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D.E. -ドッペルゲンガー・エンカウント-  作者: 福永護
第一章「エンカウント」
3/62

「おりゃっ」

「おふぁつ!」


 腹部に衝撃を感じて目を開く。鼻腔にはせっけんの香り、腹部には言いようのない痛みが走る。


「な、なにしやがる」

「人に寝顔を見せるとは、油断がすぎるよ君っ!」


 ビシッと人差し指を指してくる。


「いや、寝てる奴殴る方が非常識だろ」


 相反してヒカルは冷静に言葉を返す。それにしても痛い。もうほとんど残っていない昼食が逆流してくるところだった。


「いや、だってさ。わかんない?」

「いやわかんねぇから」


 「ちぃ」と悔しそうな顔をする。それが妙にムカついて手が出そうになったが相手が女であることを思い出してこらえた。


「というか、なんだその格好は」


 見るとヒカリはワイシャツ一枚。下はちゃんと履いているんだろうが見えない。


「ん?短パン履いてるよ?」


 チラリと捲ろうとする。


「い、良いから。見せなくていいですから!」


 必死に言葉で静止する。青少年にとってアメリカ育ちの無意識な行為は毒だ。これまでそういう経験が無い彼にとっては特にそうだろう。


「そう?」

「はい、お願いします」


 「へえ」というとヒカルの隣に座る。座るというより倒れこむという形だが。ヒカルの左側から普段使っているのと同じシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。同年代の女性を自宅に招くなんてほとんど無かったから大分気を張る。


「というか、いつまで俺んちにいるんだ?」


 言葉遣いはある程度砕けた感じになってきている。それにしても光はここにずっといる気でいる。それが単純に気になったのだ。


「えー…」

「ただいまー。誰か来てんのか?」


 振り返ると兄、大地の姿が見える。時計を見ると7時半、少し早いが帰ってきてもおかしくない時間だ。


「ってあれ。俺、車からここまでで乱視が覚醒したかな。光がふたり見える」

「あ、どうも…」

「えー、これはだね」


 ヒカリの台詞を遮る用に前に出るヒカル。彼女に任せてはいけないと本能が察したのだろう。ヒカルは大地にこれまでのことを簡単に話した。詳しくは自分にもよくわかっていないから話せるわけもないが。


「…で、ヒカリさんははるばるアメリカからこいつを訪ねて日本まで来たと」

「そういうことです」


 口の中のものを飲み込むとヒカリが頷く。食卓には簡単に準備した食事が並ぶ。生姜焼き風野菜炒めにパスタを入れた横着料理だがこういうのが意外と美味しかったりする。ヒカルが黙々と自分で作った食事を口に運んでいるとインターホンがなった。


「ったく、誰だこんな時間に」


 大地が立ち上がり、玄関へと向かう。こんな時間に神城家にやってくる人物は限られる。宅配も時間指定でない限り来ないだろう。


「…ちょ、まっ」


 大地の声が小さく聞こえる。


「どあああああん!」


 と思ったらリビングのドアが豪快に開かれた。ヒカルの予想通り、来客は椎名美咲だった。神城家とは随分の中で、元々彼女の父親と彼らの父親が友人だったところから関係は始まっている。とある方面では昔から「神童」やら「天才」と言われていたが、近くで見ている身としては全く実感しない。


「おい美咲!こらっ」

「…やはり」


 思いつめたような表情でヒカルとヒカリを見る。


「ご近所さんから聞いたヒカルと女の子がふしだらな関係に陥っているというのは本当だったのかああ!」

「違う!」


 反射的にヒカルは叫んだ。どうやらご近所には歪んだ形で話が伝わってようだ。彼があまり社交的でない性格がここで裏目に出てしまっている。もう、頭を抱えるしか無かった。

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