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時代遅れの剣豪  作者: 群龍猛
第一章 Σ(シグマ)惑星で大暴れ!
13/16

Episode10 二等兵、力戦奮闘(りきせんふんとう)ス

視点の切り替えは、「†」のマークです。

 アミーナイフが確実に急所である頭上の脳部を甲羅を貫通し、ブレなく突き刺さった。

 ブンと空気を切る音が唸ると突き刺さったアミーナイフは、その青白い刃を閃かせ舞うようにフネ伍長のもとに弧を描いて左手に戻る。

 宙を軽やかに舞うようにフネ伍長は、跳躍する。

 右手から逆手に持っていたもう一つのアーミーナイフを投げるというより、放った。

 放たれたアーミーナイフは、直線を描くというより、放物線を描き右斜めの天井にいとも簡単に突き刺さる。そこを始点としてフネ伍長の身体が、大きく右に放物線を描き、まるで空中を舞うように天井へと導かれる。

 つかさず、天井近くに伍長が誘導されると左手のアミーナイフを天井に突き刺し、下で奇声を上げるノルドイドのカニのお化け共が、騒いでいた。

 既に、フネ伍長の両手にあるアミーナイフととシロウ上等兵のレーザー銃でカニのお化け共は、巧みに連携しながら攻撃をしてくるが、彼らに反撃され残り二体になっていた。しかし、その合間に、ケンタウルスのなりそこないの様な六目の四本の触手ーー 何かしらの高熱源を発しているらしい ーーを打ち込んでくる。それをフネ伍長は、愛用する二本のアーミーナイフの柄に取り付けられたワイヤーをを巧みに操り、宙を舞うように交わし、手近な所の残り二体のうちの一体のノルドイド人兵士を仕留めた。

 ケンタウルスの成り損ないであるガバナ騎士にも数度、隙を見て攻撃を仕掛けてみたが、その六目のは伊達ではないらしく、いかなる方向からの攻撃も全て見抜くようで、その肩から太く波打つ触手により、フネ伍長の操るアーミーナイフを弾き返してしまう。

 その銀色がかった魚の鱗に包まれた身体に掠らせることも出来ない俊敏さがあった。

 ただ、彼らはその馬のような足のためか、空中を飛び回るフネ伍長の動きに手こずっているといって良かった。広いこの白く明るいワームホール発生起動装置が中央に鎮座する中を、駆けずり回る羽目になっている。

「参ったわね。あの馬の出来損ないやっぱり強いわね。隙を見せない」

 白い天井に蜘蛛ののようにフネ伍長は、へばりついていた。黒い光沢のない軍靴爪先から鋭利な刃物が突き出している。それの両足それぞの爪先を突き刺していた。

 どうやら下で闊歩するガバナ騎士の四本の光を帯びた触手は、彼女までは届かないようで、苛立しげに彼女をその六つの目で仰ぎ見る。

 大方の雑魚であるノルドイド人は、シロウ上等兵と彼女で仕留めた。しかし、どうしても下でワームホール発生起動装置を守るかのように闊歩するケンタウルスの出来損ないの様なガバナ騎士には、今一歩の攻撃が出来ずにいる。

 シロウ上等兵も奥の通路に身を隠して、牽制しているだけでなかなかガバナ騎士へ効果的攻撃を撃てないでいるようだった。

「シロウ。聞こえる?」

 戦闘用ヘルメットに内蔵されている集音マイクにフネ伍長が訊いた。

「ええ。生きてますよ。残念でしょうがね」

 相変わらずの皮肉交じりの返しにシロウ上等兵らしさがある。ある意味、胸を撫で下ろす。

「カニのお化け、ノルドイド人は、後、1匹ってところかしら?」

「ですね。割りと動きのいい奴らですわな。上手いこと急所に当たらなかったので、手こずりましたがね」

 珍しくシロウ上等兵が狙いを定められないと弱音を吐くのは、驚きだがそれだけ統率が取れた行動を取っていたのだろう。

 ガバナ騎士などは、十騎ほどいるが中央のワームホール発生起動装置から程々の距離を取っており、無理に突撃を敢行をするわけでもなく、ジワジワとこちらの時間的消費を狙ってる節すらあった。

「それに、あの馬のバケモンにレーザー撃っても、変な鱗で弾かれるんですよね~」

 妙な軽さでシロウ上等兵は、ヘルメット越しに彼女にのたまった。緊張感の欠片もない。

 が、こいう時のシロウ上等兵には、何か隠し玉を持ってる場合がある。

「何? あんた、何か隠し持ってるんじゃないでしょうね?」

「うーん。無いわけでもないですがね。フネ伍長。クク」

 右眉毛がピクっと彼女は、させる。距離と有利な条件をいい事に、シロウは言いたい放題だった。

 最後の例のイラつく篭った笑いが、フネ伍長を余計に腹が立つ。

「もしかして、私に喧嘩売ってるのかしら?」

 言葉に険が篭る。

「そんなに苛つかなくてもいいじゃないですか~こっちも、貴重なの持ってきてるんですよ。自分のコレクションを」

「コレクション?」

「これですよ」

 フネ伍長のヘルメットに、アタッチメントされた光学透過ヘッドマウントディスプレイの片隅にシロウ上等兵が指で挟んだ細長い銀色の物を映した。

 それは銀色の弾丸だった。

「なにそれ? 狼人間でも銀の弾で殺す気?」

「そうそうこれで、怖い怖い六目の化け物をですね……銀の弾で……」

 冷たい無言しかない。

「一応、乗ってるんですが、何か反応ないんですかね?」

「いいわよ。ツッコミご希望なら? 刺しにいくわよ」

 全く感情のない棒読み声にある意味、殺意を察したシロウ上等兵の額に汗が流れる。

「え……え~と。これは、ですね。ミヨ姉さんにお願いして作ってもらっていた、イグジリウム合金製の弾丸っす。レーザー銃の先端部にセットして、レーザーそのものを弾薬代わりにして射撃するする仕組みのものなんすよ。あのカニお化けが、反射何とかをコーティングしてるからって、一応、予備で持ってきてたんですよ」

「イグジリウム合金って、軍曹が持ってる刀の素材と同じやつじゃやない。よく、そんなの手に入ったわね」

「もう一振り作るとき取り寄せた時の余りで、ミヨ姉さんが作ったらしんですがね」

 ーー もう一振りって……。あのアオに持たせたのかしら? ーーなどとフネ伍長は、フッと考えた。軍曹は、もしかしてアオに始めから渡すためにあの刀を作っていたという事になるが、今はそんな詮索は無駄なことだった。まずは、目の前の手強いガバナ騎士の対抗策を考える必要があった。

 相手は、この銀河系で起こった数々の戦線で、その勇猛さを響かるガバナ騎士だ。それも十騎。

 なかなか近づくことも容易ではない。

 特に、全身に張り付くようにある銀色に輝く鱗状のものが、特に厄介だった。シロウが持っているレーザー銃の出力では貫通どころか、傷すら付かない。

 フネ伍長の愛用使用している青い刃を閃かせるアーミーナイフなら何とかあの鱗の防御を貫通することは出来るが六目もある目は、伊達ではなく投擲程度の速度では、その動体視力で四本の畝る触手で叩き落とされてしまう。

 また、その触手の攻撃範囲は、広く用意に接近戦に持ち込めない。

 結局、やや離れての攻撃をするしかないが、手詰まり感があった。

 そこでシロウ上等兵が出してきたのが、現宇宙でも屈指の硬度を持つ、イグジリウム合金の弾丸だった。正確には、レーザー銃の銃口にセットして、そのレーザー銃のエネルギーを利用して直進させる仕組みの物であるが。

「で、何発もってるの?」

「十発です」

「ギリギリじゃない」

「それは、フネ伍長がちゃちゃと誘導をやってくれると行けるっすよ」

 ここまで軽く言えるのかというくらいの物言いにフネ伍長は、怒りより、呆れが湧き上がった。

 どうやったらこの緊迫感あるときにそこまで、お気楽で適当な事がいてるのだろうかと。

 まぁ、それがシロウ上等兵であることは、十年近く共に戦場を渡り歩いて来ていた中でブレないところではあるのだが。

「ともかく、私があのケンタウルスの成り損ないの注意を引きつけるけど、確実に仕留めれるんでしょうね?」

「そりゃ、シロウ上等兵! フネじゃなかった。クク。フローネ伍長の決死の行動に報いますよ。クク」

 その物言いにフネ伍長の額に青筋が浮く。

 こいつは、この一件が終わったら必ず、制裁を与えてやろう。と無言でつぶやく。

「いくわよ!」

 右手の青く輝く刃を持つアーミーナイフを、放物線を描くように投げつけ、フネ伍長は、中央付近のワームホール発生起動装置付近の天井に突き刺した。

 左手に突き刺していたナイフを引き抜くと、天井を蹴った。投擲し、天井に突き刺さったアーミーナイフの柄にワイヤーが繋がれ、フネ伍長を弧を描きながら、四騎の六目のガバナ騎士の中へ高速で導いて行く。

 それに素早く反応するガバナ騎士の一騎が、その波打つ赤白い触手をフネ伍長に放った。

 その刹那、その触手を放ったガバナ騎士の胸部に閃光が貫いた。背中から煌めく彼らの鎧としての役目を負っていた鱗状の物が、赤い血を巻き上げながら宙に飛散した。

 シロウ上等兵が一瞬の隙を狙い、イグジリウム合金製の弾丸をレーザー光の高速に乗せて、ケンタウルスの成り損ないの一体の胸部を射抜いた瞬間だった。

 その胸部には、彼らの急所でもある心の臓があった。そこを知った上での射撃であった。

「性格は、歪んでるけど射撃の腕は神憑りね。サバイバル能力に関連してるのかしら?」

 背後で射抜かれたガバナ騎士の一騎が、一歩あるきそのまま崩れるように倒れる姿を見ながら、フネ伍長は次の一投を投げ、アーミーナイフを突き刺し、宙を舞うように放物線を描く。

 射抜かれたガバナ騎士に一瞬、戸惑った騎士達の間を素早くフネ伍長は、すり抜ける。

 二発目の閃光を伴った、光の線が二体目のガバナ騎士の胸部を射抜いた。


 †


 音もなく一体のノルドイド人の赤い甲羅が真っ二つに割れた。

 彼らの緑色の鮮血が盛大に宙を舞う。

 何百対目かのアオ二等兵の一刀両断の斬撃であった。

 既に数百体のノルドイド人の屍が累々とアオ二等兵の周囲に転がっていた。

 千はいただろうその数も半数くらいになっている。

 その圧倒的な数の前にたった一人の緑色の軍服を着用し、戦闘用ヘルメットを被った下級クローン兵が立ち向かっていた。

 両手両足の所々にノルドイド人の両腕に仄かに光る黄色い刃に負傷されたのか、浅い切り傷がある。

 アオ二等兵の持つ、刀の白い刃が薄っすらと夜明けらしい光をまとう。

 刀は下段に構えられ、周囲をぐるりと囲むノルドイド人を無言で圧力を掛けていた。

 彼の目には、来る物をなんだろうと切り刻む激しい闘争の炎と寒気が起きるほどの冷静な光が宿っていた。

 それが、脳に直接指揮しているガバナ騎士の指令をノルドイド人の攻撃を躊躇させていた。

 幾ら強制的に指示を出されても、本能が恐れているのだ。

 一気に周囲から飛び込んで行こうが、アオ二等兵の刀の斬撃が余りにも早く、一瞬で隙を見つけてそこから切り崩される。

 陣形が崩れると多数での攻めが、災いして混乱をきたす。

 そこを次々に宙を舞うように刀が襲い掛かる。

 見事なまでの足捌きでノルドイド人の刃を紙一重で交わし、更に切り捨てる。

 既に数の問題ではなかった。技量の差になっていた。

 下級クローン兵は、その身体能力を戦闘用に特化して強化しているが、その中に疲労蓄積の度合いを下げる能力向上も組み込まれている。通常、人間が過度の運動をする場合、筋肉組織内に乳酸などの老廃物が蓄積され、それが処理しきれずに疲労を感じて、最終的に動けなくなり、休息を身体が要求する。

 しかし、クローン兵は、その身体的な疲労の元となる乳酸などの老廃物の処理をフルに処理し、蓄積しない遺伝的操作が行われており、休息無しで最低でも二、三日は、戦場で戦い続ける事が理論上は出来る。

 当然、二等兵ではあるが戦闘要員として遺伝子操作をされた、下級クローン兵であるアオ二等兵も例外ではない。

 身体的な運動の疲労など今時点ではない。

 息もこの程度の時間では、上がる事はない。

 そんなアオ二等兵の手には、幾ら斬っても刃こぼれしない強靭な日本刀の柄が、両手でしっかりと握られていた。

「なんだこのテラ人は……」

 ノルドイド人の後方で馬上とも言っていい高さから、六目を持った一体のガバナ騎士が漏らした。

 決してノルドイド人は、使えない兵ではない。これまでの数々の戦線で、その物量的戦術ではあっても個々の戦闘能力が決して、低いということはなかった。

 一体でも通常の北銀河連合に所属する様々な種族の兵士が数人がかりで、ようやく互角にやれる能力はあったはずであった。まして、戦闘能力ではテラ人は、あの戦闘民族ガズルード族に比べれば脆弱でひ弱なそれこそ北銀河連合軍の兵でも最弱な部類に入る種族のはずだった。

 それが、目の前で起きている事は、圧倒的なまでの戦闘能力を見せつける光景だった。

 強制的にいつものように戦闘態勢を整えさせて、集団での連携攻撃をノルドイド人の脳に送り込むが、彼らの恐怖の本能がその命令を拒絶し始めている。

 統制が効かなくなってきているだ。

 死と言う現実が、リアリティを持って目の前に何の抵抗する術もなく、簡単に積み上げられる光景に自分たちが、追随することを拒み始めている。

 ノルドイド人の脳髄に直接強制的司令を実行させる受信機を突き刺しているが、それすら受け付けないほどの強い恐怖感がシナプスとして受信機を逆流して、強制司令を出すガバナ騎士達にも感じることが出来た。

 アオ二等兵の足がジリジリと取り囲むノルドイド人の一角を押し返し、地面を擦るように前に前に出る。

「たかが、テラ人一人に何を恐れておるのだ!」

 恐れおののく、ノルドイド人の背後に構える一体のガバナ騎士が激高した。と共に、周囲で後ずさりをはじめるノルドイド人数体をその四本の畝る触手で激しく数体を叩き壊した。

 それに後退を少しずつしていたノルドイド人が敏感に反応した。

 退路が絶たれたのである。

 その激高に、アオ二等兵の周囲を囲んでいたノルドイド人の一角の注意が逸れた。

 その一瞬の隙を見逃さず、アオ二等兵の足が地面を蹴った。

 ざわつくノルドイド人の先頭の一体の頭頂部を土台にして宙を軽快に踏み飛んだ。

 唐突なアオ二等兵の動きに意表を突かれたノルドイド人の集団は、奇声を一斉に上げたが、アオ二等兵はそれに構わず、ノルドイド人の赤い甲羅の頭上を踏み台にして、彼を囲んでいたノルドイド人の集団の中を跳ねるように突き進む。

 そのアオ二等兵の目はただ一点を睨んでいた。

 睨む目線の先は、激高し、ノルドイド人をその四本の触手で叩き殺し、叱咤した六目のガバナ騎士に対してだった。その目には、冷たい炎が宿り、ガバナ騎士を突き刺す明確な殺意が篭っていた。

「小癪な! ノルドイドを踏み台にして、我に挑む気か!」

 迫り来るアオ二等兵に対して、真正面にしたガバナ騎士がその六つの目に怒り宿し、怒声そのものの重厚な声を上げる。たかだか、この何百年で現れた新興の種族でありながら、甲羅や防御する鱗すら持たぬその脆弱な肌と脆弱な身体能力しか持ち合わさないものが、一騎打ちなど彼にとっては甚だ、屈辱だった。

 この程度の下等な種族と真正面で向かい合うことすら恥であった。

「この愚劣な下等なノルドイドを切り伏せたくらいで、この偉大なるガバナ騎士団でもある私に一人で挑むというその、傲慢さに天罰を当てえてやろうぞ!」

 とその殺気を含めたガバナ騎士が真正面から迫り来るアオ二等兵へ、左右両側に伸びる長い四本の触手を一気にしなりを交えて、空を切り裂くように猛烈に叩き込んだ。

 四本の触手は、先端部がそれぞれ赤い光沢を放ち、上下左右四方から襲い掛その触手の空を裂き、衝撃波を周囲に撒き散らし、ガバナ騎士とアオ二等兵の間に群れていたノルドイド人を数十体粉砕しながら突き進んだ。

 四本の触手がアオ二等兵に四方から交錯する刹那。

 金属音の甲高い音が周囲に鳴り響いいた。

 アオ二等兵が左下に構えていた刀を左下から右上に振り上げ、一打で襲い来る触手四本を跳ね上げた瞬間だった。

「な! 馬鹿な……一撃で弾け飛ばすなど……」

 と驚いたガバナ騎士の六つの目が、見開いた時には、眼前にはアオ二等兵が刀を右上からその鋭利な刃を輝かす刀を振り下ろす姿があった。

「なんだ! これは!」

 まだ、彼事、ガバナ騎士とアオ二等兵の間には、十分な距離があったはずである。しかし、それが既に間合いが詰められていた。彼も戦場の場数は踏んでいたはずだった。間合いの感覚は、理解しているはずだった。しかし、その常識が目の前で今にもその刀を振り下ろさんとするテラ人には当てはまらなかった。

「どういうことだ!」

 それが彼、ガバナ騎士団副団長ペタゴスの部下である六目の騎士の最後の断末魔といって良い声だった。

 アオ二等兵の右上から振り下げられた刀の白刃の刃が、叫ぶガバナ騎士の右肩に何の音もなく、滑り込むように入り込み、そのまま胸を斜めに裂き、右下腹部に飛び出す。

 地面を踏み込んだアオ二等兵の足が着いたと同時に、右肩から左腹に向け袈裟斬りされたガバナ騎士の動きが止まったまま、ズルリと上半身がそのまま真っ赤な鮮血を吹き上げて、地面に落ちた。

 その一瞬の出来事に周囲が硬直するようにピタリと止まった。

 ゆっくりと立ち上がるアオ二等兵の目には、そのことなど関係がないかのように殺意と強烈な闘争心が漂っていた。それに気圧された周囲のノルドイド人は、完全に闘争心を失っていた。


 †


 その様子をやや離れて、冷ややかに睨むガバナ騎士の六つの目があった。

 副団長ペタゴスであった。

「油断しよって……」

 沸々と湧き上がる怒りを抑え、周囲のノルドイド人の戦意喪失を抑える事に集中する。

 上空では、何かが炸裂する音と赤い閃光が点々を起こっていた。

 迎撃の第二陣が大使を追ってやって来たのであろうと、彼はその六目で見上げた。

 しかし、それは若干、違った光景だった。

 上空には、数機のテラ人の例の飛行物体が飛び交っている。

 その機体の後部から、パラパラと何かがばら撒かれているように、飛び出している。それは、明らかに先ほど部下のガバナ騎士を切り伏せたテラ人であることは、その姿形で分かった。

「援軍か?」

 副団長ペタゴスは、六目を細めその闇夜が開けようとする空を見上げ、状況が変化してきている事に気づいた。


 †


「ミヨとかいったな? 娘」

 左側の軽レーザー銃座席に着座し、ノルドイド人戦闘機の追撃機にレーザーで応戦しながらミュールが、コンソール・ルームで忙しくヴァーチャルモニターを操作するミヨに声を掛けた。

 因みに、右軽レーザー銃座席には、慣れてきたのかニーナ少尉が着座して応戦していた。

「そうですがなにか?」

 やや険がある声でミヨは、ミュールに返答した。敵機の数がさっきの数倍で、さすがにサブロウのサポートをしないとガヴァファル帝国ガバナ騎士団艦船の迎撃弾幕を避けながらの応戦は、厳しいい。敵機だけではなく、迫る追尾ミサイルの把握など母艦のデータ・リンクサポートがない中、この貧弱な同機のサーバの性能だけで処理しなくてはならない。

 相対的に的確に分析する情報を判断する事を素早くやる必要がある。その作業の集中を一々、遮られるのは陽気なミヨでもイラッとする。

「あの若い兵士……名は……アオだったかな。ホントに新兵か?」

 この何というか、ミュールの空気を読めないというところもムッとするところである。

「ええ。そうですよ。それが何か?」

「そうか……テラ人の新兵は優秀じゃな。初陣でガバナ騎士を打ち取るとは」

「うーん。新兵が優秀と言うか……軍曹が拾ってくるのが、じゃないかな? ね、サブちゃん」

「ノーコメント」

 素っ気のない声が、操縦席からミヨへ戻ってきた。

「しかし、何処から湧いて出てくるのやらこのノルドイド人の戦闘機。キリがないわ。これじゃ、ワームホール発生装置にも敵艦船にも用意に近づけない。戦線離脱するにしても、このままほっとけないし」

「ミヨ姉さん? 伍長との通信は、回復しないですかねぇ~?」

 操縦席から間延びした声がミヨに問いかけた。

 先程から何度もフネ伍長や軍曹に連絡を取っているが、通信が途絶えていた。

「だめだわね。あの人達が、この程度で逝っちゃうとか思えないけど……ん?」

 オレンジ色に投影されているヴァーチャル・ディスプレイの一つに、ポツンと緑色の艦船を示すマークが浮かび上がった。

「こんな時に奴らの増援?」

 苛立った口調で、ミヨがそのしきりに点滅するマークが浮かび上がるヴァーチャル・ディスプレイを人差し指で手前に引き寄越した。

「違う……これ、地球連邦軍の艦船だわ。それも、巡洋艦キリシマだわ!」

 コンソールから身を乗り出すようにミヨが点滅する緑色の艦船マークに食い入るように見入った。

「ミヨ姉さん! どうやら友軍見たいですよ」

 操縦席からやや張りのある声でパイロットである。サブロウがマイク越しにミヨに伝えた。

 その直後、同機の横を航空機と思われる物の衝撃音が、左右から過ぎ去っていった。

 緑色の点滅マークからバラバラと強襲戦闘機を示す赤いマークが、飛び出だしてきた。

 地球連邦軍第三艦隊所属巡洋艦キリシマ所属のモックス強襲部隊第14小隊及び第15小隊の各強襲戦闘機が、ここへ次々に投入されている光景だった。

 すぐさま、コンソール・ルームの通信コンソールが反応した。

 空間に簡易通信ヴァーチャル・ディスプレイが投影された。

「MY-0013情報通信上等兵だね」

 凛としたその口調とその下級クローン兵を識別番号で呼ぶ言い方で、ミヨは、通信してきた相手が即座に苦手な相手だと悟った。

 声の主は、上級クローン特有の口調で話す巡洋艦キリシマ艦長マリサ大佐である。

「はい。第15小隊第9分隊のミヨ上等兵です」

 あえて識別番号で答えず、自分の名前で返答した。

「……ゲンジロウ軍曹はいるのか?」

 その対応に一瞬、右眉を反応させながらもその整った顔に似合った無表情を崩さず、少し間を置いて大佐は、ミヨに聞き返した。

「現在、敵陣地に潜入し、作戦続行中です。ただ、現在、通信は途絶えています」

「状況を報告、および交戦相手の詳細情報をキリシマに転送を頼む」

「詳細な転送は、データリンクが可能になり次第行います。現状は、全権大使を無事救出。同機に同乗され、保護しています。現在交戦中の相手は、ガヴァファル帝国配下のノルドイド人。同ノルドイド人は、Σ(シグマ)惑星への侵入と同時にワームホール発生装置を設置。ワームホールを発生させ、同ワームホールを通して、大量のガヴァファル帝国艦艇を展開、地球連邦圏内に侵攻を試みていると思われます」

 その淡々としたミヨの報告を簡易通信ヴァーチャル・モニター越しのキリシマ艦長マリア大佐は、その表情を一切変えず冷静に聞き入っていた。上級クローン兵特有の感情抑制が、この状況の場合はどうやら効くらしい。

 軍曹が彼らを引き連れて飛び出してきた時とは、その冷静さは大違いだった。

 今、モニター越しの艦長の脳内では、報告を整理した上で、状況を正確に把握し、何を素早く判断すべきか計算されているに違いない。

「同機は、全権大使をそのまま保護し、当艦へ帰投。以上」

「ちょっと! 待ってください。下のノルドイド人施設には、今、同分隊の隊員が交戦中です。放って置くことは……」

 ミヨは食い下がったが、向かい合うモニター越しの艦長の目は、冷たい眼差しであった。

「了解しました」

 その上級クローン兵でもある上官からの命令には、さすがにミヨでは抗しきれなかった。

「心配はするな。二小隊を既に展開し、拠点占拠に作戦行動に入っている。お前たちの軍曹らが、この程度でどうなる訳がなかろう」

 と言うと、簡易通信モニターが切れた。最後の方は、端正な顔立ちしたマリア艦長の口元に笑が浮かんでいたように見えた。

 それに思わずミヨは、舌打ちした。

「いけ好かないわね。あの澄まし顔した『わたしは上級クローン兵ですよ!』みたいなドヤ顔」

 毒づくミヨに誰も何も言わなかった。触れてはならないと着座している全権大使ですら、苦笑いをして流すだけだった。

「サブさん。ミヨ姉さん。後は、俺らに任せて、キリシマに戻って下さ~い」

 新たな簡易通信ヴァーチャル・モニターが立ち上がる。そこには、戦闘用パイロットヘルメットを着用した兵士の顔が映し出された。ヘルメットの側面には、15-1と微かに書かれている。

 第15小隊第1分隊強襲戦闘機パイロットだった。

「サブさん。狡いっすよ。一人でドンパチやって~」

「好きでやってんじゃないけどな。何ならもう一回、俺の下で副操縦士になるか? ヨウゾウ」

「う。キツイな~。サブロウさんわ」

 簡易通信ヴァーチャル・モニターに映るパイロットが、気の抜ける単調な口調のサブロウの嫌味に苦笑いを見せる。

「ここらの空域は、第15小隊で抑えますんで、皆、サブさんに鍛えられた奴らですから大丈夫ですよ」

「第14小隊は?」

 簡易通信ヴァーチャル・モニターに映るパイロットにミヨが割り込むように訊いた。

「敵の迎撃機出撃拠点の攻撃に向かってますよ」

 それに鼻息を鳴らし、コンソールルームの椅子に荒々しく座り、腕と足を組んだ。あのいけ好かないキリシマ艦長は、ここに援軍として登場する時点で敵であるノルドイド人の陣営配置図を遙か上空である成層圏より、ジャンブ後に直ぐに把握していたということになる。

 ならもっと早くこっちに連絡を入れてくれても良いようなものだ。

 それがあったらアオ二等兵を敵の群集に置いて来ることもなかった。

「下級クローン兵とかは、あのいけ好かない艦長にとって単なる駒ってことかしら」

 不愉快そうな表情をミヨが見せると簡易通信ヴァーチャル・モニターの映るパイロットが、頬を軽く掻いた。ミヨの上級クローンへの嫌悪から来る暴言はよく聞いているが、その場に関わっているのは正直、具合が悪かった。なにせ、この簡易通信は一応、キリシマの管制室経由で艦長に後々、耳に入るからであった。

「ともかく、サブさん達は、キリシマに帰投してください。後は、俺らにおまかせをば」

 と第15小隊第1分隊強襲戦闘機パイロットの下級クローン兵は、苦笑いを浮かべ簡易通信ヴァーチャル・モニターを切った。

「ミヨさん。ほんじゃ、キリシマに一旦戻りますね。周囲の警戒よろしくです」

 操縦席のサブロウがモニターが切れると同時に不快そのものの表情を見せるミヨのいるコンソール・ルームに声を投げた。

 それに荒々しい鼻息が、そのやや童顔じみた顔の鼻から出すことで、答える。

 その瞬間、同機に搭乗している五名の身体にグンと加速する際のGが掛かった。その数秒後に何発かのミサイルやレーザー攻撃が同機に左右からあったのだろう、軽く機体が左右に揺れ、難なく交わし更に加速を上げた。

 既に有視界上にやや青緑色に見える地球連邦軍第三艦隊所属巡洋艦キリシマの艦影が、闇夜から早朝の薄い青の膜を広げ始める空に堂々と浮かんでいた。そこから強襲戦闘機ではない攻撃戦闘機が、次々と出撃している。

 時期にノルドイド人の施設上空の制空権は、こちら側に握られるだろう。

 しかし、その施設上空に浮かぶ銀色の強大な30キロメートルはあろう銀の輪であるワームホール発生装置は、その回転速度を更に増して中央部に高濃度の重力子を集結させ一種のブラックホールを生み出し、時空間を歪め、更には穴を空けようとしていた。

 空いてしまえば、その先にはガヴァファル帝国の艦船が何万隻と押し寄せてくることは、ほぼ間違いない。

 ミヨは、その為には施設下にある制御装置を一刻も制圧する必要があると考えているが、果たしてフネ伍長と軍曹が間に合うかどうかが解らなかった。

 現在、投下されている第15小隊の強襲部隊の兵員が直ぐに目的地にまで、辿り着くには東側に展開しているノルドイド人を制圧することが先決になる。その時間がロスだった。

 妙案が浮かばないミヨは、額に皺を寄せ右親指の爪を噛んだ。その仕草は、彼女が次の一手を考えあぐねる時に出る癖であった。

 ともかく、一旦、同機に保護している全権大使殿をキリシマに退避させる事は、優先させねばならないことだけは確かだった。


約半年ぶりの最新版となります。

年末年始そして、年度替わりの最近まで仕事の関係で忙しく、構想は出来上がりつつあるものの執筆が進まないというジレンマが続いてしまいました。

忘れずに読んでいただくことを心から願いつつ、これからボチボチ更新を再開したいと思います。


推敲はしてはいますが、誤字脱字がございましたらご指摘いただきたく思います。


本編もようやく、クライマックスへ向けて進みだしています。

見捨てず、読んで頂くと嬉しく思います。

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