和やかなひととき
まさか、この前の話に出てきた彼に会うとは…偶然とは時に奇妙なものだ。
悠希さんは、今日は彼女さんと一緒ではないらしい。
そうでなかったら、私は彼に誘われていないし、向かい合ってカフェコーナーに座ってもいない。
ここに来るのが始めてだという彼は、とりあえず、私と同じカプチーノをオーダーした。
温かくておいしいカプチーノを飲みながら、私達は他愛もない話をしていた。
話し上手な彼の話は、いつもおもしろい。
去年、委員会で会ったときには、必ず話しかけてくれた。
ふと、そのときのことを思い出して、こんな時間が懐かしいと思えた。
だが、同時に雰囲気やちょっとした仕草に変わったなぁと感じるところもある。
もちろん悪い意味ではなく、ただ、大人に近づいているんだなぁと思った。
考えてみれば、悠希さんに会うのは久しぶりだ。
6月に清香の家に泊まりに行ったとき以来だろうか。
半年くらい会っていないだけで、こんなにも大人っぽく、頼もしく思えるものなのだろうか。
男の人の変化は侮れない。
それがちょっとだけ羨ましく思える。
私ももう少し身長と胸が成長して欲しかった。
スタイルのいいお姉ちゃんと並ぶと、悲しくなるのだ。
「そうだ。美月、この前のカップケーキ美味しかったよ。」
悠希さんは思い出したように、微笑みながら言った。
…カップケーキ?
私は話が分からず、少し考えを巡らせた。
あぁ、もしかして、部活で作って清香にあげたあれのことかな。
「ありがとうございます。」
悠希さんはカプチーノをごくりと一口飲んで、少し冗談っぽく愚痴を言いはじめた。
「また美月の作ったお菓子が食べたいな。
去年はもらい放題だったのに、今年はまだカップケーキだけしか食べてないよ。」
そりゃあ、今年から大学生になったのだから、わざわざ渡しには行けない。
そもそも、去年だって悠希さんにあげようと思っていたわけでない。
何人かの女子から貰ったにも関わらず、悠希さんは委員会や帰り道でしつこく催促するのだ。
よほど、甘い物が好きなのだろう。
ならば…と思い、悠希さんに一つの提案をしてみた。
「じゃあ、明日、お家にお邪魔してもいいですか?ババロアを作って持っていきます。」
実は、明日のおやつにババロアを作るようにお姉ちゃんから命じられていた。
お菓子づくりは趣味の領域なので、命令されなくても作ることだってある。
大抵はお姉ちゃんのリクエストで、作るお菓子が決まるのだ。
清香が確かババロア好きだったし、兄妹で食べれるなら、ちょうどいい。
だが、彼は少し目を見開いたまま固まっている。
応答がない。
悠希さん、ババロアは苦手なのだろうか。
「悠希さんが嫌なら別に…。」
清香の分だけ持って行きます、と続けようとしたところで、遮られた。
「ごめんごめん。嫌じゃないよ。ちょっとびっくりしただけで。」
少し顔を赤らめて、彼は弁解した。
私は安心して、笑った。
「そうですか。じゃあ、少し多めに作るので、清香と一緒に食べてくださいね。」
清香にも後でメールで伝えておかないとね。
「…そういうことか。あ、うん。頑張って死守するよ。」
悠希さんは何故か苦笑気味に頷いて、溜め息を小さくもらした。
独り占めにしたいほど、悠希さんもババロア好きなのだろうか。
似たもの兄妹だなぁ、と私はカプチーノを飲みながらこっそり笑った。




