Episode8 救出作戦開始前
視点切り替えは「†」で行なっています。
目の前に広がる暗闇の池の水面に仄かな青白い光が浮かぶ。
アオ二等兵とシロウ上等兵の被る戦闘用ヘルメットにアタッチメントで取り付けられている右側のフラッシュライトが、光の線を伸ばし、仄かな青白い光の光源となっていた。
「なぁ〜アオ。こんな所に池あるとか言ってたか?」
口元やや引き攣らせてシロウ上等兵は、暗い鍾乳石が連なる洞窟を歩いてきた先に立ち塞がる暗闇の池にフラッシュライトを向けて毒づいた。
「聞いてないですね……」
シロウ上等兵のやや後ろで同じく、顔を引き攣らせて立つ、アオ二等兵が応じた。
「ともかく、この先なんですよね……」
「ということらしいよな。あのニーナ少尉殿が持ってた観測所のデータからしたらな〜」
最後の間の伸ばし方に、アオ二等兵は右眉をピクリと吊り上げる。
この嫌味な感じは、何か言い出すに違いない。
「行きますよ」
シロウ上等兵の面白くなそそうな表情をし始める。
「ふーん。そうかあのニーナ少尉に、アオは惚れてるからな〜。あのじゃれ合い見ってて、いぁや〜シロウセンパイは参っちゃたよ。クク」
やっぱりきたと、アオ二等兵は呆れた表情を見せる。
「アオ二等兵! 私をお姫様抱っこしなさい! はい! アオ二等兵、恋焦がれるニーナ少尉の為なら、なんでも致します! あ〜素晴らしいわ! アオ二等兵〜」
とかなんとかシロウ上等兵は、池の端で体をクネクネさせながら、一人芝居をし始める。実に小馬鹿にした下衆な言い回しに、カチンと来るアオ二等兵。
「あ! 足が滑った!」
とアオ二等兵は、思いっきりクネクネと自己陶酔のように一人芝居を始めたシロウ上等兵の背中を右足で蹴り上げる。
「うわ!」
と洞窟にシロウ上等兵の声と盛大に池の水飛沫が跳ね上がる音が響いいた。
「テメー! このアオ! 二等兵の分際で上等兵になんて事しやかんだ!」
唐突に突き落とされたシロウ上等兵は、濡れた顔を拭いながら、さっさと池に飛び込んでくるアオ二等兵に怒りの声を上げる。
「いぁや〜。足滑らしてしまいまして〜つい右足でバランス取ろうとしたらシロウさんの背中に当たっちゃいました〜」
と白い歯を見せニヤリとこれでもかと満面の笑顔を見せる。
「どうやったら、足滑らせたら背中を右足で蹴れるんだよ! アオ!」
歯軋りしながらしてやったりの顔をするアオ二等兵に水を掛ける。
「さぁ、行きますよ。シ・ロ・ウさん!」
ワザと最後は、一言一言区切って言ってアオ二等兵は言ってやった。「この前の仕返しだ。クク」と心で言い返し、池で満たされた洞窟の奥へとアオ二等兵は、素早く潜り泳いでいった。
「このアオめ! このシロウ様を突き落とすなんてしやがって、覚えてろよ」
と憎まれ口を叩きながらもニヤリと笑いながら、アオ二等兵に続き潜り、あとに続くように泳いで奥へ進んだ。
†
この1時間前。
両頬を真っ赤に腫れ上げ、ニーナ少尉を背負っているアオ二等兵とシロウ上等兵が、強襲揚陸戦闘機に戻ってきた。着いた早々、シロウ上等兵は、近くの搭乗席に座り込む。
足を捻挫したニーナ少尉をゆっくりとアオ二等兵は、前の座席に支えながら降ろし、座らせる。
同機の後方では、ミヨとフネ伍長が複雑に入り組んで、表示されているチルヴァーチャルディスプレイを覗き込みながら何かを話してた。
軍曹は、古本を顔に載せたまま、彼の指定席で高鼾を上げていた。
「こんな時によく寝れるな……」
その軍曹の寝姿を横目で見て、呆れた表情で呟いた。
「ゲンジロウ叔父さんは、いつもそんなものよ。全然、変わらないだから」
寝姿に視線を向けて、愛くるしいまで表情を見せるニーナ少尉にドキリとするアオ二等兵。
耳が異常に熱く感じられた。
「あらら? アオ二等兵は、なんでニーナ少尉の顔見てそんなに耳を赤くしてるのかな〜。クク」
前の座席の背もたれに寄りかかり、例のからかってやろうという気満点の表情を見せながら身を乗り出してシロウ上等兵は、皮肉の篭った笑いする。
と、その瞬間、ヘルメットを脱いだシロウ上等兵の後頭部に拳が入った。
「痛っ!」
「何言ってるんだ。お前は、その捻くれた性格をどうにかしろ!」
フネ伍長がシロウ上等兵の背後に仁王立ちしてしていた。
「はは。フネじゃなかったフ……フローネ伍長! いや〜、二人の仲睦まじいのにですね〜。って痛い!」
再度、頭頂部にフネ伍長にゲンコツがシロウ上等兵に入った。
「お前の妄想に、今、付き合ってる暇はないんだよ!」
不機嫌そうな表情でフネ伍長が、シロウ上等兵に怒りをぶちまけると、捻挫した足を擦るニーナ少尉に近づく。
「地球連邦政府中央情報局ニーナ・マーコリー少尉ですね」
「そうですが」
愛らしい表情をしていたニーナ少尉の顔つきが、瞬時に凛とした物になる。
フネ伍長が醸し出している歴戦の兵士の威圧など意に介さないような鋭い目付きを返していた。
「伺いたいのですが、情報局はあのワームホール発生装置の件はご存知だったのですか?」
「私もあれがワームホール発生装置だと分かったのは、さっきです。そもそも、このΣ(シグマ)惑星に来たのも三日前で、あの建造物を見たのもその時が始めてだったので……」
ニーナ少尉はそう答えると、座席の背凭れに一つ溜息を吐いて背を預けた。
「私たち情報局は、一週間前にここの観測所から定期報告が無いとの情報を移民管理局から情報を得ていました。その際は、通信系統の不備かどうか不明なため、その調査を優先させ、そうではない場合に現地に局員を送り組む手はずでした」
「が、盟主との交渉の為に出向いていた全権大使が、このケンタウルス連星系付近で消息を断った」
フネ伍長が、疲れて背凭れに寄りかかるニーナ少尉に畳み掛けた。
「その通りです。それで、急遽、ここに来たのですが……」
「奇襲を受けた」
ニーナ少尉の最後の言葉を伍長が補足した。それにニーナ少尉は、軽く頷いた。
「何とかして不時着したのは良かったのですが、観測所へ出向いたら完全に破壊されていて……そこに私達を待ち構えていたノルドイド人が襲って来ました」
一つ溜息を吐くとニーナ少尉は、気が抜けたかのようにゆっくりと、密着した紺の首元を広げる。その広げ上げられた首元の奥を、一瞬、アオの目はなぜか向いた。白くきめ細やかな胸の谷間が、クラクラしそうなくらい豊満に見え、増々、耳が熱くなった。
胸の谷間に左手を差し入れるとニーナ少尉は、一枚の黒く薄いデータメモリを取り出した。
「これは?」
伍長はそれに対して、尋ねる。
「この惑星の地質を研究していたデータです。今、現在、最新と思われる地質に関する全データです。これは、観測所地下に設置されていたサーバから抜き出したものです。破壊は奇跡的に免れていたので、私がデータを抜き出して来ました。あのワームホール発生装置の下にあると思われる巨大鍾乳洞も有ることは突き止めています」
差し出された薄いデータメモリをニーナ少尉から伍長は受け取ると、彼女の下で覗きこむようにニーナ少尉を見ていたミヨの目の前につきだした。
「これを使って、あのノルドイド人の施設下を解析して頂戴」
「は〜い。ニーナさんて、なんかお綺麗ですねぇ〜アオちゃんが、心を盗まれるのわかるな〜」
なんとも好奇心丸出しの目付きで、薄いデータメモリを受け取ると、手を口に当て、アオのオドオドする顔にニヤリとした。
「ミヨ。早く、解析してちょうだい。ゴシップは、全権大使を救出してから好きにしていいから」
「アイアイサー!」
とふざけるように額にへなちょこ敬礼をするとコンソールルームに跳びはねるように向かった。
その間に気が抜けたのだろうか、少女のような顔付きでニーナ少尉は、寝息を立てていた。緊張の糸が切れたのだろう。
「ニーナ・マーコリーか。全く、姉貴とは間逆だな」
伍長の背後から今の今まで、寝ていると思わてれいた軍曹が、そのタレ目に微笑みを見せて、独り言のように言った。手には、一枚の毛布を持っている。
「アオ」
タレ目の軍曹ことゲンジロウ軍曹が、ニーナ少尉の直ぐ、傍で立っているアオ二等兵に声を掛けた。
「ニーナを救ってくれたそうだな。ありがとうな。こいつとは、ちょっとした腐れ縁でね」
軍曹は、寝息を立てる少女のような尉官であるニーナへ手に持っている毛布を一枚掛けた。
腐れ縁? との言葉にアオ二等兵は、引っ掛かったが、ニーナ少尉があの洞穴で軍曹との関係を答えるのを拒否したのは、長い付き合いでアオ二等兵が入ることが出来ない関係があるのかもしれない。
「さて、フネさんの救出作戦でも聞きますかね」
と軍曹がそのタレ目で柔和な表情を見せるが、伍長の額には青筋が出ているのが見えた。
シロウ上等兵は、完全に我関せずを決め込んで、自分のレーザー銃を何か弄っている。というか、怒りの飛び火が自分に向けられないように影を薄くするように座席で縮こまってる。
アオは、直ぐにその目を天井に向けた。ここで、至らぬ口出しは、命にかかわる。
多分、この事に一切気づいていないは、軍曹とコンソールルームでヴァーチャルデスプレイをこれでもかという程の高速で操るミヨさんくらいだろうとアオは思った。
サブロウ上等兵の姿は、見えない。
「さ……作戦ですね。わかりました」
声が怒りに震えているのが解る。お願いだから、伍長にその名で呼ばないでといつの間にかアオは心で懇願していた。
「はーい! フネちゃん! 施設下の鍾乳洞の全体象が解析できました〜」
ミヨの元気な声が、更にフネ伍長の額に青筋を増やしていた。
†
とニーナ少尉によって持ち込まれた情報を元に、施設下の鍾乳洞からアオ二等兵とシロウ上等兵が施設内に潜入するとになった。大使の監禁場所は、おおよその施設構造から西端にある石積みされたところであろうことは、ミヨの施設内解析で検討が付いていた。
が、そこまでに辿り着くには、ノルドイド人の兵士の壁を突破しなければならない。どう見積もっても4千を軽く超えていた。かつ、施設外にあるのか、常に上空を十機のノルドイド式のカニの手足がないような飛行物体が常に上空を飛び回っている。
救出する侵入口や経路は、ノルドイド人で埋め尽くされている。
救出する為には、極力、戦闘を回避し、先に大使の身柄を確保した上で、安全圏まで守る必要があった。大使の身柄を抑えていない状態で、戦闘が始まったら、大使の命の保障できない。
そこで、敵であるノルドイド人に気付かれないように侵入口として、ニーナ少尉の情報は持って来いのものだった。
が、ミヨの解析上ではこんなドデカイ池など存在しないことになっていた。
施設建設時、地面に亀裂などが入り、そこから地下水が滲みでたのかもしれない。
下級クローン兵士は、遺伝子操作により、呼吸限界が水中に酸素ボンベもなしの場合でも、1時間は余裕で潜れた。ということで、アオ二等兵とシロウ上等兵は、目的の施設で監禁されていると思われる場所の直下へに向かって泳いでいたいた。
しばらくすると、洞窟内に広がっていた暗闇の池が、ヘルメットに装着されているフラッシュライトに照らしだされ、池の終わりのところをほんのりと照らしだした。
アオ二等兵が、後ろから付いて泳いできていたシロウ上等兵に向かって、指をさして池の終わりを合図した。
頷く、シロウ上等兵。
池の終わりの淵に手をかけて二人は、暗闇の中池から飛び出た。
撥水効果の高い、彼らの来ている戦闘服は、全く、濡れた感触がない。
「あとどのくらいだ?」
シロウ上等兵は、愛用のレーザー銃を両手で持ち立ち上がると、アオに無表情で聞いた。
このシロウ上等兵の無表情で警戒しているような口ぶりの時は、周囲に何かを感じている合図だった。
「この鍾乳石洞窟をまっすぐ歩いて、二十分前後になります」
「作戦実行開始から三分遅れている。少し急ぐぞ」
シロウ上等兵は、急に走りだした。あっという間に、暗闇の中にシロウ上等兵は消えていった。
「あ! ちょっと待って下さい!」
慌ててアオ二等兵も立ち上がると、シロウ上等兵の足音の方向へ駆け出していた。
作戦開始まであと十七分しかなかった。
ようやく、救出作戦に入ります。
今回は、2日ほど時間を空けての公開になりますが、読んで頂いてる方、生暖かい目で見て頂くと嬉しいです。お見捨てにならないように、お願い申しあげます。m(__)m
誤字脱字がありましたらご指摘下さい。