手紙
「…そうだね。けどそんな研究者達の企みも意外な形で終わるの。」
「もう研究はされてないのか?」
「それは堂島さんたちが子供たちを保護して終わったわ。研究者たちは皆殺されていたの。全員頭を握りつぶされていたそうよ。まるでゴリラか何かにそうされたようにね。…その後保護した子供たちの中に一人だけ足りないことが分かったの」
「そいつが犯人だと?」
「それはまだ分かっていないの。子供たちの中には既に薬の副作用でなくなってしまっている子もいたから、データにいないだけで彼ももういない可能性があるの。そこはまだ操作中だそうよ。けれどもし、それが彼によるものだったら、人の頭を握りつぶせる人間が今もこの地球上を闊歩しているということになってしまう」
さらに現実離れしたSF映画のような話だ。遺伝子改造された化け物。そういうSF作品は数多くある。
「同じような死体が、今度はイギリスで見つかったの。研究者たちと同じように頭を握りつぶされていたそうよ。つまり犯人は多国間を移動できる術を持っているということになるの」
「つまり、そいつが今日本にいる可能性も」
「十分あり得るわ。」
化物が闊歩している世界で生きている。それだけで背筋が凍る。それを知らずに街中で暴れられた日には生きていける気がしない。
「回収された研究資料で明らかになった子供たちは全部で三十七人。堂島さんたちが接触できた子供たちが八人、研究所にいたのが十六人。死亡を確認できた子供たちが十人。少なくとも三人の子供が行方不明なの。データも殆ど破壊されて残されていないし、創作は完全位手詰まりなの」
四分の一以上の子供がもう亡くなっている。それがクローンの宿命と言われる短命さの現れだろう。基本的にクローンの短命である原因は成体からとったDNAのテロメアによるものであるとされている。だが彼らは受精卵の段階で操作されている。技術的な問題があったのだろう。二十年近く前の技術というのはそういうものだ。
「研究所の事件が半年前、これまでに殺された人は研究員を除いて七人。その中には細胞提供者が含まれていたの」
「つまりお前が来たのはそういうことか?」
「そう。犯人は提供者を狙っている可能性がある。だから警告…って訳じけど、堂島さんたちは動けないし私が来たってこと。協力している警察ってのはその犯人捜査の捜査員ね。いかんせん内容がアレだから公表できてないけどね。鼻のいいパパラッチはなんか追ってるみたいだけど」
野次馬、ってのはどの国にもいる。相手の迷惑を顧みずに、知る自由をうたい人の人生を引っかきむしって騒動が収まれば知らないふり。身勝手な人間だ。
「おっはぽーん!研究ぶっちしてきたぜーい」
空気が読めない。ほんとにぶち壊れてしまった。
「なに?」
「うわ冷た。重い空気を吹っ飛ばしてあげたお姉さんにありがとうの言葉も…」
「ないよ」
重いというよりも比較的真面目な会話をしていた。それを賛辞するのはなかなか難しいものがある。
「そんなことどうでも良いのよ。顔面潰され殺人事件の被害者全員の素性がわかったわ。」
「え?」
「いや、なんで美咲ねぇがそんなこと知ってるんだよ。」
ここまでの話で、椎名美咲という人がこの件に絡んでいるというのは一切上がらなかった。
「あんた…。ママがやってる事だぞ?あたしが絡まない訳無いじゃん」
「いや、それは意味が…」
さも当然に言い放つ美咲。
「まぁいいや。ここでひとつ、大事な情報を持ってきました。あ、昨日言った用事ってこれね。」
美咲が一通の封書を取り出す。
「エアメールよ。これが届くかもだったから今日の午前中に郵便局に行く予定だったけど昨日帰ったらもう届いててね。日付指定してないから前後するとは聞いてたけどまさか早くなるとは思ってなかったよ。」
郵便であったり宅配便は日付を指定しても何故か一日早かったりすることがある。流通の問題なのだろうが頼んだこっちからするとびっくりするし、遅いと困る場合もある。
「で、誰からなんだ?」
「この流れでそれを聞くかね。堂島晶子、ママからだよ。差出人はそうだけど多分ジェシーあたりをパシって準備させたんだろうけどね。宛先全部英語で書いてあるし。」
ジェシー・ウェリントンは晶子の友人で現在の研究助手をしている人物だ。ジェシー本人も名の立つ研
究者なのだが、仕切り下手な性格が災いして大きな成功を自身の名前で収めたことがない。




