど、部活は良いの?