`前´とは違う、日常。
「……ごめんね、遊木君。…しなちゃんは、もう手遅れなんだよ……」
「ふざけるな。椎奈は、あいつは……っ!」
「遊木君、現実を見なよ。ほら、しなちゃんはあんなに…」
「いやだっ! あれは、あれはもう椎奈じゃねぇっ!」
「…えーっと、………コントかな?」
ある日、はなちゃんに借りた本を返しに五組へ行ったら、はなちゃんと遊木君が教卓あたりで遊んでいました。
本当、どうしたんだよ、親友。
あなたそんな男子にグイグイ絡むような性格じゃなかったハズなのに……。
「しょーちゃん、コントじゃないよ。現実だよ」
「主に絶望しかない現実だ」
「遊木君重い。色々重いよ、そのため息」
二人して片手挙げて応えないで。
しなちゃんはもくもくと…ニヤニヤしながらカバーの掛かった文庫本を読んでいます。
あぁ……BとLの本なんだね…。
「しなちゃん、そういうのはお家で読みなさい。男子に対して軽くセクハラだから」
「視界の暴力だろ」
「軽くないよね。圧倒的パワハラじゃない?」
二人とも、解ってるなら止めなさいよ。
と、いうか、遊木君の性格が、大分見た目と違うんですよ。
一見、強面で長身だから不良系なのかと思ったら、結構ノリも良いしよく笑うし冗談通じるし。
これが噂のギャップ萌えってやつですか?
遊木君としなちゃんとよく話すようになって、はなちゃんもクラスメイト皆と話すようになった。
本の話も、授業の話も、あとたまに女子数人でBでLな話をしてる。
`前の時´は一人で黙々と読書してた親友が、皆と笑いあって、雑誌を広げてたりする。
凄く嬉しい。
嬉しいんだけど……はなちゃんの親友は私だったのに、`今´は、しなちゃんが親友っぽいんだよね。
ちょっと悔しいなぁ。
「早苗ちゃ~ん。かーえーろっ」
今日は早苗ちゃんちに寄っていくのです。
正確には、早苗ちゃん家の一階の雑貨屋さんに寄っていくのです。
「おまたせ、晶子ちゃん。帰ろ」
「あっ! ねぇねぇ神代さん! 彼氏いるって本当?」
「へっ!?」
早苗ちゃんと帰ろうとしたら、見知らぬ女子に声を掛けられました。
びっくりして、思わず一歩下がっちゃった。
ていうか、何故私の名前と顔を知ってるんだろうか?
疑問を口にする前に、早苗ちゃんがにっこり笑った。
「本当だよ~。中学…ううん、小学生の時からラブラブだったんだって」
「ぇ、ちょっ、早苗ちゃ、」
「マジで!? 凄い! 詳しく!」
「えぇ~…」
本人そっちのけで盛り上がり始めちゃったよ。
早苗ちゃん…めっちゃ楽しそうだね。
貴女も、親友ほどではないけど大人しかったハズなんだけどな。
いやまぁ、楽しそうなのも、一見ギャルな子と仲良しなのも、`前の時´みたいに自殺とかを考え無さそうだし、良いことなんだけどね?
「…でね、演奏を終えた晶子ちゃんを優しく抱き締めて、よく頑張ったなって!」
「ぎゃーっ! 何それ漫画みたいっ!」
「嘘を混ぜるのは止めようか、早苗ちゃん!」
それ誰の話ですか!?
「……という感じで、しなちゃんのトランスフォームと、早苗ちゃんの暴走噂話が止まりません」
「姉ちゃん…とりあえず、トランスフォームだけは止めて欲しかったかな…」
早苗ちゃんがそうならなくて良かった。って、ボソッと呟いた光希。
そうだよね。早苗ちゃんがそっちに進化…腐化? したら、光希は泣くよね。
「まぁ、高柳の暴走の方は被害は特に無いし、そのままにしておけば良い」
「被害…」
亮くんの恋愛を阻止しまくってる気がするんだけど、それは? あ、はい黙ります。だからそんな無言の圧力かけるのやめて。
私達が高校に入ってから、光希は早苗ちゃんに対する気持ちを隠さなくなった。
隠さなくなったっていうか、同じ学校だから、私に協力を求めてきたし、態度も明け透けです。
いやまぁ、昔からそうじゃないかと思ってたけどね? まさか堂々と姉に協力求めるとか思わないじゃない?
びっくりだよ。
「そういえば、そろそろ大会始まるのよね? 私達でも見に行けるの?」
「うん。やるの市民体育館だし、親とかも見に来るらしいよ」
「じゃあ早苗ちゃんの予定聞かなきゃね~」
「絶対連れてきてよ、姉ちゃん」
「じゃあ活躍しなさいよ」
光希の部活の試合日をメモしておく。
今さらだけど、光希はちゃんと (?)レギュラーを取りました。
部員があまり居ないからって言ってたけど、ちゃんと光希の実力だと思います。
「亮くんも勿論行くよね」
「あぁ。光希の活躍を見ないとな」
「亮太兄、部活あるんじゃないの?」
あ、そっか。亮くんも部活の都合があるわ。
じゃあ行けないかなぁ? と思ったら、部活の方は休むから、と簡単に言われました。
いや、うちら一年生だよ? そんな簡単に休むとか良いの? いや、嬉しいけどね?