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こんな夢を観た

こんな夢を観た「秘湯を求めて旅する」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/07/30

 トラベル・ガイドお勧めの秘湯を求めて、日に1本しかないローカル線に乗り、ようやく山裾までやって来た。

 平地よりも照りつける日差しは強かったが、抜ける風は涼しく、かいた汗もすーっと引いていく。

 肩からバックパックを下ろすと、エリア・マップを取り出した。赤マジックで丸をつけてある場所を指でたどる。

「えっと、今はここだから、あと40分くらいかぁ」

 うねうねと曲がりくねった山道を、わたしはのんびりと歩き始めた。


 舗装の荒れた道路は、クルマがようやくすれ違うことができるほど。ところどころ、アスファルトが剥がれ、ぼこっと穴が開いていることがある。

 時々、爪先を引っ掛けながらも、この先で待っている隠れ家的温泉に、わたしの心ははやる一方だ。


 遠くから、かすかにディーゼル・エンジンの音が聞こえてくる。どうやら、下の方からのようだ。

 だんだんと近づいてきて、そのうちつづら折りになった崖下に、バスが見え始める。

「バスが走ってたんだ」トラベル・ガイドを見落としていたらしい。

 ブナの木陰に立って、バスが来るのを待つ。


 消耗しきったサスペンションを弾ませながらやって来たのは、見たこともないようなレトロ・バスだった。

「すいませーんっ」わたしは道端から手を振る。バスは、ガタゴトと騒々しい音を立てながら、わたしのいるところよりも、10メートルばかり先でやっと停止した。

 

 わたしは小走りでバスまで走り、開いた扉から乗り込む。

「この先の秘湯までなんですが、料金はおいくらですか?」運転手にそう尋ねた。

「いい、いい。どうせ、すぐそこだから」親切に、そう言ってくれる。

「ありがとうございます」

 わたしは、座席に座った。

 向かいの席には、小学生から高校生くらいまで、4人が並んで座っている。きっと、知り合いなのだろう。


 トラベル・ガイドをパラパラとめくっていると、一番上らしい少年が声を掛けてきた。

「秘湯に行くんですか? 地元のもんはあまり寄らないですけど、このところの温泉ブームとかで、よそからたまに見えますよ」

「そうなんですか」わたしは言う。観光地なんて、案外そんなものかもしれない。

「あら、うちの爺ちゃんは、毎週湯治に行ってるわよ」隣の女の子は、きっと同級生に違いない。

「ああ、おめんとこの爺さまはあの風呂さ、好きだもんな」と少年。


「あーあ、わたしもたまには行きたいな、あそこ」反対端に座って、足をブラブラさせている女の子は、学校に上がったばかりらしい。

「ほら、そんな足をバタバタさせっと、靴が脱げっど。ちっと、大人しくしとれ」注意をしている男の子も、3つか4つしか変わらないはず。

 

「学校の帰りですか?」わたしは聞いた。

「はい。ぼくら、小学と高校なんですが、小さな村なんで、同じ校舎に通ってるんです」少年が言う。

「じゃあ、みんな家族みたいなものですね」

「ええ、ほんとにそうなんです。端っこの女の子、あれが中学にあがる頃には、学校も閉校することになってるんです」

「そうなんですか。寂しいなあ、なんだか」わたしはしみじみとしてしまった。


「温泉前に着いたよ、お客さん」運転席から声がし、バスはガタピシと停車する。

 わたしは車内のみんなに挨拶をし、バスを降りた。

 山あいに抱かれるようにしてそっと建つ、そこがわたしの泊まる旅館だった。

「今日は、予約したむぅにぃですが」フロントで声を掛ける。

 すぐに女将が出てきた。顔を合わせて、お互いにはっとする。

「お客さん、前にもここに来なさった?」女将が不思議そうに言う。

 もちろん、今日が初めての訪問だ。

「いいえ、初めて来ました」けれど、わたしも女将の顔にかすかに見覚えがあった。いったい、どこで会ったっけ?


 腑に落ちないまま、わたしは部屋へと案内される。

「明日、お発ちになるんでしたね?」女将が確認をする。「下の駅まで、クルマを出しますんで、乗って行って下さい」

「あ、バスに乗って行くから大丈夫です」わたしは言った。

「バスなんて、何十年も前に廃線になりましたよ」

「でも、今、それに乗って……」そこまで言い掛けたとき、女将が誰に似ているのか気がついた。

 バスに乗っていた、一番小さな女の子だ。


「バスには、女の子が乗っていました。その子が卒業したら廃校にしてしまうとか――」わたしはバスの中での話をした。

 びっくりしたような顔で振り返る女将。やがて、懐かしそうに表情を崩すのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと、ドキリとする話でした。 怖いのか、なんなのかわかりませんが、 たとえるなら『恐怖』のようなものを感じました。 心霊現象? それとも、そもそもが主人公の妄想? のように、ストー…
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