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時代遅れの剣豪  作者: 群龍猛
第一章 Σ(シグマ)惑星で大暴れ!
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Episode1 いざ、ケンタウルス連星系へ!

 地球連邦軍の正装軍服であるダブルの背広の袖に見せる階級章にあたる金線。

 胸に大佐の階級章と軍帽姿に軽く内側にウェーブ気味に入った長い黒髪と青い瞳と整った輪郭、流れるような黒い眉を持った知的な女性士官が立体ホログラムに実物と寸分も変わらぬ様に浮かび上がっていた。

 その立体ホログラムは、右手をコメカミではさみ、俯いていた。微かに肩が震えているように見える。

 そのホログラムの前に一回りほど大きい偉丈夫といって良い、緑色の戦闘軍服に身を包んだゲンジロウ軍曹が直立不動で立っている。

 ゴツイ角ばった顔にあるタレ目の目線は真剣な眼差しで、そのホログラムの女性士官のやや上に向けてある。

「で、私が聞いているのは、誰がその全権大使捜索に行くように、命令したかと聞いているのだが? サナダ軍曹」

 コメカミを抑えうつむいたまま、正装軍服の女性士官が険のある口調で、軍人の見本とも言える直立不動のゲンジロウ軍曹に質した。

「すいません。アルバーニ大佐、亜空間通信の具合が悪いようで、聞き取りにくいのですが……」

 ゲンジロウ軍曹が左手をコッソリと背面の腰辺りに持っていくと、何かを押すような仕草を、後ろに控える茶色毛を後ろに結った若い女性通信兵に対して合図を送った。

 それを見た女性通信兵は、ニヤリと笑う表情を見せるとコンソールに向き合い、モニターに映しだされているコンソールの一箇所を軽く左指先でタップした。

 すると先程まで実物と見違えるような立体ホログラムに急にノイズが入る。

「ならもう一度言う! そんな命令は、私は出していない! 司令部からも出ていない。即刻、当艦に帰投せよ! これは、上官命令だ!」

 知的に見えたホログラムの女性士官が、コメカミを抑えていた右手を解き放ち口調を荒げながら顔を上げた。額にはハッキリと血管が浮かんでいるのが見える。

 直立不動で立つゲンジロウ軍曹の鼻先に、その右手の人差し指が今にも突き刺さらんばかりに突き出されていた。

 立体ホログラムのノイズが、更に激しくなり、鮮明な立体画像が所々にモザイク変わっていく。

「サ……ナダぐ…軍曹! これは……明確な……上官命令違反だ! ……ぐ…軍法会議ものだぞ……覚悟して…お……」

 女性士官の声は、途切れ途切れになりつつも、鬼気迫る迫力で直立不動のゲンジロウ軍曹に投げられる。が、立体ホログラムが唐突に光を失うと最後は、聞き取れずに切れた。

 ゲンジロウ軍曹は、涼しい顔で立っていたが、立体ホログラムが消えると、一つ軽くため息を吐いた。

「ミヨ。上手いね〜いつもながら。うっさいんだよな〜あのヒステリー大佐は。」

 振り返ったゲンジロウ軍曹は、タレ目をより一層、垂らし笑いながら、必死に笑いを堪えている若い女性通信兵・ミヨにウィンクして見せた。

「きゃ〜。上級クローンのアルバーニ大佐が青筋立てる姿って、いつ見てもおかしい!」

 抑えていた物を一気に弾けだすように女性通信兵ミヨは、腹を抱えて椅子の上で笑い転げた。

「さてと、艦長ことヒステリー大佐の恒例の小言は終わったということで、サブロウ。ケンタウルス連星系に向けて、早速、ジャンプしてくれ」

「へ〜い」

 ゲンジロウ軍曹が、やれやれというような口調で、言い終えると近くの搭乗席に腰掛けると、気の抜けた声が前方にある操縦席から声が漏れてきた。


 新人クローン兵、認識番号AOー10326は、その何とも軍隊規律とはかけ離れたようなやり取りに開いた口が塞がらなかった。

 地球時間で言うところの昨日までガニメデで、死線を彷徨うような軍事教練の5年間を終え、ようやく実戦配備されたのだが、何かが違うと思わずにいられなかった。

「おい! アオ! なに間抜けな顔で口開けてんだよ!」

 その呼び掛けに一瞬、彼こと新人クローンは解らなかった。

 自分を『アオ』とか呼ばれたことがないからだった。いつもガニメデでは、認識番号「AOー10326」だったからだが。

 軍事教練所では、常に現場でも認識番号で呼ばれることを教えこまれ、固有の名称など下級クローンは持たないと叩きこまれた。が、軍事教練所の訓練終了後、機械的に振り分けられた地球連邦第三艦隊所属の艦船キリシマ内にあるモックス強襲部隊第15小隊9分隊に赴任、数時間前、面会した際、左斜め後ろにふんぞり返って、既に寝息を立てている同分隊隊長である軍曹にーー「AOー10326?長い! 決まった! 今日からお前はAOだから『アオ』だ! 顔も青白いし! ガハハハ」ーーとニックネーム? を唐突に付けられた。

 で、直ぐに「出撃だ!」の軍曹の命令で、この第9分隊専用強襲揚陸戦闘機に彼こと新人クローン兵士『アオ』はほぼ半ば強引に搭乗させられた。まったく、作戦内容など解らぬままに。

 通常は、作戦目標などの説明があると彼は聞いていたが、今回は全くない。挙句の果てに、なにか上官である艦長から軍曹が糾弾されていた。

 意味がわからない……それが、彼こと新人クローン兵士『アオ』の今の心境だった。

「ま! うちの親分の破天荒ぶりには、新人じゃなくても驚くわな。クク」

 アオの横に並んで座っている兵士も顔つきが、自分と似ていた。アオと同じ下級クローン兵であることは間違いなかった。しかし、彼が知っている軍事教練所で出会った下級クローン達とはどこか違う。

 顔は、似てるが右頬に大きな傷跡がある。しかし、外形だけではない、どこか内面的に何かが違うものが感じられた。

 胸にある階級章から上等兵らしい。

 アオは、配属したばかりの下級クローン。故に、二等兵の下っ端階級だった。

「上等兵は、私と同じ下級クローンですよね。上等兵になるまでに大半が戦死すると軍事教練所では噂されていたんですが……」

「それね。ウソじゃないな。まぁ、前線に出る新人下級クローン兵は、一年での生存率10%切るからな。運良く、一等兵になっても、次の一年でほぼいなくなるな。クク」

 なんともこの上等兵の最後の皮肉じみた笑いに、アオは背筋に悪寒が走るどころか凍った。と言うことは自分もその生存率に置かれるからだった。

 あの軍事教練所での噂は、ホントだったのだ。地球にいるオリジナル達の身代わりとしての消耗品。それがアオたち、下級クローン兵の実態。

 アオの顔が更に真っ青になっていく。

 と、その時、鈍い何かを殴る音がアオの耳に入る。

「痛て!」

 鈍い音は、上等兵の後頭部が背後から拳で叩かれた音だった。

「なに、新人をビビらせてるんだよ! シロウ!」

 上等兵席の後ろに搭乗していた黒髪をショートに切った黒い瞳が特徴的な女性兵士が、立ち上がり身を乗り出し、怒鳴った。下級クローンに良く見られる欧州系とは違う、アジア系遺伝子を幾らか配合された女性クローン兵士らしく肌がやや黄色味掛かっていた。

「なにって、事実を教えてあげてるんだが。フネ伍長さん!」

 と再び、上等兵の後頭部に拳が入った。

「痛い!」

「お前。今、わざと言っただろ私はフローネ伍長! フ・ロー・ネ! フネとか呼ぶな!」

 右口元を引き攣らせながら伍長が、拳を震わせシロウ上等兵に凄んだ。

 それに圧倒されるアオは、呆け顔で口をポッカリと開けた。

「フネって軍曹が、付けたんじゃないっすか! フローネって……痛い!」

 三度目の拳がシロウ上等兵の右頬にヒットする。すでに伍長の左手が青く発光するレザー刃のアーミーナイフを握っている。

 伍長の目が、もう尋常ではない程の殺意を漂わせているのが新人クローンにも分かった。

「そろそろ、ジャンプすっぞ〜」

 とその時、操縦席から気の抜けた声がしてきた。

「ご……伍長。ジャ……ジャンプするって。座席に座って下さい。はは」

 シロウ上等兵の頬に薄っすらと冷や汗が垂れる。

「今度、言ったら殺すぞ……」

 そう言うと、伍長が渋々、アミーナイフをしまい、所定の座席に腰を下す。

「ふ〜。あぶなかった……」

 シロウ上等兵は、額の汗を右手の甲で拭うと、深々と座席の背もたれに寄りかかった。

 それを横目にアオも背もたれに寄りかかる。

「ともかく、よろしくな。オレは、シロウだ。生きてりゃ、後でなんかおごってやんよ。クク」

 最後の皮肉めいたシロウ上等兵の篭った笑いに、猛烈な不安感を覚え新人下級クローン兵『アオ』は、急速に身体に加重が掛かるのを覚えた。

 地球人が光速不変の原則を突破し、宇宙への希望を広げた事の代償と共に宇宙の戦乱に巻き込まれる技術となった亜空間ジャンプが、第9分隊専用強襲揚陸戦闘機をケンタウルス連星系へ運びだした瞬間だった。

 それでも、分隊長ことゲンジロウ軍曹は、高鼾を上げて眠り込んでいる。

 この分隊は、なんか変だ! と『アオ』は、心で叫んだ。

ともかく、プロローグに続く、1話目を書いてみました。

誤字脱字は、ご指摘頂くと嬉しいです。

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