訪問します。
おはようございます。
良く晴れた日曜の朝。
光希はキチンとはちみつレモンのタッパと、クッキーを好きなだけ詰めて部活に行きました。
そして私も、はちみつレモンをタッパに詰めて、亮くんの高校に来ています。
「……なんでだ」
呟いたって、亮くんはここには居ないので回答がありません。
おかしいな。私、亮くんに作ったやつ持って帰ってねって言ったよね?
何故私が亮くんの学校に直接差し入れしに来ているのでしょうか?
「えっと…武道舘は、あれかな?」
校門で立っていても仕方ないので、亮くんの所へ行こうと思います。
確か、体育館とは別に、剣道部・柔道部・空手部が使う武道舘なる建物があるらしいです。
しばらくきょろきょろと道なりに進みながら周りを見ていれば、日曜なのに大勢の声が聞こえてきました。
あれが武道舘ですかね? 女の子達がいっぱいいるけど、なんだろうあれ?
……あ、桑崎君って声が聞こえた。
あそこ (確定)か……
「桑崎君格好良い!」
「キャーッ! 頑張ってー!」
……あぁ、うん。どうやら部活中らしいです。
亮くんがいるのは確定なんですが、女の子達が多すぎて中が見えないし、近付けない。
どうしよう。メールしたら気付くかな?
ダメ元で一度電話をしてみる。
女の子達の声で、亮くんの練習が一旦終わって、端に座って汗を拭いているらしいので。
見えないのに状況が判るっていう、女の子達の実況並みの叫び‐応援? ‐が凄いわ。
三コールくらいで切ろうかな、と思っていたら、電話に出ちゃったよ、亮くん。
『どうした、晶子』
「…亮くん、電話にでたら、まずもしもしとか言おうよ…」
『時間が勿体ない。それで、どうした? 何かあったなら迎えに行くぞ?』
「ううん、昨日のはちみつレモン、亮くん忘れていったでしょ。持ってきたんだけど……」
『今どこ』
おう、声が低くなった。
素直に武道舘前まで来たことを言うと、出入口にいる女の子達の黄色い声が一段と騒がしくなって、亮くんが現れました。
わぁ、ちょっと怒ってる~。何で? どうしたの亮くん。
「えー、と……亮くん怒ってる?」
「怒ってる。何で来たんだ」
「何でって、忘れていったから?」
わぁーん! 結構本気で怒ってる。何で?
持ってきちゃ駄目だったの?
でも、差し入れだから持ってこなきゃ皆食べられないよ?
あと、女の子達がざわざわしてるのが、地味に怖い。
私睨まれてない? なにあの子。とか桑崎君とどういう関係? とかボソボソ聞こえます。
「……はぁ。昨日のはちみつレモン、全部持ってきたのか?」
「え、うん。光希と亮くんとで、タッパ二つずつ作ったから」
カバンから出そうとしたら止められました。
どうしたの?
「……俺は持ってくる気が無かったんだ」
「え?」
「晶子が作ったものを、なんであいつらにやらなきゃいけない」
「え~…」
つまり、亮くんは自分一人で食べる気だったと。
いやでも、結構な量作ったよ? レモン三個分あるよ?
というか、怒ってるのもあるけど、主体は拗ねてる、の方っぽい。
拗ねてるの? って聞いたら、ぷい、と視線を逸らされました。仕草が可愛いなぁ、おい。
「桑崎ぃっ! テメェさっさと戻れっ!」
ちょっと和んでいたら、武道舘から野太い声が聞こえて、女の子達の集団が二つに割れました。
息ぴったりですね。
現れたのは、亮くんより縦も横も大きい、熊みたいな人でした。
高校生? いや、先生かな?
先生 (仮)は割れた女の子達を気にせずに亮くんの元まで一直線に歩いてきました。
そして、正面まで来て初めて私に気付いたみたいです。
目がカッて開きました。ちょっと恐い。
「…桑崎、お前…、彼女だと!? しかも他校! しかも可愛い! お前っ、あんだけ女子にモテて、更に彼女持ちとか……! 」
「………えっ、と…亮くん?」
「しかも名前呼びっ!」
うわぁん、なんか叫びながら膝ついて項垂れちゃったよ、この先生 (仮)。
先生 (仮)が騒いだからか、武道舘から次々と男子生徒が出てきてしまいました。
皆さん剣道着なので、亮くんのクラブメイトさんですね。
とりあえず挨拶をと、ペコリとお辞儀しておきました。
そして、何故か武道舘の中に入らされた私。隣に亮くんがいるのでまだ良いですが、正面にガタイの良い人達が沢山要るのは、ちょっと怖いね。
「……えー、と…、亮くんがいつもお世話になってます」
「…彼女通り越して、嫁…だとっ!?……」
「これは……桑崎が女子に無関心な訳だわ」
「可愛い……」
「可愛いな」
「可愛い…」
なんで皆正座してるの? とか、なんで向かい合ってるの? とか、私部外者だよ? とか。
色々言いたいことはありますが、とりあえずもう一度挨拶したら、ざわめいてしまいました。
あ、ちなみにさっきの先生 (仮)は三年生だそうです。
老けが……いや、大人っぽいですね。