Episode13 夜明けの決着
視点の切り替えは、「†」のマークです。
空気を高熱が切り裂き、赤い発光としなりを持った曲線の触手がアオ2等兵に襲いかかった。
それを彼は、素早い体捌きで右手に周り、下段に構えていた刀を左斜め上に切り上げ、その高熱に包まれた触手を弾き飛ばした。
直ぐさま、彼の半回転した背面に尽かさず、上中下に隙きなく、白く発光する触手が空気を切り裂く音と熱を持った空気圧をまとって襲い掛かってくる。右足が地面を滑り、彼の態勢がキレイな曲線を描き、更に反転。
切り上げられた刀が一閃。
三本に白く発光する触手を地面に叩き落とした。
息をつくまもなく、左手に二本の白く発光したした触手が上から重なるようにアオ2等兵に襲いかかる。
目線が向く前に彼の両腕が動き、襲い来る二本の触手を、更に跳ね上げる。その剣戟の強さに触手の持ち主であるガバナ騎士のペタゴニアの巨躯が跳ね上げられた触手に引きづられ、態勢が後方へ揺らいだ。
アオ2等兵の思考より、彼自身の剣戟は一歩早く判断されていた。まるで自分ではないような動きにアオ2等兵は、自分自身に冷静にではあるが驚いていた。
まるで、マシーンのように正確に危険を察知した瞬間に腕と足と腰など様々な部位が、連動して強烈なガバナ騎士の斬撃を跳ね除ける。それも易易とである。しかし、これに対して格段の驚きはなかった。
アオ2等兵には、この動きにハッキリとではないが確信とも言える何かを自分自身が持っているらしいことは、分かりかけていた。それも一度ならず何度か使った曖昧な記憶がそう彼に囁くのだ。
そう、この惑星ではないどこかで、彼は同じようにこの驚異的な剣術を使った記憶が囁いている。
「うぬぬ」
もう何度となくの会心の斬撃をいとも簡単に、弾き飛ばされたペタゴニアから重低音の声が漏れる。今までとは違う、焦りに近い音質を伴っていた。始めは、簡単に叩き伏せる事ができると高を括っていた相手が、思いの外、強敵であることが分かったような声であるのは、彼こと、アオ2等兵の耳にも聞こえる。
相手は焦ってきているのだ。彼の実力を測りそこねていること。
戦況が完全に不利になっていること。
雑兵のノルドイドが完全に自分たちの統制下に置けないくらい混乱し、戦線を維持できない程に乱れていることなどなど。
なぜかそれが、目の前の強敵であるガバナ騎士副団長ペタゴニアと対峙しているにも関わらず、冷静に彼は分析できた。自分がなぜこれほどまでに、相手の今の心情を読み解くことが出来るのかはわからない。
実戦経験は、初めてであるのに。
いや、彼はどこかでこのような戦場に立った記憶がある。もっと凄まじく、過酷な……が、それは妄想なのか現実だったのかは、判別は出来なかった。そこは、自分自身の腑に落ちないモヤモヤとしたものではあるが、神経は時間が経つにつれ、研ぎ澄まされているのは確かであった。
ここで相手が態勢を少しくらい崩した程度で、踏み込んでも相手であるガバナ騎士は今までの相手とは違うのは、分かっていた。安易な追撃は、隙を生み出しそれを目の前の相手は、決して見逃さないそんな、強敵であるのは、直感だろうか分かっていた。
一進一退の攻防は変わりないが、質が今までの相手とは違うのである。
地面に叩き伏せた触手がクネクネと蠢きペタゴニアの右肩に戻っていく。
まるで、意思を持った生き物のようなその触手は、白い発光から赤みを帯びた肉質感のある物に変化する。
後ろに仰け反るような上半身の姿勢をゆっくりと戻すとペタゴニアの六つの目は、怒りの灯火を立てた目付きと冷淡な殺戮者を兼ねた目付きを綯い交ぜにして、アオ2等兵を睨み付けた。
周囲に蠢くノルドイド人一掃の空爆が盛んに繰り返されている。制空権は、確実にアオ2等兵の友軍が抑えているのは確実だった。
空爆による爆風が白っぽい砂塵を宙に巻き上げていた。
アオ2等兵は、ゆっくりと軍靴を地面を滑らせながら、相手であるペタゴニアとの間合いを読んでいた。
踏み込む機会と確実な一撃の隙を探る。
しかし、蠢いていた6本の触手は、ペタゴニアの両肩に短く戻り、あの熱を帯びた白色は消え失せ、鈍い赤い触手に変わっていた。その触手の先端は、鎌状の鈍い色を見せる金属質な物に変化していた。
周囲の爆音が激しさを増していた。
単なる烏合の衆とかしてしまったノルドイド人の雑兵にオア2等兵の友軍が、猛烈な空爆を仕掛けているのだろう。強烈な潮の匂いが漂っていた。それは、明らかにノルドイド人の死に際に発する緑色の鮮血の匂いである。
ペタゴニア率いる騎士団の部下は、アオ2等兵が全て仕留めている。そのため、発狂状態になっているノルドイド人を統制する役目のガバナ騎士団もいない状態では、その混乱状態は混乱を波状的に引き起こしていた。
もはや、ペタゴニアだけでは、どうにも出来る状態ではない。そのことをその間合いに漂う殺気は、アオ2等兵に強烈な殺意として注がれている。
「よもやここで、テラ人、相手にこれを使うとは思いもよらぬことだわ」
重低音の声がペタゴニアから漏れた。
その言葉の途切れる間際、ペタゴニアの巨躯に張り付いていた白い鱗状の物が逆立つように開いた。
その姿はさながらハリネズミのような姿に全身が瞬時に変化した。
その一瞬の変化にアオ2等兵は、反射的に間合いを詰めていた動作を止め、素早く数歩後方へ飛んだ。
アオ2等兵の倍以上はあろうその巨躯が、白い鱗を逆立てた瞬間、言い知れない危険を本能が感じた行動であったが、目の前のガバナ騎士副団長ペタゴニアが何を仕掛けるのか解るわけもない。
「若きテラ人よ。誇るがいい! この私が、この秘技を使うのは、50ログナぶりだ! そうお前たちの時間でいうところの30年に相当することになるか」
最後には、高笑いを交えペタゴニアは、鷹揚に言い放った。その刹那。
逆立った鱗状の間から白い霧が勢い良く噴出し始めた。
その白い霧は、まるで生き物のように忽ちのうちに周囲をアオ2等兵の視界を真っ白に変えていった。
ヘルメットのアタッチメントされている右目を覆うバイザーが、自動的飛び出すと瞬時にその霧に対応するかのように様々な視覚補助センサーを起動させる。温度センサーから赤外線センサーまたは、放射線感知センサーなどあらゆるものが、有効と思われるセンサー自動的に選択する仕組みになっていた。が、どれもが合致することが出来ないのか『No Conformity Sensor!!』(適合センサーなし)と表示された。
現在、アオ2等兵などが装備している戦闘ヘルメット内部には、各種戦闘補助のアタッチメント方式の物が装備されている。素粒子通信機能から生存確認用のバイタルチェック機能と周囲との情報収集用生命反応感知機能など。その中に、戦闘時の視界不良をカバーするために様々な視界補助機能としてのセンサーが存在するが、現在、知らられている視界不良環境の状態のものは、北銀河連合よりの最新技術により概ねカバー出来るはずであった。
それがこの白い霧には、機能しない対象であるらしい。アオ2等兵は、目を細めた。
ということは、この白い霧は、通常、アオ2等兵が知りうる水分などの粒子による霧ではなく、もっと特殊な物質であることを指している。
アオ2等兵の脳裏に一瞬、『毒?』との言葉が、浮かんだがそうではないらしい。
下級クローン兵は、概ね知られうる毒性兵器などに耐性を持つように遺伝子操作で強化されている。それでも、未知のものだった場合は、危険が伴うがそれなら既に効果が出ているはずであった。
しかし、今はない。
毒性のものではないとするとこの白い霧は、あのガバナ騎士ペタゴニアの何かしらの目眩ましの意味合いが強いが、その目眩ましに対向するすべとなる視覚補助センサーが一切役に立たなかった。
いつの間にか白い霧はアオ2等兵の周囲を覆っていた。それと同時にそういうわけか、先ほどまで響きわたっていた空爆の爆音やノルドイド人の断末魔のような奇声など戦闘時に起こる喧騒が全く聞こえなくなっていた。
無音。
そう言っても過言ではない。まるで、別世界に行き成り飛ばされたような真っ白な空間に放り投げられたような感覚にアオ2等兵は陥った。
足元すら白い霧が地面をへばりつくように覆い、上下の感覚が消えてしまうようだった。
視界は完全に奪われている。この霧は聴覚の元にな音源もどうやら奪うものらしい。
おまけに上下左右を全て白一色にしてしまうため、平衡感覚もおかしくしてしまう作用もあるようであった。
無為無臭。
しかし、絶対の周囲からの情報の遮断。
この霧は、ただの目眩ましではなく、相手の感覚という感覚を奪いさる特殊なものであるらしい。
アオ2等兵は、柄を握りしめ中段で身構えた。
攻撃の瞬間が解らない。
今までは、視界や音などで咄嗟の反射神経で交わしていたが、それが出来ない。
視界は当てにならい。音も明らかにこの白い霧は奪い去っる。
つまり、あの馬のような巨躯を操るガバナ騎士の馬蹄のような音もしないことを意味している。
当然、戦闘用ヘルメットに内蔵されていたアタッチメントのバイザーに連携しているセンサーは役に立たない。
おまけに平衡感覚が同じ白い視界の為、失いつつあるようだった。
あのノルドイド人の鮮血特有の潮の匂いすらしない無臭空間。
「テラ人よ。自分と外が完全に切り離された気分はどうだ。言い様もない孤独だろう。生きるもの全て、自己が持ちうる感覚を奪われると、生きているのかすら疑いたく成るような孤独と恐怖感が襲うものだ。私を倒さぬ限り、この白き霧から逃げるすべはないぞ!」
またもや鷹揚で見下した口調としか言いようがないその声にアオ2等兵は、目線を流したが、その声はあらゆるところから響いてくるように聞こえていた。声から場所を特定は出来ない。
明らかにこの白い霧は、ペタゴニアの意思に基づいて、彼の声を反射させえているようであった。
一つ息を大きく吸った時だった。
真正面から突如、ペタゴニアの巨体が現れ、突進してきた。
まさに間一髪でアオ2等兵は、左に飛び退いて交わした。
直ぐに突進してきたペタゴニアは、霧の中にあの巨躯に堂々と伸びた馬蹄の音もさせずに消えた。
無音の世界に戻った。
ペタゴニアには、アオ2等兵の位置は明らかに把握しているのは、これで分かった。
完全に持てる者と、持たざる者の関係にこの白い霧は、作り出していた。
転がるように飛び退いたアオ2等兵はゆっくりと立ち上がり、また中段に構える。しかし、先ほどの位置すら分からなくなっている。一歩動いただけで、自分の位置が把握できなくなる。
動けば動くほど、自分自身の五感が完全に狂っていく、時間が経つほど明らかに不利になる状況であった。
「その反応は大したものだ。だが、そう長く、この我が作りし、”白き檻”で自由に動き続けれるかな」
再び、鷹揚な口調でペタゴニアが霧の奥から反響させているのだろう、まるで広い空間から話すかのように四方から木霊した。
中段に構えた時だった、アオ2等兵は自分の腕に重みを感じた。
一種の何かが腕に絡みつくような抵抗感である。
目線をゆっくりと自分の上腕に向けると白い霧が白い水飴を引くように纏わりついている。
「この霧……固まってる……」
思わず、声を漏らしたアオ2等兵は、中段状態からやや上に腕を上げた時、明らかに霧は固形物質の性質を見せ腕全体ににまとわりついた。
呼吸もし難いように感じられた。
この白い霧は、確実に気体からゆっくりと液体化し、固形化しているのは明らかだった。
この霧を呼吸器官に取り込むのも危険と察したアオ2等兵は、すぐさま装備している戦闘ヘルメット横に配置している呼吸フィルターを稼働ボタンを押下させた。白い布状の物がアオ2等兵の鼻と口をすぐさま覆った。
これがこの白い霧の正体を完全に除去してくれるとは思わないが、様々な有害成分の分子レベルで吸着し、戦闘員を守るこの簡易マスクフィルターを信じるしかない。が、そう考えたところで、状況は極めて悪い方向に動いている。
視界は完全に塞がれ、音による動きも探ることも出来ない。ましてや、各種センサーは、この白い霧が完全に使い物にならなくなっている。
白い檻とペタゴニアが言ったことが、脳裏に過る。
この白い霧は、アオ2等兵の視界、聴覚を完全に奪い去っている。そして、動きまでも封じられようとしている。
そうこの霧は、ゆっくりとアオ2等兵を檻の中に閉じ込めるかのように固まっているのだ。
「ようやく気づいたかテラ人よ」
笑い声が入り混じったペタゴニアの例の重低音な声が白い霧の中に鳴り響く。この霧は、まるで延々と続くような錯覚にアオ2等兵は陥る。
白い霧が完全に固形化し彼自身を凝固化し、身動き取れなくさせるのも時間の問題だろう。
しかし、アオ2等兵は、どちらに向かって逃げ出せばいいのかすら分からない。
方向感覚も完全に奪われている。この白い霧の効果なのか?
「まるでこれじゃ……あの時と一緒じゃないか……」
アオ2等兵は、思わず口にした。
が、それにアオ2等兵は、ハッとするなぜそんな事を考えて、口にしたのだろうか?まるで、自分がこのような特殊な経験をしているかのような口ぶりではないかと。
彼自身は、自分でも驚くほどの戦果を今回のミッションで上げている。
が、これは初の実戦任務のであるはずだ。
ガニメデでは、演習でもここまでの実戦はなかった。確かに生死を揺さぶる事は、あったかもしれないが、このような白い霧に包まれるような経験はない。いや……ないはずだった。しかし、彼の脳が猛烈に回転し、深淵の暗闇の中から記録がサルベージュされてくる。
そう、彼には経験があるこのような凝固する霧ではないが、永遠と続く白い何かの中をただ只管に突っ走った経験が。
それは、何かが激しく焦げた臭いを振りまく爆煙の中だった。それも、演習なんかではない生死を掛けた実戦だった。そのことが、次から次にアオ2等兵の頭の中で沸き上がってくる。
<うごけ!>
そう、彼の脳がハッキリとアオ2等兵に命令した。
「どこへ」
<とにかく、うごけ! 道がひらけるまで!>
自問自答ののような声にアオ2等兵は、生唾を飲み込んだ。この声を信じるしかない。
ただ、がむしゃらに突き進む。それしかない。
それがアオ2等兵が、この白い霧の中で出した結論だった。その途端、彼は走りだした。
考えなどない。
白い霧は、さっきまでの空気の中に漂う白い気体ではなく、明らかに固形物化する直前ののようなヌメリを伴った白い液体であった。それが、アオ2等兵の走る体に纏わりつく。
「ダメだ。こいつ固まるのが早い!」
と、その時だった。手に携えているイリジウム合金製の刀が、小刻みに震えた。
<うしろだ!>
直感が囁いた。
右足を軸にして、身体を急反転し、イリジウム合金製の刀がもつ、鋭利な刃をヌメる白い霧を引き裂くように、背面を下から上に切り上げた。
金属が重なり、響きあう甲高い音が鳴り響いた。
その音に連鎖するかのようにだった白い霧が、まるで水のような音を立て、地面を一気に濡らし消え去った。
アオ2等兵の眼前には、その驚愕した目を隠すことが出来ないのだろう六つ目を大きく見開いたペタゴニアが前足を上げたまま、固まっていた。
正確には、前足の左足の太腿部分は、アオ2等兵の一閃により、叩き切られ、そのまま腹部から胸部に大きな切断された傷があった。
ペタゴニアは、固まりつつある白い霧の中、アオ2等兵の背後から今にもその刃物とかした六本の触手を、巨体ごと飛びかからんと振り下ろそうとした瞬間のまま固まっていた。右前足は切断され、その切り落とされた切る口から勢い良く、赤い鮮血が吹き出ていた。
ノルドイド人とは違う、地球人のような真っ赤な血であった。
地面は、白い霧が融解した水と化したもので、泥沼のようになっていた。
「なぜだ……なぜ、分かった……」
その掠れるような声を発し、ペタゴニアは、その巨体ごと金属の塊が重なり合うような音を響かせ崩れ落ちた。
全身ずぶ濡れになったアオ2等兵は、黙ってその光景を眺めた。
まるで、映像としてスローモーションのようにその鮮血を舞い上げて崩れるペタゴニアの姿に呆気に取られた。
ただ、我武者羅に振り向き手にある刀を切り上げたに過ぎない。
ただ、それだけだった。
気配とか、察知とかなかった。言葉に従っただけだった。
ペタゴニアへの一閃は、確実にガバナ騎士とはいえ、致命的な一撃であるのは、眼前に泥沼に倒れこむ姿で明白だった。
あっけなく勝負がついたのだ。
「栄光ある我がガバナ族の我が名門が……事もあろうに、貧弱なるテラ人に仕留められるとは……」
力なく横たわるペタゴニアが途切れ途切れに言葉を吐いた。立ち尽くすアオ2等兵を、その充血した六つ目で見上げ、怒りに震えているが、切り裂かれた胸部から流れ出る鮮血が彼を死の淵へ誘っているのは明らかだった。
対して振り返りざま切り上げた刀を降ろし、何度と固唾を飲み込み、その強敵であるはずのペタゴニアを足元に見下ろすアオ2等兵には、打ち倒した者の言葉など耳に入っていなかった。ただ、脳裏にあるのは、この状況を「俺は知っている!」と言う言葉を繰り返すばかりだった。
記憶の深淵のの中から沸き起こる物がアオ2等兵には、確かにあったがそれが何なのか分からない。
息が上がっていた。
「若きテラ人よ……我を討て。されば、この宇宙中にその名が轟くだろう……既に、我がガバナ一族の騎士を討ち取ったその力量は……ただの一兵卒ではない……「騎士殺し」とその異名をテラ人の言葉で響かせる事になろう……討て! 生き恥を我れにかかせるな!」
最後は、耳に入らないアオ2等兵にも、その悲痛な威厳に見した声は、同じことが駆け巡る彼の脳にも届いた。
無意識にだったアオ2等兵は、右手に携える刀をかざした。
その時だった空気を振動させるかのような空間の歪が、アオ2等兵とペタゴニアの周囲に起こった。その振動元は、ペタゴニアであったのは、刀を構えたアオ2等兵がその身を揺らした数秒のうちに気付いた。
「どうやら、まだ……わしは、お前と相まみえる機会を与えられたようだな……」
倒れたペタゴニアは、物悲しげに弱く呟いた。その終わりだった。モニター画像が消えるかのような光が起こった瞬間、鮮血と泥の中に横たわっていたペタゴニアは一瞬のうちに跡形もなく消えていた。
「テレポート……」
ペタゴニアが母船にテレポートで回収された瞬間だった。
アオ2等兵を中心として、半径10メートルがまるでスコールがあったかのように地面が濡れていた。泥とかした地面にアオ2等兵は立ちすくむ。彼の足元には、先ほどまでいたはずのガバナ騎士副隊長ペタゴニアの血が毒々しく真っ青な血で地面を染め上げられていた。
その間も自軍の援軍機からの空爆が引っ切り無しに続けられていた。
混乱したノルドイド人は、彼の目にも明らかに烏合の衆であり、統率など無くただ逃げるばかりだった。
戦局は、明らかに終盤に差し掛かっているのは、彼の目にも明白であった。
†
「艦長!」
指示が飛び交う戦闘司令室のブリッジに友軍機観測クルーでもある兵士が、マリア艦長に声を上げた。
「分離した後方敵艦に対する艦砲射撃が弱い! もっと射撃間隔を狭めろ! あれでは、逃げられるぞ」
その声が聞こえないのかマリア艦長は、前方の巨大モニターに映しだされた白い敵艦を睨みながら、攻撃の手ぬるさに苛立っていた。
超短距離ジャンプなどの隠し技を使った事で、敵主力艦船に渾身の一撃を加える事が出来たが、その後、敵艦はすぐさま、大破した部分を切り離し、後方部だけで戦線離脱を敢行しようとしていた。
当然、その離脱を見たたまにマリア艦長はする気もなく、すぐさま敵艦の離脱方向を艦砲射撃や光子弾を効果的に放ちながら塞ぎにかかっていた。しかし、艦砲射撃の威力が弱いのか、分離敵艦の防御シールドをなかなか破壊できずにいる。
とは言え、何時までもその磁気エネルギーを使用したシールドも機能することは、出来ないはずだった。的確な射撃を集中させれば次第にシールドの膜は、薄くなり最後には突破出来る。
尚且つ、相手は手負いの獅子だが、戦力は確実に不意打ちの超短距離ジャンプによる至近距離手砲の射撃で、大方を奪い去ることができている。後は、退路を塞ぎさえすればよい。
が、なかなか相手もしぶとく、キリシマの艦砲射撃に耐えていた。
「なんだ」
友軍機観測クルーへ、苛立ちを込めてマリアは答えた。
友軍機も出来る事なら、この手負いの敵艦への攻撃に回したかったが、現在、この惑星に分散している敵陣地の攻撃で全て出払っていた。
当然、その作戦中で何か問題があれば報告があるだろうが、地上戦は完全にこちらの制圧局面に入っている。そうなると、もはや友軍機がトラブルを起こすとは考え難い事からも観測クルーからの報告に苛立った。
この局面では、急遽報告するほどの大きな意味はないはずだからだ。
「15小隊9分隊の強襲揚陸戦闘機が、発艦しました……」
言い難そうな声で観測クルーが答える。
「発艦!?」
マリアはその報告に一瞬、目眩を感じた。先ほどまで、同機の発艦は、まかりならんと通達したばかりだった。
9分隊の連中には、聞くべきことがあった。それが、このまま、発艦して姿を消さないとは、断言できない。
もはや、彼らは軍令無視は常習であり、簡単に超えてはならない線を越えてしまうと言う思いが拭い去れなかったからだ。
「すぐに繋げろ!」
と観測クルーにマリア艦長は、指示をだしたが、一瞬、違う考えが浮かんだ。
「いや、待て……そのままでいい。同機の監視を続けるように。他機で余裕が有るものは、同機の支援に回るように伝達」
「り……了解しました」
この状況下で、跳ねっ返り共と言えども考えあって動いたと考えたのだ。おそらく、敵艦背後にある巨大な銀色のリングに関連していることだろう。
「メアリ・マーコリー技官も搭乗しているのか?」
観測クルーにマリアは、問いかけた。
「そのようです。発艦クルーからの報告ですと……」
そういうことだろうと思ったが、考えは間違っていないようだった。
彼らが向かう先は、あの忌々しいゲンジロウ軍曹がいる場所。
そう、目の前の銀色の巨大リングであるワームホール発生装置の動力源に向かっているに違いない。
それを今、止めることはない。
「連中に地球の命運を託すとは、実に苛立たしいな」
とマリアは独りごちた。
†
その屈強な背中の持ち主であるゲンジロウ軍曹をフネ伍長は、仰ぎ見た。
「珍しく、覚悟を決める顔してたな。フネさんらしくない」
屈強な背中を持った持ち主が、背後に中腰で無言の彼女に声を掛けた。確かに彼女らしくもなく、自分でもこれで最後だと思った瞬間だった。
彼女の奥の手であもあるファンバールの悪魔の糸が、容易く切断されるとは考えもしなかったからだった。
「仕方がないさ。相手は、ガヴァファル帝国の正規軍でもあるガバナ騎士団の団長さ。切り札を持っててもおかしくない。ただ……」
「ただ?」
フネ伍長は、ゲンジロウ軍曹の最後の言葉をそのまま繰り返した。
「前任者に比べて、無様だなと思ったのさ。この団長さんは」
最後は、鼻先で嘲笑した言い方だった。
向かい側のガバナ騎士の団長の六つ目が、その言葉に鋭い眼差しを宿した。怒りとは違う、冷徹な殺意が篭っているが、決して怒り狂った理性を失った殺意ではない、心の底に冷たい死を感じる恐怖感を伴っていた。
「フネさんは、後ろに下がってな。どうやら、団長殿は、お怒りのようだ」
背筋を伸ばし、方に愛刀の峰を右肩に載せ、ゲンジロウ軍曹はせせら笑う口調でフネ伍長に向かって、指示をだした。
この人には、あの心を冷え込ませるような殺意など感じもしないのだろうかとフネ伍長は感じたが、今更、考えたところで答えが出るわけでもなく、黙って頷くと立ち上がった。
自分の手にある青く光る刃を煌めかせアーミーナイフを投げ、そのままファインバールの悪魔の糸を張り、宙を舞い後方へと下がった。
「さて、そろそろ終わりにしようか? 団長さんよ」
ふてぶてしいその物言いで仁王立ちで、ゲンジロウ軍曹は目の前のガバナ騎士団長ウィドールの前に立ちはだかる。
対峙する2つの強者の間には、異様なまでの緊迫感が漂うが、それを意も介さない空気をゲンジロウ軍曹は見せている。
毎度のことであるがフネ伍長は、飛び退いた後方から眺め、底の知れないその力に何時得たのだろうかと考える。
遺伝子強化されたとはいえ、オリジナルであるゲンジロウ軍曹。
しかし、その階級とは思えぬ飛び抜けた規格外の強さがある。
「古に言われた怪物って、軍曹じゃないかしら?」
死の淵を意識し、もう自分の命が尽きる事を覚悟したフネ伍長は、味方であるゲンジロウ軍曹に畏怖しか感じられなかった。
この惑星での最終的な決着がもうすぐ着くのは、間違いない。
†
この目の前にいるテラ人は何者だ?
騎士団団長職を代々担ってきた彼の一族のみが、身につけている秘技である<ガバナ・ラムド・グイナ>(ガバナに与えられし剣)をやすやすと弾き返したのだ。
いかなるものの物体も分子もしくは、原子の結合によってその姿を形成している。つまり、物体であるものはその結合を破壊されると存在そのものが最も小さな粒子に細分化され、物体どころか空間にエネルギー体の粒子となり霧散する。
彼の両腕に赤く仄かに光る鎌状の刃は、分子間もしくは、原子間に起こる物理上の「弱い力」が働き、全ての物体の結合を破壊し、無に帰すこの想像出来うる宇宙でも強力な破壊力を持つものであるはずだった。
故に、この宇宙域でその強度で名だたるファインバールの悪魔の糸すら切り裂くことも容易だったのでする。
しかし、目の前にいるテラ人でいう男性。それも顔に戦傷が見える兵士は、安々と渾身の一撃を撥ね退けた。
それも一振りで。
身じろぎたくなる畏怖感をウィンドールは、直感的に感じ取った。
「ほう。後任のガバナ騎士団団長様は、怖気づいてるのかね?」
六つ目をウィンドールは、細めた。後任?
この突如現れたテラ人は、ガバナ騎士団を知っている?ただ知っているのではなく、前任者を知ってるとでも?
目の前のテラ人の愚弄するかのような口ぶりに直感で感じ取った畏怖感が、瞬時に怒りに変わる。
「うぬは何者ぞ」
いつもの慇懃な物言いで目の前のテラ人に尋ねた。
「しがない下士官様だ」
最後のやや含み笑いを篭もらせた語調が上がる言い様にウィンドールは、今度は不快感を浴びる。
このテラ人は、ウィンドールを明らかに軽んじていたからだ。
「その無礼な口の聞き方は、その身分に免じて許してやろう。されど我が一太刀を退けられた事は、騎士の面目として拭わねばならまい」
横柄な言い回しでウィンドールが前に進み出る。
畝る六本の触手とその先に鋭く輝く<ガバナ・ラムド・グイナ>が空気を小刻みに切る。
その動きは、ウィンドールを中心に正確な球体を描くように切っ先は描き始める。
その動きは、素早くウィンドールを守るかのように防御圏を形成した。
「口では大きなこと言う割には、守りに入ってるねぇ」
口元を緩めウィンドールに対峙するテラ人ことゲンジロウ軍曹は、見下す口調でニヤつく。
そのふてぶてしい態度に怒りを覚えながらもウィンドールは、身を守る<ガバナ・ラムド・グイナ>の刃先を差し向けかけたが、その直情的行動を止める。
怒りに任せて剣筋を出したところで思惑通りの結果など得られない相手であることを直感的に理解していたからだ。
相手は、おそらくウィンドールが知りうる中でも屈指の剣術を持っている。
「ほう。剣客としての素養はあるようだな」
ふてぶてしいテラ人は、肩に剣の峰を乗せながら数回軽く叩き、悠然とした足取りで一歩前に進み出る。
その一歩でウィンドールは、言い様ない威圧感を憶えた。
「まぁ、いいだろう面白いものを見せてやろう」
テラ人は、手に持つ剣を一振りした。
緩やかな剣筋は、ブレはない。
その一振りだけで、目の前にいるテラ人の男が只ならぬ力量なのは、更にハッキリさせる。
剣の美しい白刃が切れるはずもない空気の空間をを切ったように見えたのだ。
ウィンドールの脳裏に防御の剣筋を更に強める警戒感が漂った。
<ガバナ・ラムド・グイナ>の仄かな発光を見せる刃を素早く、自分を中心に球形に描き一定の結界を更に強固にした。
未知の剣士への畏怖感を感じるなどウィンドールにとっては、屈辱でしかなかったが圧倒的な目の前のテラ人の存在感に自負心など飛んでいた。相手は、明らかに底知れぬ剣技の持ち主であろう事は、ガバナ騎士の血が見破ったのだ。
ここで安易に無謀な賭けに出るほどウィンドールは愚かではなかった。
「なかなか隙のない剣捌きだがな。お前は、まだ知的生命の持つ知覚に頼る剣技になってるのが未熟だな」
とその言葉のまま、テラ人はウィンドールの高速に動く、<ガバナ・ラムド・グイナ>の刃先が作る球形の結界に躊躇なく入ってきた。
その瞬間だった<ガバナ・ラムド・グイナ>の切っ先が、テラ人の身体を切り裂いた。
しかし、その切り裂いた身体に対しての手応えがなかった。
まるで空気を切っているかのような無の存在を切ったかのようだった。
「消えた?」
とっさにウォンドールは、口にした。
ガバナ騎士の特有の六つ目は、自分を中心に上下左右に動く物体を確実に捉える事ができる。
特にウィンドールほどの騎士になると見失うことはない。そもそも、視覚だけではなく、彼らガバナ騎士には、周囲に動く物を熱源として体感する能力もあり、その対峙する相手がいかなる高速移動できるものであろうと位置と距離感はまず見失わない。
しかし、ウィンドールは、その特有の感知能力からテラ人が忽然と消えいた事に対して、動揺したのだ。
切り裂いたはずのテラ人の身体は、瞬時に霧散していた。
幻影とはこのことと言っても過言ではなかった。
ウィンドールの六つの目が激しく身体を駆け巡る。
彼らの目は、死角を無くす為に身体中を自在に移動できる。
ウィンドールは、この目が動く姿が動揺を見せるようであり、好まなかったがそんな自負心はどうでも良かった。
テラ人がいないのだ。
その突然の状態に恐怖した。
「そうだろうよ。恐怖するだろうな。今まで見失うなどなかった事がない一級の戦士なら、尚更」
せせら笑うようなその声にウィンドールは焦った。
動揺とかではなく、自分の理解できる範囲ではなかった。
今まで、いかなる戦士と対峙しても相手を感知できないということはなかった。
相手を完全に姿や気配そのものを”見失う”などありえないことだった。
が、その存在が忽然と”消えた”のだ。
しかし、その威圧感は健在し、ウィンドールに圧迫感をかけている。
二流三流の戦士ならいなくなったと”ただ”思う瞬間だろうが、一流になれば感じるこの相手から放たれる意識的な殺気を ”感じ取らされる” のは、相手が”何時でも”自分の対応出来る範疇外から攻撃を受けるということであった。
この得体のしれぬテラ人は、彼自身の力量では超えられぬという事を指していることでもあった。
「動揺を抑えるところは、大したものだ。だがね生物が持つ本能としての恐怖感というのは、如何ともし難いものだな」
とテラ人の野太い声がウィンドールの聴覚に響いた時だった。
光の一筋が横一線に走る。
それに気づいた時には遅かった。
眼前に突然、テラ人が現れ、水平に剣先を音もなく一直線に振り払った。
咄嗟に身を引いいたが、身体に熱い物が走る。
切られた!
瞬時にウィンドールは、心で叫んだ。
身体に走った熱い物は、自分の胸部に移っていた六つの内の一つの目だった。
青いガバナの血が飛び散った。
対峙するテラ人には、球形に形作った<ガバナ・ラムド・グイナ>の結界など意味をなさなかったのだ。
しかし、それでもウィンドールがそのテラ人の存在を見失わなわなかったら、如何様にも対応できた。
が、それが出来なかった。
相手は、確実に己自身の身を消し去った。それを、見切ることが出来なかったウィンドールが、対峙した瞬間から負けていたのだ。
すでに勝敗はその時に以前に決していたのだ。
「ふむ。なかなかの体捌きだが、まぁ、この辺で許してやろう。さっさと自分の船に戻るがいい」
悠然とウィンドールの前に仁王立ちする眼前のテラ人が、鼻先で笑うように言い放った。
屈辱的な言葉であるが、ウィンドールは本能的に恐怖が勝っていた。
自分のテレパスで母船へ、瞬時に帰投の指令を出していたのだ。
逃げることなど騎士にあるまじき屈辱であるはずが、まるで神の怒りに触れ、畏怖し、平伏すように本能的に送っていた。
空間にノイズのような音が走る。
それは、母船からのテレポート開始の合図でもあった。
「うぬの名前を聞かせろ」
畏怖する心を押さえつけ、ウィンドールは例の鷹揚な口調で聞いた。
「ゲンジロウ・サナダ。地球の下士官だ」
それを聞いたウォンドールは、傷ついた目から青い血を流しながら、ただ黙ってその場から霧が消えゆくように消え去った。
なんと!
一年以上掛けてのEpisode更新!
さて、読んでくれる方がどのくらいいるか?!
この「第一章 Σ(シグマ)惑星で大暴れ!」の佳境に!
といいながら何個目のEpisodeだとなりますが、そろそろ次のEpisodeシリーズの構想に進まないとですね〜とか
誤字脱字がありましたら、お伝え下さい。




