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恋の句

作者: 下川 科文

(これは、私が国語科で学んだ百人一首の内容から始まりました。)



「今日からは古典内容として、百人一首に触れてみたいと思います。」先生が言う。

(百人一首かぁ・・・そんなの中学校で少しやったくらいだな・・・)


「では皆さん、何か知っている句はありますか。」先生が生徒に訊く。

「はい。」と、学級委員長の恵吏ちゃんが挙手する。

(恵吏ちゃん、何を言うんだろう・・・難しいのかな・・・)


「じゃっ、恵吏さん。」

「はい。 忍ぶれど 色に出でけり わが恋は ものや思うと 人の問うまで」

「ありがとうございます。恵吏さん、中々マニアックなところついてきますね。」

どこか先生はニコニコしている。

「忍ぶれど。は、隠す。つまりここでは、隠しているけれど。という意味です。色に出でけり。とは、顔に出てしまう、ということです。そういう人いますよね。人の問うまで。は、人に言われた。という意味です。では、句全体の意味を・・・・」

先生の表情が一瞬曇った。

「康平君。手を机の上に置きなさい。・・・意味は分かる?」

手元を怪しまれた、クラスの不良になりきれない不良の康平は、顔を真っ赤にして、オドオドしている。

クラスのみんなが笑う。私は、隣の池川君の方を見やると、一緒に笑った。

「授業を真面目に受けなさい。みんなも笑わない。続きをやりますよ。はぁ・・・。えっと、じゃあ、椎野さん。」

(まさか私が当てられるとは・・・)

「えっと・・・。恋をしている事を隠しているけれど、人には気づかれている。ですかね?」

(国語は得意な方だという自信はある)

「素晴らしいですね。その通りです。」

(はぁ、良かった。それにしても、この句、何か好きだな・・・)



その日の放課後、私はふと、教室の窓から運動場を眺めながら呟いた。

「忍ぶれど 色に出でけり わが恋は ものや思うと 人の問うまで」

手元のスマホで調べてみた。

(へぇ~、平 兼盛っていう人が詠んだ句なんだ。・・・んっ、何か別の句も一緒に載ってる)

歌の歴史という項目には、別の句が青い浮き字で載っていた。その句の解説も開いてみた。

そこには、「恋すちょう わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思いそめしか」という句があった。よく解説を読むと、帝の主催する歌合わせの、両チーム自慢の最後の句だったらしい。

(へぇ~。こんなにすごい句だったんだ。この2つ。しかも相対した歌だったなんて。)


すると、恵吏ちゃんが横に来た。

「あなたにピッタリな句だったでしょ?」

「もう、何、どういうこと?」

私は少し、頬を赤くして訊いた。

「椎野さん顔が赤いですよ。」

恵吏ちゃんはどこか微笑ましそうだった。

「私やあなたのお友達は何となく気づいていますよ。」

運動場でシュートを決めたある男子を見ながら恵吏ちゃんが言った。

「えっ、何で?」

と、慌てて私は恵吏ちゃんに訊いた。

「だって、池川君と話してるときの椎野さんの顔、今みたいなんだもん。」

すると、私の後ろでも声がした。小学生の頃からの親友の由奈だ。

「まさに、忍ぶれど 色に出でけり わが恋は ものや思うと 人の問うまで。だね。」

「由奈・・・、もう、2人して、何なの?」

私も不意に微笑んでいた。

「さ、そんなことはいいから、部活終わったよ。」

由奈が言う。

「さっ。」

恵吏ちゃんが私の背中を、ポンッと押す。

___2人に後押しされた私。


1人校門を出ようとしていた彼を見つけた。

(間に合った・・・)

「あれ、椎野、どうした?」

池川君が言う。

「今日は、1人、なんだ・・・?」

「ああ、何か、俺が帰り支度している間にさっさと片付けて、委員長と由奈に誘われた~、先行ってるぞ~って言って、ハンバーガー食いに行っちゃったからさ。」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

ほんの少し、沈黙が続いた。聞こえるのは、どこかの部活の喧噪と、風の音だけ。桜が舞う。

「・・・・んっ、どうした。椎野?」

池川君が言う。




_______________________________「・・・、あのさ」




                            「恋の句」 終


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