懐かしいあの時
おいしい〜。
私は大好きな苺のショートケーキを口にいれて、うっとりとした。
本日、クリスマスイブ。
私達3人はケーキバイキングに来ている。
周りには、私達のように友達だけで楽しんでいる人もいるため、居心地がいい。
美味しいケーキを食べて、仲良しの友達と過ごすイブだって、ステキなものだ。
「そういえば、美月ちゃん、悠希先輩とバンド見に行くんだって?」
ふと思い出したような口ぷりで、彩ちゃんがケーキを食べながら、私に聞いた。
突然彼の話をされて、動揺した私は、食べていたケーキを落としそうになってしまった。
…あぶないあぶない。
「うん。明日ね。」
私は落ち着こうと、紅茶を一口飲んだ。
お姉ちゃんに、悠希さんをどう思っているのか、と聞かれてから、彼のことを考えることが多くなった。
けど、今だにその質問の意図と、答えがよく分からない。
はぁ…。
お姉ちゃんは何が言いたかったんだろう。
「じゃあ、デートかぁ!いいなぁ〜。」
「…デート?」
誰と誰の話をしているのだろう。
悠希さんのことで頭がいっぱいで、彩ちゃんと清香の話を無意識に聞き逃してしまったのかもしれない。
「デートでしょ!悠希先輩はそう思ってると思うよ?」
「…はい?」
…この話の流れは、もしかしなくても、明日私と悠希さんが一緒にバンド見に行くことをデートと言っているのだろうか。
って、デート!?
私は目を見開いて、一瞬固まった。
そんなこと考えてもいなかった。
デートって…そっか。
男の人と2人で出かけるんだから、そう思われてもおかしくないのかもしれない。
でも、それって……付き合ってるみたいじゃない?
「もしかして、美月はそういうつもりじゃなかったの?」
清香がため息をつきそうな顔で私を見た。
その横で彩ちゃんは苦笑している。
「悠希さんの友達がバンドやるから、見に行くだけだし、デートなんて…。」
「あぁ、悠希先輩と美月ちゃん、音楽の趣味が合うもんね〜。」
彩ちゃんが納得しながら、明るく笑った。
そう。悠希さんとは音楽の好みが一致して、よく話をした。
委員会のときに、悠希さんとあるバンドの話で盛り上がったことが始まりだった。
そのバンドは、当時私が心密かにハマっていたロックバンドだ。
けれど、あまり有名なバンドじゃなかったため、私の周りに知っている人はいなかった。
だが、偶然、悠希さんがそのバンドのファンで、CDを持っていたのだ。
私達はそれがきっかけで意気投合した。
いろんな方面から語り合った。
作詞や作曲の魅力はもちろん、演奏のクオリティや細々とした演出についてと、ネタは尽きなかった。
懐かしいな、と思う。
…彼と話した委員会の時間はとても有意義だった。
この間、書店で会ったときは音楽についての話題は出なかった。
だから、明日は思いっきり語り合えるのだと思う。
彼が誘ってくれたことに他意はないのだ。
ただ、同じ趣味の私を親切心で誘ってくれただけ。
私は生演奏を聴きに行ったことがないと話したことがあるから、誘ってくれただけで。
それ以外の理由など、ないだろう。
私はお皿の上のケーキをすべて食べ終え、フォークを置いた。
「ねぇ。」
清香に声をかけられて、視線をむけると真剣な顔をして私を見ていた。
清香の凛とした声が響く。
「美月は兄貴のことをどう思ってるの?」
私は驚いて、すぐに言葉が出なかった。