対照的な姉妹
クリスマスから年末年始と時が過ぎて、ついに冬休み終了まで一週間をきってしまった。
私は部屋の目覚まし時計で時間を確認して、少し急ぎ足で階段を下りる。
私にしては珍しく、着替えるのに時間がかかってしまったみたいだ。
悠希さんとの待ち合わせの時間に遅れる心配はないが、余裕を持って家を出るようにしたい。
靴を履く前にマフラーとコートを取りにリビングに立ち入った。
今日はお父さんもお母さんも仕事でいないから、リビングにはお姉ちゃんしかいなかった。
大掃除ついでに引っ越しの準備をして疲れたのか、ソファーにもたれて座り、休息をとっている。
「ねぇ、ちょっと手伝ってよ。」
げんなりとした顔でSOSを求める彼女に私は小さくため息をつく。
お姉ちゃんは片付けがあまり得意じゃないから、部屋の片付けに難航しているみたいだ。
引っ越しは1月中に済ませるという話にまとまったようで、お姉ちゃんは忙しそうだ。
けれど、残念ながら今は手伝えない。
「手伝うもなにも、これから…デートなんだけど。」
「ちょっとくらい…いいじゃない。待ち合わせ20分前に行くなんて、逆に相手に気を使わせるわ。
それとも…早く彼に会いたくて仕方がないの?」
じろじろと全身を眺められて、ふん、と鼻で笑われた。
張り切りすぎだと指摘されているようで、恥ずかしくなる。
私は誤魔化すように呆れた声で返事をし、引っ越し用のダンボールに荷物を入れていった。
作業をしながら、先ほどのお姉ちゃんの言葉を思い出す。
待ち合わせには余裕を持って行く私とは違って、お姉ちゃんは相手を少しくらい待たせても構わないらしい。
むしろ、男は少しくらい待たせるべきだと言う。
彼女の持論はイマイチよく分からない。
「ねぇ、お姉ちゃん。私達って本当に似てないよね。」
「何よ。…当たり前でしょ。あんたに似てるなんて言われたら、終わってるわ。」
眉を寄せて嫌そうな顔を見せるお姉ちゃんに私は密かに舌を出す。
こっちだって、ごめんだっての。
昔から、お姉さんと似てないね、と言われきた。
小さいころ、私は今よりも呑気な性格で、気の強い姉とは似ても似つかなかった。
さすがに小学校高学年にはお姉ちゃんの横暴さが普通でないことに気づいて、反抗するようになった。
けど、悲しいことに結局は彼女の言いなりになってしまう。
性格は似ていると言われなくない。
こんな面倒くさがりで、ワガママで、理不尽な姉と似ているとか…ほめ言葉として受け止められない。
いや、完璧嫌味だろう。
でも…。
私はお姉ちゃんに背を向けたまま小さく呟いた。
「でも…私、お姉ちゃんのこと、嫌いじゃないよ。」
確かにワガママ女王様で理不尽な性格の彼女には気に入らない部分がたくさんある。
けど、それで『嫌い』になるとは限らない。
むしろ、私は心の奥底で憧れに近い感情を抱いている。
先日、お姉ちゃんの彼氏が挨拶に来てくれた。
少し話をしたけど、優しくて硬派な感じのいい人だった。
お姉ちゃんがいなかった時、彼が言っていた。
『咲良の美月ちゃんへの態度は…構ってほしいっていう愛情表現だと思うよ。
あぁ見えて、寂しがりやなんだ。』
もちろんすぐには信じられなかったが、彼は私の知らないお姉ちゃんを知っているのかもしれない。
そう思ったのは、2人の間に和やかな雰囲気を感じたからだ。
お姉ちゃんは私には見せないような緩んだ笑顔を彼に向けていた。
素敵な関係だと思う。
私も悠希さんとそういう関係を築いていければいいな、とやっぱり憧れてしまう。
今、姉の一番の理解者である彼が言うなら、信憑性がある。
まぁ、お姉ちゃんには内緒だって言われたから、あえて言わないけどさ。
「……。」
お姉ちゃんからの反応がない。
憎まれ口の一つや二つ、言われると思ってたんだけど…ま、いいか。
さてと、ここにあったものは全部詰め込んだし…っと。
私は立ち上がって、
「やっぱり、寒い中待たせるのは嫌だから、早めに出るね。」
ソファーに座るお姉ちゃんに一言告げる。
外は寒いから、マフラーもコートを装着して、私はリビングのドアへと向かった。
「……帰ってきたら。」
私の背中側にいるお姉ちゃんがいつものような高飛車な口調で言葉を紡ぐ。
「また手伝いなさいよ。」
振り返ると、恥ずかしそうに頬をそめたお姉ちゃんの顔があった。
私は目を丸くしてから、すぐにくすっと笑って、は〜いと返事してリビングを出た。
昔から、不思議だったことがある。
私達姉妹はどうしてこんなにも似ていないんだろう。
勉強の仕方も恋愛の仕方も性格だって、似ているところを探すことが難しいくらいに相違している。
それは一言で表すとしたら…
「…対照的…かな。」
私は小さく呟いて、ふふっと笑った。
呟きも笑い声も冷たい冬の空気に響いて、ゆっくりと溶けていく。
私達は対照的だ。
だから、似ていなくて、反発したりする。
けれど、似ていないからこそ、お互いのどこかに羨ましいという気持ちがあるんだと思う。
それは数少ない私達姉妹の共通点なんだって、私は信じたい。
対照的な姉妹、完結です。
つたない文章にもかかわらず、最後まで読んでくださった方々に心から感謝しています。
本当にありがとうございました。