村長、月夜に舞う
コンゴのリャベイという村で奇妙な事件が多発していた。それは沼地のゾウ達が胸を貫かれて死んでいるという不可解な事件である。村人たちは困惑して原因究明を急いだのだが、何の手がかりもえられなかった。
「こんな物騒な事件……早く終わらせないと」
村には人一倍に正義感に燃える青年がいた。その青年はどうしたものかと考えた挙句、村で一番の権力を持っている村長に相談しようと思い、村長の住んでいる家に上がりこんだ。
「何用じゃ」
村長は目を閉じて腹式呼吸をしながら精神統一をしていた。
「お邪魔してすみません。村長に相談事がありまして」
青年は恐る恐る尋ねた。
「なんじゃ。申して見よ」
すると、村長のお許しがでたので青年は口を開く。
「最近多発している象が胸を貫かれて死んでいるという事件です」
「それか。ワシの耳にも届いておる」
「村長なら何か知っていると思いまして……それで相談に来たのです」
青年はそう言った。
「ふん。相談するべきかは誰なのか分かっているな」
そう言うと、村長は腹式呼吸をやめて此方を見据えてきた。村長と言うだけあって、威厳のある眼だ。思わず、それに圧倒されそうになるほどに。
「ということは!」
「ああ。犯人の正体に心当たりがある」
「さすが村長! 何でもご存知ですね」
嬉しさのあまり、おだてに入る青年だった。
「恐らく、犯人はエメラントゥカじゃろう」
「エメラントゥカ……?」
「先代の先代の先代の先代の先代の先代の先代の村長から受け継がれている話しが、今回の事件とそっくりなのじゃ。その話しに出てくる怪物がエメラントゥカ。そやつはサイの如く鋭い一本角を生やし、ゾウを主食にしているのじゃ。背丈もゾウと同じ大きさだという」
村長は終始真面目な顔で伝えていた。
「そんな怪物が……この近くにいるのですか?」
「そうじゃ。いずれは人間を襲うやもしれん」
「大変だ!」
あわあわとした様子で取り乱す青年だったが、ここで村長が手を伸ばして、彼の肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫じゃ。先代たちから受けづいだのは畏怖の言い伝えだけではない。エメラントゥカに対処する武器も受け継いでおる」
「え!」
「ワシが奴を倒す。お前は傍で見ておれ」
こうして、村長と青年はゾウが殺される現場に向かった。そこは沼地であり、さっそくゾウが胸を貫かれて死んでいる骸を発見した。
「奴は近くにおるな」
その時だ。眼前に黒い影が見えた。その黒い影は鼻先からとてつもなく長い角を生やしている。間違いない奴がエメラントゥカだろう。そう決意したであろう村長は武器を手に取った。その武器とは、剣である。しかも、日本の武士が使っている様な真剣だ。その鋭い切っ先が闇夜に輝いている。
「村長!」
青年は恐ろしくなって村長の後ろに隠れた。
「大丈夫じゃ。ワシは勝つ」
すると、エメラントゥカが角を光らせて突進してきた。それと同時に村長も駆ける。エメラントゥカが近づいてくると、剣を横に振るいながら奴の体を切り裂いて行った。それはまさにコンゴの侍というべき見事な太刀さばきだった。
グオオオオオオオオ。
エメラントゥカは体を真っ二つして叫び狂うと地面に倒れた。地面には大量に血が飛び交っていて、その中に老人は立っていた。
「息絶えたか。邪悪な獣め」
「村長ォオオオオオオオ!」
青年は泣きじゃくりながら村長の胸に飛び込んだ。こうして、エメラントゥカの消滅により平和になった村では村人の笑顔が咲き誇る豊な村に戻っていた。そして、村長の太刀筋に見惚れた青年はその後、村長に弟子入りして剣術の稽古に励んでいたのだった。