親友発見しました!
遊木君はかなり背が高く、多分亮くんよりも頭半分くらい? 185cmくらいは余裕でありそう。
話した感じは人当たり良さそうなんだけど、目付きが…鋭いんです。
狐目っていうの? つり上がった一重なのです。
身長もあるし、正面からだと見下ろされて、色々怖いと思ってしまいます。
「あっはっはっはっ! だよね~! よーちゃんめっちゃ強面だもん」
正直に遊木君の印象を伝えたら、しなちゃんは爆笑しました。
っていうか、遊木君に聞こえてる。わざわざ廊下までしなちゃん引っ張り出してきたのに、教室に残った遊木君に絶対聞こえてるよ、その大音量。
ちら、と遊木君を見たけど、感情が判りませんでした。
「…ん? あれって…」
「どうしたの、晶子ちゃん? ってか、しなちゃんそろそろ笑いをおさめようよ。目立ってきてる」
五組の教室、遊木君の立ってる近くの席。
廊下側の前から二番目。
あれは…あの顔は……
親友発見!!
って、ちょっと待って!
あの子が読んでるあの小説はっ!!
「ねぇっ! それってもしかして、悪辣探偵シリーズの幻の出版社の!? 」
「ひきゃあっ!!?」
気付けば突撃して声をかけてました。
だってだって!
この『悪辣探偵シリーズ』は、最初の一冊を出した後直ぐに出版社が潰れてしまって、その後また別の出版社で出されている小説なんだけど。
新しい出版社から出した一冊目のお話は、内容が一緒ではあるんだけど、確か、潰れちゃった出版社の方の巻末には、探偵と助手の出会いのお話が載ってるの。
出た時に探したわ。でも、元々出版社が小さかったらしくて、取り扱ってる書店がなかなかなくって。
探しているうちに、出版社が倒産? して絶版…手に入らなかったのよね。
「晶子ちゃん、読みたいのは充分解ったから、とりあえずもうちょっと離れよう? 怖がってるから」
「はっ! ごめんね、つい興奮しちゃった」
早苗ちゃんが苦笑いをしながらもどうどう、と私を宥め、しかし結構強めに引き剥がされた。
よく見たら、親友は泣く一歩手前、目が物凄く潤んでました。瞬きしたら涙流れるわ、これ。
「ごめんね、私三組の神代晶子っていうの。私と友達になって! そして悪徳探偵について語り合いましょう!!」
「晶子ちゃん……。ごめんなさい、この子今かなり興奮してるみたい。ちょっと、明日辺りに出直させるから、ごめんね、本当ごめんね」
早苗ちゃんがひどい。
でもこそっと、桑崎君に言うからね。って聞こえた。止めて、亮くんが今から転校してきてしまいそうだから。
「とりあえず名前! 名前だけでも教えて?」
「ぇ、…ぁ、あの……さ、佐野葉那…です……」
「はなちゃんね! また明日来るからね! バイバイっ」
早苗ちゃんとしなちゃんに、ずるずると引き摺られながら何とか名前を聞き出せました。
そしてそのまま強制帰宅となりました。
遊木君がいつの間にか私達の鞄を持っていてくれたみたいです。
さて。初対面でやらかしてしまった私ですが、あれからちょこちょこと五組に通い、小説や漫画の話で盛り上がり、見事親友‐はなちゃんの心を開くことが出来ました!
………うん、開い…………開きすぎましたごめんなさい。
「はなちゃん! ベーコンとレタスは最強だね! また新しいのあったら貸して!」
「しなちゃんなら…これは? ちょっとシリーズ長めだけど、一冊が短いし、テンポ良いからすぐ読めるよ」
「わぁ! ありがとう~」
……しなちゃんが、腐の沼に足を突っ込んでしまいました……
あれ、おかしいな。
`前の時´のはなちゃん、ここまでオープンオタクだっけ?
私と親友になった後に、徐々に何でも話すようになったし、明るくはなったけど、昼休みの、クラスメイトの衆人環視の中、堂々とBでLな本取り出すような子だっけ?
大分トランスフォームしてる……
「ってちょっと待ってしなちゃんっ!? ベーコンレタスって………はなちゃん!? しなちゃんに何読ませたの!?」
「しょーちゃんおはよ~。大丈夫だよ。あのシリーズ、行き過ぎた兄弟愛と暑苦しいスキンシップ程度しかないから。裸とか無いから」
「そういう問題じゃないよー!」
しなちゃん、嬉しそうにラノベを抱き締めないで。
はなちゃん、教室の机で官能時代小説読み始めないで!
とりあえず……とりあえず………
「遊木君、まじスミマセン」
「ぇ、ぁ、………ぁぁ」
幼馴染みのトランスフォームぶりに引いちゃってる遊木君に、土下座で謝った私は、間違ってないと思います。
悪辣探偵シリーズ……架空の小説です。
が、ちょっと気になる。
(自分で適当にタイトル付けたくせにね)
BとLな本は、ハマると深いよ……
『悪徳』→『悪辣』探偵へ変更しました。