聖夜の予定
初雪が降った寒い道を新鮮に感じる。
家からゆっくり歩いて20分、私は清香の家についた。
右手には、今朝作ったババロアの入ったボックスを持っている。
味にうるさいお姉ちゃんから、おいしいと、嫌みなしの賞賛をもらったので、きっと2人も喜んでくれると思う。
チャイムを鳴らすと、清香と悠希さんがいっしょに出迎えてくれた。
いくらそっくりな2人でも、こうやって並んで見るとやっぱり違うところもあるものだ。
特に今は、それがはっきりと分かる。
「いらっしゃい。美月、わざわざありがとね!」
清香の目がめちゃくちゃ輝いている。
待ってましたという表情だ。
いつもはお姉さん的存在な清香も、女子高生らしく甘い物には目がないのだ。
下手すれば妹のようだと、私は小さく笑った。
「ううん。これ、お待ちかねのババロアね。」
「やった!早速、切り分けてこよっと。あ、美月あがってね。」
一気にテンションが上がった清香はすぐに食べるらしく、キッチンに消えていった。
あの勢いなら、一気に全部食べてしまうかもしれない。
すらっとした長身とスマートな外見に惑わされがちだが、清香は大食いなのだ。
しかも、食べても太らない、ニキビもできないという、女子なら誰もが憧れる理想的な体質の持ち主だ。
私が作ったワンホールのババロアなんか、余裕で食べれるのだろう。
やれやれという顔している悠希さんと目が合い、お互いに吹き出した。
互いに思っていたことは同じだったようだ。
「寒かっただろ?上がって暖まってよ。」
「はい。お邪魔します。」
◇◆◇◆
広々としたリビングは暖房がついていて、冷えた身体が喜ぶ。
私はふかふかのソファーに座って、悠希さんが淹れてくれたカフェオレを飲んだ。
「ふぅ〜おいしい。」
私はため息をつくように零すと、悠希さんは小さく何かを呟いた。
小さすぎて聞こえなかったが、私は特に気にせず、悠希さんにカフェオレのお礼を言った。
「苦くないか?ミルクが足りなかったら、言ってな。」
私は苦いコーヒーが飲めないので、いつもミルクと砂糖を自分で入れるのだ。
去年に何回かお邪魔に来たから、私の好みを覚えていてくれているのか、甘さはちょうどいい。
「大丈夫です。」
「そっか。」
彼はコーヒーを一口だけ口に含んで、少し考えたように言った。
「…あのさ、美月はクリスマス空いてる?」
クリスマス…。
イブの昼は清香と彩ちゃんと遊びに行く予定だ。
ケーキバイキングの招待券を3枚ゲットしたとのことで、彩ちゃんに誘われたのだ。
そして、夜は家族でご馳走を食べたりすることになっている。
けど、次の日、クリスマスの予定はがら空きだ。
お姉ちゃんは1日遊びに行くらしいから、家で特にやることもないだろう。
「空いてますよ。」
私がそう言うと、彼の表情が一際明るいものに変わった。
クリスマスに何かあるのだろうか。
私が疑問に思っていると、悠希さんはにっこりと笑って言った。
「じゃあ、今日のババロアのお礼をしたいから、1日あけておいてね。」
「お礼なんて…。」
ただの趣味で、しかも姉の命令ついでに作ったのに、お礼なんて申し訳ない。
私はすぐに遠慮した。
「友達がバンドやっていて、クリスマスライブやるらしいんだけど、1人で見に行くのは淋しいんだよ。
大したお礼じゃないけど、美味しいもの奢るしさ。」
彼は少し焦ったように言ってきた。
そういう風に言われると、断れないなぁ。
…決して、美味しいものに釣られたわけではない。
私は彼の誘いを受けることにした。
「分かりました。よろしくお願いします。」
彼の優しさに私は自然と頬が緩んだ。
ふと、悠希さんの彼女さんにちょっと悪いなと思った。
きっと、クリスマスは都合が悪くて一緒に行けないのだろう。
「けど、悠希さん。彼女さんがいるんですし、無闇に他の人を誘っちゃダメですよ。」
私はからかい半分、忠告半分で、彼に言った。