勘違い=誤解
瞬間、コーヒーを飲んでいた彼は突然激しく咳こんだ。
その普通じゃないむせように、私は驚き、
「だ、大丈夫ですか?」
と、恐る恐る声をかけた。
彼はめちゃくちゃ苦しそうにして、何かを訴えるように私を見た。
な、何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
私は少し焦って、彼に聞いてみようとした。
が、
「はぁ!?兄貴、彼女いるのっ!?」
リビングのドアを勢いよくあけた清香の声にびっくりして、私も悠希さんも言葉を失った。
切り分けてきたババロアをテーブルに置いて、清香は彼に少しつり上がった目をむける。
盗み聞きしていたのか、聞こえたのか、清香は悠希さんに疑問を投げかけた。
「ちょっと、どういうこと!?」
清香はなぜか怒ったように、悠希さんへ疑問を投げかける。
だが、なぜそこまで清香が怒りをあらわにしているのか分からない。
私もお姉ちゃんに彼氏がいたと知ったら、驚きはするだろう。
けれど、怒ったりとかはしない。
むしろ、相手の男性を崇拝したい気持ちで満たされること間違いなしだ。
私はこの事態がよく分からず、交互に2人を見た。
。
「清香、ちょっと落ち着いてくれって。」
やっと普通に呼吸ができるようになったらしい、悠希さんが清香をソファーに座るように促した。
清香はつり上がった目をそのままにして、しぶしぶ私の隣に座った。
彼は少し困った顔で、私に聞いた。
「えっと…美月、どこから俺に彼女がいるって話を聞いたの?」
「聞いたも何も…6月に悠希さんと映画館で会ったとき、一緒にいたじゃないですか。」
あれは…私が中学時代の友達と映画を見に行った時だった。
映画を見終わって、帰ろうとしたときに悠希さんを見つけて、私が声をかけた。
そのとき、彼の隣に清楚で可愛らしい女の人がいたのだ。
私はデートなのだろうと思って、挨拶だけして帰ったのだが、彼は覚えていなかったのだろうか。
私は悠希さんをちらっと見た。
少しの間、記憶をたどった彼は、思い出したようで、あれか、と呟いた。
私が小さく頷くと、悠希さんはちょっとだけため息をついて、苦笑を浮かべた。
「兄貴、思い当たるふしでも、あるわけ?」
しばらく黙っていた清香がしびれを切らしたようで、悠希さんに聞いた。
「あの日、一緒にいた人は友達の彼女だよ。」
「友達の彼女?」
清香が意味が分からないという風に聞き返す。
私もイマイチよく分からない。
「美月はちょうどタイミング悪くて会わなかったみたいけど、本当は俺の友達と3人で見に行ったんだよ。
…清香、あいつのことだよ。晶の彼女、知ってるだろ?」
清香はそれを聞いて、納得したような顔をした。
きっと、清香はその悠希さんの友人を知っていたんだろう。
テーブルの上のババロアに手をのばしながら、
「なぁ〜んだ。慌てて、損しちゃった。」
と、清香がいつもの調子で言った。
「俺は今、付き合ってる人はいないよ。清香、当たり前だろうが。」
悠希さんは少し呆れたように、清香に言った。
なんだか…私だけ会話についていけてない。
今までの話をまとめると、
映画館には友達、友達の彼女、悠希さんの3人で行っていた。
そして、悠希さんには現在彼女がいないらしい。
それは、つまり…
「私の勘違い?」
「まぁ、簡単にまとめるとそういうことよね。」
清香はそう言って、ババロアを口に入れた。
私は少し恥ずかしくなりながら、悠希さんの方を見た。
「ということだから、安心して、クリスマスは誘われちゃってよ。」
悠希さんは笑いながら、私に言った。
勘違いで、2人を振り回してしまった私は素直にはい、と返事をするしかなかった。