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時代遅れの剣豪  作者: 群龍猛
第一章 Σ(シグマ)惑星で大暴れ!
5/16

Episode4 Σ(シグマ)惑星生態研究観測所

このエピソードには、やや残酷な描写があります。

苦手な方は、読み飛ばして下さい。

 地球の森林自体を実際の目で見たわけではないアオ二等兵にとっては、Σ(シグマ)惑星に原生する樹木が似ていると言われてもピンとは来なかった。

 多分、斜面を分け入って先に進むシロウ上等兵も同じだろう。

 クローン兵は、地球への立ち入りは厳禁であり、成層圏内にも入る事は許されていない。

 それは上級クローン兵でも同じで、地球はオリジナルと呼ばれる、クローンではない人々の聖域であった。

 当然、全く、見た事が無いわけではない。ガニメデにある軍事教練所内の熱帯雨林帯もしくは、針葉樹林帯や寒冷地帯を想定した模擬戦闘などとは言えないような実践さながらの軍事訓練では、地球から移植された植物などには触れていた。

 他にも他惑星の奇妙な植物類や巨大な菌類が林立する環境なども合わせて、様々な模擬戦闘軍事訓練も経験はしている。

 それを踏まえても実際の原生している植物に関して、模擬戦場とは違う乱雑さがあった。それは、歪ではあるが、どこか人知を超えたものがあるような大地の空気があった。


 Σ(シグマ)惑星の熱帯雨林を形成するのは、地球で言う針葉樹林のようなもので、それぞれの背が高い。中には四十メートル以上はあろうかと言うのもあった。

 針葉樹林のようであるが、その大樹の表面は全く凸凹がなく、茶色の金属の棒が突き刺さっているような姿をしているのも特殊だった。やや湿気が多いためなのかその表面は、触るとじっとりとした湿気がついてくる。

 その湿気を水分補給としてもこの惑星独特の植物は、取っていると惑星観測記録には報告されている。


 その針葉樹林のような木々の落ちた葉なのかどうか分らないが、長く堆積した植物の葉で腐葉土化しているともあってか山肌は、踏むと水を含んだスポンジのような踏み心地だった。

 二人は、言葉も交わさず、黙々とその山肌の斜面を登る。

 ここら一帯の森林地帯は、周囲の山稜を絨毯を引きつめるように被さっていた。

 当然、彼らが登攀している山も、山頂を含めこの手の樹林でビッシリなのは、降下中の上空からも確認している。

 森林の内部は、高い木々により、日光が遮られ、あまり日が差さないが、それでも地球でい言うシダの様な植物が、一面に群生している。少ない日光でも生育が可能なのだろう。

 その他にも地球では絶対に見ることのないであろう奇妙な形の植物が、あちこちにある。

 確かに、これらを見た環境学者は、興奮冷めやらぬ状態になるのかもしれないと、アオ二等兵が思うほど、多種多様な植物が群生している。

「そんなに珍しいか?」

 先を行く、シロウ上等兵が足を止め、振り返ってアオ二等兵をニヤ付いて見下ろす。

「ええまぁ」

 斜面なのでやや上向き加減で顔を向けると、アオ二等兵は答えた。

「あんまり、キョロキョロしてると足を根っ子に取られるぞ。こけたらそのまま滑落するから気をつけろ」

「はい」


 目的の観測所までの案内は、戦闘用ヘルメットにアタッチメントで、左目を覆う形で装着されている光学透過ヘッドマウントディスプレイが、方角を指し示していた。

 東西南北のみならず、Σ(シグマ)惑星の経緯度など必要な最低限の情報が、常時表示されている。

 また、作戦実行経過時間も表示されており、既にアオたちが山麓から登攀とうはんし始めて、一時間を経過していた。

 目の前の透過ディスプレイでは、間もなく目的地に着く。

 二人ともこの程度のも傾斜の登攀ならば、今の兵装ならば息切れする事も無く難なく山頂まで行けるだろう。

 オリジナルならば、既に息切れしてしまう速さではあるが、肉体強化されたクローン兵士にとっては、この数倍の速さでも休む事無く登りきる事が出来る。


 目指す観測所は、正式名はΣ(シグマ)惑星生態研究観測所。

 惑星の生態のみならず、地形、地質、気候などを科学者が長期赴任して調査する研究所を兼ねている。この惑星の研究は、政治的な思惑も絡み、発見から直ぐには行われず、本格的に学術的研究が行われだしたのは、ほんの三十年前からであった。

 それでも、本格的観測所施設の設置は、先送りされ続け、ようやく様々な利害関係を克服して山腹に十年前に建設された。常駐研究員が三十名前後の長期滞在が可能になったのは、つい最近であった。

 しかし、施設の管轄は、地球連邦府宇宙移民管理局のままで、政治的に移民計画が頓挫した際の名残のまま、人員は研究部門で、施設は移民部門の管理する極めて非効率な公共施設の一つでもあった。

 そのせいもあるのか、同観測所の情報は、地球連邦軍側には殆ど流れてこない。

 そこへ向けて、二人の下級クローン兵は、ようやく到着しようとしていた。

 予定よりも一時間ほど早く、着く事になった。


 勾配がきつかった山腹が、急に水平に切り開かれるところに二人は、両足を乗せ立ち上がった。

「こりゃまた……」

 シロウ上等兵がヘルメット脱ぐと額の汗を左手の甲で拭った。眼前にあるはずの新築間もないはずのΣ(シグマ)惑星生態研究観測所が、爆雷を受けたのか、その殆どが原型を残さない形で黒い残骸として開けた山腹に広がっていた。

「非軍事施設を攻撃するのは、宇宙交戦協定違反じゃなかったですか? それも非自治領外では特に」

 一応、軍事教練所での宇宙交戦協定など一通りの軍事的交戦規約は、新人クローン兵でもあるアオ二等兵も学んでいた。この場合、明らかに正体不明の物が、非軍事施設を一方的に攻撃したのが分ることだった。

「そんなものが、今だかつて公正に守られたって話は、古今東西いやいや、宇宙交戦でもトンと聞かんがな」

 皮肉の篭ったシロウ上等兵の現実的常識の返答であった。

 いざ、戦局が開かれれば、非軍事施設なのか、軍事施設なのか交戦地域では、直ぐに見分けが付き難くなる。そうなると、最終局面の面制圧以外では、空爆などでは協定の効力は、紳士協定以下に成り下がる。


 眼前に広がる施設の破壊行為が、それに当てはまるのかは別問題だが、少なくとも現実としては、観測所は壊滅していた。

「生存者の確認を一応、しとくか……」

 シロウ上等兵が嘆息交じりにヘルメットを被り直し、両手にレーザー銃を握り、警戒しつつ破壊された施設の残骸に足を進めた。それに、無言でアオ二等兵も後に続いた。

 施設の破壊は、爆雷のもので間違いなく、破壊されて既に数日が経過しているのだろうか、残骸後には焦げた後があるが、既に全て焼きつくされた様な状態になっていた。

 観測所にあったと思われる機器類は、完全に爆発とその後の火災などで破壊され尽くしており、元の原型を保っていない。

 ただ、不思議な事に三十名以上いたであろう研究員達の遺体らしきものは、全く見当たらない。あるのは、見渡す限りの破壊された残骸ばかりだった。

「完全にやられてますね……。メインサーバも破壊されていますし、データを得るのも難しいでしょうね」

 森林の中と違い、二つの太陽が直接当たる元観測所のある辺りは、日差しが強いためか頬に汗が滲み出てきたのか、顎に滴りだした汗をアオ二等兵は右手で拭った。

 一点を異常に気にするシロウ上等兵は、何も答えない。

「どうしたんですか?」

 シロウ上等兵の視線の先に何かが動いた。それは、明らかに人間思われる底厚なブーツを履いた足である。それが、残骸の奥にゆっくりと引き込まれていた。

 アオ二等兵は、それに思わず息を飲んだ。

 しばらくすると何かを噛み砕くような音と何か水の入った様な物が落ちるが、微かに聞こえてくる。

 シロウ上等兵がアオ二等兵に、左手人差し指で音のする方向の瓦礫の裏に回れと指図する。右手はしっかりとレーザー銃のグリップをしっかりと握り、トリガーに指が掛かっている。身を屈め銃床を右肩に当て、射撃の態勢に入っていた。

 アオ二等兵もそれを見て事の事態がわかり、手にするレーザー銃を構えた。指図に黙って、頷くとシロウ上等兵とは逆のに進み、瓦礫を避け、何かが噛み砕かれる音の背後に回り込む。その向かい側にシロウ上等兵が回る。

 二人が音の元を挟む形でゆっくりと進む。


 と、今度は何かを啜る様な音が周囲に不気味に瓦礫の間を反響する。

 何かの背が上下するのが瓦礫から見えた。淡いピンク色の海老のような甲羅が動いている。それが、何かを啜っていた。

 足音をさせないようにその背後にアオ二等兵は、回り込んだ。

 その時である。彼は、おぞましいものを見てしまった。

 その海老の姿をした犬程の大きさのものが、大の字で倒れている男の頭頂部の頭蓋骨を砕き、内部から真っ赤に染まった脳髄を細い前足で引き出しては、ストローなようなもので啜っているのである。サッキまでの何かを砕く音は、目の前に倒れている男の頭部を噛み砕く音で、水の入ったものを落としたかのような音は、脳髄をす骸骨から引き出す音だったのだ。

 周囲は、倒れた男の鮮血で赤いと言うよりドス黒い血の池を作っていた。

 その光景にアオ二等兵は、思わず息を飲んだ。

 この惑星の原生生物? と考えた瞬間だった。アオ二等兵は、右足に転がっていた瓦礫の破片を蹴ってしまった。その瓦礫の破片が、転がった先に元地下に行く階段があり、甲高い音を立て落ちていった。

 気づかれた! と思ったのもつかの間、無心に脳髄を啜っていた大型犬程の海老に似た生物がアオに振り向いた。数十本の足がウニウニと動き、左右に突き出た視覚を司っているだろう長い筒状の物の先についた黒い球体を振り向けた。

「アオ! 撃て!」

 向かい側に回り込んでいたシロウ上等兵が叫んだ。

 一瞬、硬直していたアオ二等兵は、意識を直ぐに戻し、トリガーを絞った。機械音がなると白い閃光が瞬いた。直線的な閃光が銃口から伸び、目の前の海老のような生き物の視覚にあたるであろう黒い球体を撃ち抜いた。

 先程まで熱心に人間の脳髄を啜っていた大形の海老のような生き物が、奇声を上げ、跳びはねるように一目散に左方向に向き、逃げ出す。それに向かって、シロウ上等兵が背後からその海老のような生き物を的確に急所と思われる体の中央を撃ち抜いた。

 海老の化物は、再び奇声を上げ仰け反るように立ち上がるとその場に倒れた。数度、痙攣のような動きを見せたが、直ぐに動きが止まった。

「なんだこの生物……」

 アオ二等兵は、海老の化物に近寄ると死を確実にするため、再度、レーザー銃で頭部に当たる部分を撃ち抜いた。ピクリともしなかった。

 シロウ上等兵の射撃が致命傷であったようである。

「シロウ上等兵は、コイツが何なのか知ってたんですか?」

 一撃で急所を撃ち抜いたその事で、アオ二等兵は彼が知っていると思ったが、帰ってきた答えは以外なものだった。

「いや知らん。勘だ」

 これが歴戦の経験というものかと思いつつ、撃ち抜いた獲物をアオ二等兵はマジマジと見た。見た目は、明らかに地球で言う海老に似ているが、ここまでグロテスクな感じではない。ましてや、こんな巨大ではない。

「アオ! この男は、どうやら中央情報局のやつみたいだな。腕章がそのマークだ」

 脳髄を引きずり出された男をしゃがんで、見ていたシロウ上等兵が腕章を指した。三角形の刺繍に星が重なるようにデザインは、安定と宇宙を指す意味を持ち、地球連邦府中央情報局のマークであった。

「オレたちと同じで、観測所に来て、そいつに襲われたんだろう」

 顎で海老の化物を指した。

「ミヨ姉さんへ、その化物の映像を送れ。何か解るかも知れない」

「了解」

 ヘルメットにアタッチメントされた光学透過ヘッドマウントディスプレイの通信機能をアオ二等兵は入れた。

「は〜い。ミヨちゃんで〜す。アオくん、生きてた?」

 右目の透過ディスプレイに陽気なミヨが映し出された。一気に緊張感が抜ける。

「観測所は、破壊されていました。そこで、人間の脳髄を啜る生物に遭遇。排除しました。その生物の情報が欲しいですが、映像送ります」

「まぁ〜怖い。いいわよ。送って、直ぐに解析する」

 透過ディスプレイをそのままグロテスクな海老の化物に向けた。

「見るからに海洋生物ね……。そこから、海までは、結構な距離なんだけど、Σ(シグマ)惑星では、そんな大きな甲殻類の生物は発見されていないんだけどな〜」

 と、何やらミヨがコンソールルームを操作しているのが、映像に映し出されていた時だった。シロウ上等兵が、不意に立ち上がった。直ぐに、手のレーザー銃を構えた。

「シロウ上等兵なにかありました?」

 アオ二等兵に対しての返答はない。

「アオくん! 直ぐ逃げて! それ、この惑星の生物じゃない! ノルドスっていう、別の星系の家畜生物よ。地球で言う、猟犬みたいなの。近くに、その飼い主というか、多分、ノルドイド人って危ない奴がいるわ!」

「え?」

 その慌てた声にアオ二等兵が立ち上がった瞬間だった森林奥から無数のノルドスが現れた。

「こいつら、始めからここにオレらが来るの待ちぶせしてたんだよ。寝っ転がってる奴もそれで、殺られたんだろう」

「ノルドイド人もいるって、ミヨさんが……」

「あれだろ」

 元観測所に隣接する森から、長い六本足のと鎌のような両腕を持つ、胴部と頭部がカニのような灰色の甲羅を持った生物が姿を現すのをシロウ上等兵は、顎で指した。

「全部でそのエビが、三十匹。カニ野郎が十体といったところか」

「そ……そんなに……」

 単純な数では、こちらの二十倍。アオ二等兵の背筋に悪寒が走った。

 直ぐに、レーザー銃を身構える。

「アオ! 焦るな。あのエビは、中央に心臓がある。そこを撃ち抜けば、即死だ」

「は……はい」

 この状況下で冷静な判断力を見せるシロウ上等兵にアオ二等兵は、そう答えた。軍事教練所の教官でもこんな絶対不利な状況で、こうも冷静に敵の弱点を見抜けるだろうかと頭をよぎる。

 これが、経験というものの差か……と心の中で、呟く。

 森から姿を現したノルドスとノルドイド人は、高い金切り声を上げてジリジリと周囲を狭めている。ノルノイド人が鎌のような腕で、しきりに仲間に回り込めと合図を出すような指図を出し、何か甲高い音を立てる。

 戦闘用ヘルメットには、あらゆる異星人の言語を翻訳する機能があるが、それは登録されている異星人だけであり、目の前のノルドイド人は、登録されていない。

 その前に友好的では、とても思えない訳ではあるのだが。

 一体のノルドイド人が一段と高い奇声を上げた。

 それに応じる様にエビの姿をしたノルドイド人の猟犬でもあるノルドスが一斉に飛び跳ねながら二人に飛びかかってきた。

「アオ! 撃て! 慌てるなよ」

 シロウ上等兵のレーザー銃の銃口が、連続して閃光を放った。あっという間に飛びかかってきたノルドスの心臓を的確に打ち抜き、五匹を仕留めた。

 アオ二等兵も数発放ったが、命中したのは一匹でそれも心臓部ではなく、その直ぐ横で致命傷を与えられなかった。

「慌てるなって」

 ニヤリをシロウ上等兵は、ウィンクすると続けざまにトリガーを絞り、確実に一発も外すことなく、次々にエビの猟犬を仕留めていく。見る見るうちに、ノルドスの死体の山が出来上がる。

 その背後で奇声を上げるノルドイド人。

 三十匹ほどいたエビの猟犬は、殆どがシロウ上等兵のレーザー銃の餌食になり、2匹ほどになっていた。その状況にエビの猟犬は、尻込みをし始めた。黒い球体をしきりにノルドイド人達に向けている。

「どうした? 終わりか?」

 シロウ上等兵が笑うように挑発をする。横のアオ二等兵は、全く当たらないので、その挑発的言葉に冷や汗が出た。

 とその時、苛立ったのかノルドイド人の一体が尻込みするノルドス2匹を自分の持つ、鎌で横一閃で叩き切った。甲高い声を上げると、周囲で見守っていた十体が動き出した。

「そうこなくっちゃ〜」

 とシロウ上等兵が目の前に近づく、一体へレーザー銃の閃光を見舞った。が、白い閃光が狙ったノルドイド人の灰色の甲羅に当たった瞬間、光線が空を突くような音を響かせると、あらぬ方向に弾き飛ばされた。

「おや? レーザーが弾き飛ばされたぞなもし。どういう事? 聞いてるミヨ姉さん」

 通信回線は開いた状態であったので、直ぐにシロウ上等兵が回線先のミヨに聞いた。

「映像で見る限り、そのノルドイド人たちは、高分子反射素材を自分の甲羅にコーティングしてるみたいね。甲羅を狙っても反射されるだけだわ。弾丸式は、持って行ってないでしょ」

「うんだな。打つ手なしかね?」

 アオ二等兵は、シロウ上等兵の危機感を感じさせない会話に驚いた。自分の兵装が相手に通用しない状態で、どこにその余裕が出てくるのか。

「逃げても、彼らは時速100キロメートルで走れるから逃げるにしても無理ね」

「完全な袋小路ってわけか」

 鼻先で笑いながらもシロウ上等兵は、レーザー銃をにじり寄るカニを歪にした姿のノルドイド人に向ける。

「いい加減、急所を教えてよ。ミヨ姉さん。あるんでしょ」

 急所? それを待ってたわけなのかとアオ二等兵は、シロウ上等兵を横目で見た。

「バレた? 多分だけどノルドイド人は、目が三つあって、二つ突き出てる目の真ん中に1センチ程の目があるの。そこはコーディング出来ないからレーザーでも効果があるわ。その目の後ろが、脳幹部だからそこを撃ち抜かれたら、即死ね」

 何をこの二人は悠長に話しているんだと、アオ二等兵は怒りに似たものが沸々と湧いてきた。知ってるなら早く言ってくれよと心のなかで叫ぶ。

「真ん中ね」

 と言ったか言わないかの間にシロウ上等兵は、トリガーを絞った。閃光が走る。

 寸分の違いもなく、にじり寄ってくる前方のノルドイド人の両目の真ん中を撃ち抜いた。

 そのまま、ピタリと動きを止め、前に倒れた。即死のようだった。

「ミヨ姉さん。ご名答」

 笑ってシロウ上等兵は答えた。というか、距離はそんなにないとはいえ、いとも簡単によく1センチの急所を一発で打ち抜けるものだと、アオ二等兵はその驚異的腕に驚いた。

 軍事教練所の狙撃教官でもそんな芸当は出来ないに違いなかった。

 左目の透過ディスプレイには、右ほっぺにVサインを作っているミヨが映る。

「ということで、アオは、そっちのカニ野郎五匹お願いな。オレこっち片付けるから」

 と軽く言うと、左回れして左側のノルドイド人へ向かった。

「え! ちょっとそれ無理!」

 と言ったが遅かった。右側からノルドイド人がノシノシと半分の五体が寄ってくる。

 ともかく、両目の真ん中を狙えばいいわけだ! と自分に必死に言い聞かせて、アオ二等兵は、トリガーを引くが、力みすぎたのか若干、光線の軌道が左に反れ、真ん中どころか左目を撃ち抜いた。悲鳴にも似た奇声を上げる中央のノルドイド人。

「あ……失敗したし。怒らせちゃった見たいだし……」

 右目を撃ちぬかれたノルドイド人が、怒り狂って突撃してきた。

「わわ!」

 と咄嗟にレーザー銃を掲げたのが悪かった。怒り狂ったノルドイド人の左腕の鋭利な鎌が振り下ろされ、アオ二等兵が持っていたレーザー銃が真っ二つに切断された。

「げ!」

 アオ二等兵の唯一効果的と思えるレーザー銃が破壊された時だった。ほぼ、反射的だった。

 彼は、背中に背負っておいた日本刀の柄を握り、引き抜くやそのまま襲いかかってきたノルドイド人の両目真ん中の甲羅を上から叩き切った。

 その反動を利用して、アオ二等兵は横に飛び、右手に襲ってきたノルドイド人を横一文字に切り裂いた。ズルリとノルドイド人のカニのような身体が横にボトリと落ちる。その返す刀で、真正面にいたもう一体を上段からキッチリ立て真っ二つに切り下げる。

 切られたノルドイド人の体が立て二つに割れ、左右に半分づつ、緑色の鮮血を吹上て倒れる。

 振り下ろされたアオの日本刀の刃が、クルリと返り、左手にいた一体を下から電光石火の速さで、切り上げられる。絶命の奇声も上げる間もなく、割れて倒れる。

 残ったノルドイド人の一体が、ものの数秒で四体も切り伏せられた事に焦ったのか、後退りし始めたが、それに向かってアオ二等兵の切っ先が、弧を描き上段から真ん中を真っ二つに切り伏せた。

 その甲羅の重さを地面に響かせて、最後の一体も息絶えた。

「はーはー」

 切り下げた姿勢のまま、アオ二等兵は固まっていた。自分がどう動きどう切り伏せたかなど、もう意識にない。

 先に左側のノルドイド人をさっさと仕留めたシロウ上等兵が、加勢に来ようとした時、その凄まじい剣裁きに声を失っていた。

「お……お前、凄いな。あっという間に切っちゃったよ。軍曹も真っ青の剣術じゃないか!」

 声をシロウ上等兵が掛けても、息を荒くしたアオ二等兵は、まだ固まったままで、呆然としていた。自分が何をしたのかわからないかのような表情をしているのが、シロウ上等兵に見える。

「おい! アオ! 大丈夫か?」

 目の前で手を数度降って、意識があるかシロウ上等兵がした時、我に返ったかのようにアオ二等兵は目を瞬かせた。

「なんとか、大丈夫です」

 大きく深呼吸した。その時だった。不意に足の力がスッと抜けた。アオは体が支えられなくなり、そのまま後ろに引っ張られるように足がともたついた。

「おい! そのまま行くと、落ちるぞ!」

 とシロウ上等兵が声を掛けたが、時既に遅く、アオ二等兵は切り開かれた山腹の平地から足を踏み外し、急勾配の斜面を滑落した。

「わわ〜」

 滑落は、勢いを増し、斜面を下っていく。アオの体は、いたるところを木々にぶつけながら、どんどん落ちていく。

 と不意に滑落が止まったような感覚に一瞬なった。何とか意識を保っていたアオ二等兵だったが、それが止まったのではなく、斜面に開いた空洞に落ちている事に直ぐ気づいた。

「あ〜これで死んじゃうの〜?」

 アオ二等兵は、滑落の次に空洞に落ちていくという、二重の不幸に自分を呪ったが、残念なことに呪っても現実として、暗闇の底に落ちていくのは変えられないようだった。

ようやく、話が一回目の核心に迫って来ました。

お付き合い頂けると、作者は飛び跳ねて喜びます。


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