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時代遅れの剣豪  作者: 群龍猛
第一章 Σ(シグマ)惑星で大暴れ!
3/16

Episode2 Σ(シグマ)惑星へ降下

視点の切り替えは、「†」のマークです。

 艦橋司令室の全面に広がるモニターに青白い光が微かに光った。

 それを目にしたマリサ・アルバーニ大佐は、苦々しい表情を浮かべ軽く舌打ちをした。

「チャレンコフ放射、および放射付近にて磁気変動を確認。ゲンジロウ分隊機は、ジャンプしたようです」

 指揮官席下部に座乗するレーダー観測官が抑揚なく、報告をあげる。

「分かってる。見れば分かることだ!」

 その険のある言葉に、観測官が首をすくめた。

 別に観測官に当たるのは筋違いの事なのだが、マリア・アルバーニ大佐にとっては、声を荒らげずにはいられなかった。これでは、艦内の規律が保てない。

 ゲンジロウ軍曹率いる分隊の命令違反は、彼女がこの艦の艦長に就任して何回目だったろうか。考えるだけで、頭痛がしてくる程、嫌になった。

「オリジナルの英雄と言うだけで、軍規を破って良い道理はない!」

 その整った輪郭と薄っすらとピンクに濡れた口元からは、苛立った口調の声が漏れると、そのまま、艦長席に不機嫌な態度で座った。肘掛けに右肘を載せ、その流れるような美しい顎に右手の甲を持たれかける。

 これから第三艦隊提督にこの件を報告せねばならないが、自分の管理不届きで失点にならないかと思いを巡らす。

 上級クローン兵として、下級とは違い指揮系統特性の遺伝構成を組み込まれ、士官候補として軍事教練所からここまで順調に昇進してきた。数々の同期の上級クローンとの競争に彼女は、少ない失点で勝ち抜いてきたのだ。同期の上級クローン兵の中では、この年令で大佐まで昇進したのはいない。いわば、彼女は、同期では出世頭であった。

 当然、彼女にもその自負がある。

 そして、ようやく念願かなって、三年前にこの艦の艦長に就任した。

 が、どうもそのキャリアの道に怪しげな雲が垂れ込めてきたのが、分かったのは直ぐであった。


 ゲンジロウ・サナダ軍曹。

 第三艦隊巡洋艦キリシマ所属のモックス強襲部隊第15小隊第9分隊隊長。

 140年前の第一次地球連邦軍キューペット星系攻略派遣部隊の生き残り。

 ハリケーン・ゲンジロウの異名を持つ、クローン兵ではないオリジナルの英雄。


 これが、彼女にとっての目の上のたんこぶ、昇進の障害であることが、この三年の戦闘でハッキリしていたからであった。

 ともかく、愚連隊まがいに直ぐに命令外行動を取る。そして、忌ま忌ましいことに必ず、戦果をキッチリ上げてくる。これでは、指揮能力が彼女にないかのような印象を上層部に与えるのだ。

 今回の件も上官命令の軍規違反である。

 今度こそ何度試みたか考えたくない軍法会議で、処罰されこの艦から叩きだしてやる気でいた。

 と、そんな沸々と湧き上がる怒りと思考を巡らし、どう報告を上げるか言葉を選んでいた時である。

「艦長。ブラウン提督から通信が入っています」

「ブラウン提督?」

 第三艦隊司令官でもあるブラウン提督から直接、同艦へ通信とは穏やかではない。

 もうゲンジロウ分隊の一件が、既に耳に入ったのだろうか?

 それにしては、早いようにマリサ・アルバーニ大佐には、思われた。だいたい、処罰などの申請経由なら逆のはずである。

「分かった。繋いでくれ」

 艦橋司令室前のスクリーンに、マリサ・アルバーニ大佐とさほど年齢が変わらない金髪を短く軍人らしく切り揃えた、端正な顔つきの青年が映しだされた。ぱっと見には、二十歳後半くらいにしか見えない。しかし、外見とは違い、その年令はゆうに六十歳を超えている。彼も上級クローン兵であり、肉体的老化現象は三十歳前で止まるように遺伝子操作されていためだ。

 正装軍服の胸には、地球連邦中将階級章が階級の壁を誇示するかのように張り付いている。

 すくりとアルバーニ大佐は、立ち上がり右手で敬礼をした。

「難しい顔をしているな。ゲンジロウ軍曹の件だろ」

 目の前のスクリーンに現れた若い顔つきでありながら老練なブラウン中将が、鼻先で笑うように口火を切った。

 報告するまでなかったらしい。

「その件は、後ほど詳しく報告を……」

 考えてみれば、報告云々の手順は、所詮は軍の規律からの建前上の話であって、ああも派手に近くでジャンプされれば、第三艦隊旗艦でも察知されるのは当然だった。

 ベリオン星系での防衛戦への参戦準備待機中の軍令下で、戦力を割くような行動をするのは、限られている。どこの所属の者か調査すれば数秒と掛からず、分かる。

「報告はいい。私が、捜索命令を出しておいたことにする」

 唐突な話にアルバーニ大佐は、眉間に皺を寄せた。これは、事後追認を提督自らするということになるが、どうも腑に落ちない。

「それでは、軍規の規律が乱れてしまいます。具申させて頂ければ、この一件は厳罰に処するべきかと思います」

 凛とした口調で彼女は、スクリーンの先にいる提督に自分の意見を述べた。心の内では、軍の規律だけで厳罰を求めているわけではない。しかし、軍の規律と言う側面では正論であろうことは、二人の間だけではなく、このやりとりを艦橋司令室で聞く搭乗員でも分かる。

「軍の規律ならな。この件は、どのみち捜索命令が統合幕僚本部から発令される。幾分、前後しても問題はない。まぁ、誰が行くかは別問題だったがな」

 統合幕僚本部から司令? と彼女は、訝しんだ。確かに、全権大使の行方不明は、地球連邦としては大きな問題であろうが、ケンタウルス連星系は、地球連邦の実行支配下にある宙域である。距離にして、4光年強しかなく、一回のジャンプで十分に行ける範囲である。

 と言うことは、軍が捜索するよりは、地球連邦政府中央情報局などの行政機関が行うのが筋である。態々、ベリオン星系での防衛戦への参戦準備待機が軍令でだされている中、軍が関わるものではない。優先事項が違う。

「まぁ、この件は、そちらに技術研究所の技官を向かわせる。その際に、詳しい事情を聞いてくれたまえ。技官殿は、オリジナルの方だから丁重に出迎えるように」

「オリジナルの技官ですか?」

「そうだ。技官殿が到着次第、キリシマもケンタウルス連星系に出向いてもらうことになる。出航は、近日中になる予定だ」

「それは、キリシマも捜索に参加せよということでしょうか?」

 彼女は、極めて冷静な表情を保ったが、内心、混乱していた。クローン兵ではい地球連邦政府直属の機関である技術研究所技官、曰く、クローン生産されていない純粋な人類が、戦場の前線に出向く艦船に乗艦するなど彼女が知る限りないことだった。

 ある一部の無頼者を除いては。

 それだけではない。自分たちも、そのオリジナルと共に捜索に出向けと言われていた。

「そうなるな。いろいろと腑に落ちないこともあろうが、私もオリジナル達の地球連邦政府の意向が、どこにあるのか詳しくは分からんのでな。乗艦する技官殿にでも聞いてくれたまえ」

 と、最後にブライト提督は、無愛想な口ぶりで通信を一方的に切った。彼もまた、この件で蚊帳の外に置かれた立場なのであろう。所詮が上級クローン兵とは言え、地球連邦政府内のオリジナルの政治的決定には介入は出来ないのだ。

「なにが起こってるのか、さっぱりわからないな……」

 アルバーニ大佐は、そのまま艦長席に腰を放り出すように下ろすと、独りごちた。

 ともかく、その技官を待つしかない事は、ハッキリはしていた。


          †


 ジャンプが抜ける瞬間を新人クローン兵であるアオは、初めて経験した。

 なんとも言えない、気持ちの悪い開放感といっていい。体中に粘りついた水の重圧が、ヌメっと取れるようなそんな感覚だった。

 隣に座乗しているシロウ上等兵は、大きな欠伸ををして背伸びをしていた。

「どうやら着いたな。まぁ、4光年強じゃこんなもんか」

 再度、欠伸を殺しながらまた深々と背もたれにもたれ掛かった。

 ケンタウルス連星系についての知識は、軍事教練所で強制的に脳内にインプットされた情報として、地球から最も近い3個の連星で構成される星系であるということは知っていた。

 特にアルファケンタウルスA、Bと呼ばれる恒星は、太陽と同じ大きさの恒星で、3つ目のプロキシマケンタウルスは、若干、離れた位置にある。アルファケンタウルスBには、ファーストコンタクト以前から惑星が存在していることが知られていたらしく、亜空間ジャンプ航法が確立されてから幾度と無く、調査され地球環境に適していると思われる惑星も発見されている。

 それが、アオが搭乗する第9分隊専用強襲揚陸戦闘機の窓から、微かに見える青みがかったΣ(シグマ)惑星だ。

 ただ、当然、そこは知的生命体は存在しないまでも、独特な生態系を既に生み出しており、地球にいるオリジナル達の間では、テラフォーミングして移住可能することも検討されたが、猛烈な環境研究を主張する科学者達の反対にあい頓挫した経緯があった。

 ファーストコンタクト後もこの宙域は、地球連邦の直接支配下であることは北銀河連合でも承認されている。

 その宙域にまで、第9分隊専用強襲揚陸戦闘機は、約十分強でジャンプしたわけだが、そもそもアオにとってなんでここに来たのか全く知らない。

「シロウ上等兵。ところで、私たちは何の作戦でケンタウルス連星系に来たのですか?」

「ふにゅ?」

 欠伸の途中で声を掛けられたので、隣のシロウ上等兵はどこから音が出たかと思うような変な返事をした。目は、欠伸で出たと思われる涙が出ている。

「知らん!」

 と、キッパリと答えた。

「えっと……」

 アオ二等兵は、次の言葉を考えていたが思いつかなかった。

 上等兵は、鼻歌交じりに足元においてあった歩兵用レーザー銃の銃身を磨きだした。

「隊長〜着きましたぜ〜」

 前方の操縦席からまた気の抜けたヤル気の全く感じられない声が聞こえてきた。


「おう! 着いたか」

 と応じる野太い声で、今の今まで高鼾を上げていた軍曹が応じて、ノソノソと陣取っていた後部座席から背伸びをしながら、既に通信兼各種センサーを集積しているコンソールルームで忙しなく、腕を動かす、女性通信士・ミヨの背後に向かっていた。

「どうだ? なんか見つかったか?」

「うーん。そうですね。たぶん、全権大使を載せた宇宙航行船が、Σ(シグマ)惑星の近くで強制的にジャンプアウトした形跡はありますね。通常では見られない、地場の乱れがありますから。ただ……」

「ただ? なんだ?」

 ミヨの勿体ぶった言い方に、軍曹が畳み掛ける。寝起きなのか、やや不機嫌な口調である。

「他に何隻かのジャンプアウトした形跡もありますね。磁気の乱れ方の分析してみたんですが、地球連邦のものですね。多分、中央情報部の高速艇のようです」

「ほう。既に捜索の為の行動は、してるようだな」

 そのやり取りに聞き耳を立てていたアオ二等兵は、チラリと横のシロウ上等兵を見たが、全くそんなやり取りには関心がないかのように銃身を磨き上げている。後ろに座っている伍長はどうなのだろうかと、思ったが、微かに寝息が聞こえてきた。

「寝てる?」

 この人たちは、作戦内容が全く気にならないのだろうか?

 自分たちの生死を分ける内容なのに。修羅場を乗り越えるとその辺も麻痺するのだろうか?

 というか、単に鈍いだけ?

 とか、何だかとてつもなく不安な気持ちが増してきたアオ二等兵。

「まぁ、先行してこのΣ(シグマ)惑星に捜索に着てるんなら、ここら辺りが怪しいな。サブロウ! この惑星に降下だ!」

 威勢の良い声を出して軍曹が、先頭の操縦席に振り向き指示を出した。

「へ〜い」

 気の抜けた返答があると、機体がガクンと前方下に傾いた。

 第9分隊専用強襲揚陸戦闘機は、Σ(シグマ)惑星へ降下態勢に入った。

2話目は、ちょっと短かったかも。

これからジックリと話は進みます。

誤字脱字がありましたら、お知らせください。

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