tell me you
ブルブルと一定の間隔で聞こえる呼び出し音が先ほどまではなかったはずの緊張感をもたせる。
勢いで悠希さんに電話をかけたが、今更躊躇いが生じた。
多少の気まずさというか、恥ずかしさというようなむず痒さを感じているからだと思う。
これは悠希さんが悪いわけではなくて、私の気持ちの問題だからどうしようもない。
バクバクと心臓が騒がしい。
落ち着かなくて、部屋の中をぐるぐる歩きながら、彼が電話に出るのを待った。
早く出てほしいと思いながらも、気づかないでほしいという矛盾した感情が頭を混乱させる。
余計なことを考えるからいけないんだ、と目を閉じて呼び出し音に耳を傾けた瞬間、音が消えた。
携帯の画面には通話中という文字が映されている。
激しい運動をしたわけでも大勢の前でスピーチをするわけでもないのに、声がなかなか出なかった。
何か喋らなくちゃ、と焦るが、私は頭が真っ白になっていて、振り絞るように勢いよく声を出した。
「も、もしもひ!?」
…盛大に噛んでしまった。
時間が止まったかと思った。
大事な瞬間にまさかのミス。
どんな別れ方をしたか分からなかったから、悠希さんの様子を覗えるように話さなければいけないと思っていたのに…よりにもよって、始めでやらかしてしまった。
なんで大事な時にこうなるの、と私は自分に苛立ちを感じていたが、ふと耳に入ってきた音でそれは遮られた。
電話の奥から、彼のくぐもった声が聞こえる。
…少しして、それが笑い声だと気づいた。
私はほっとしながらも、少し強めの口調で彼の名前を呼んだ。
『ごめんごめん。そんなに意識してくれているとは思っていなかったよ。』
悠希さんの嬉しそうな声に私はうっ、と言葉に詰まる。
明らかにあちらの方が余裕だ。
こっちはいっぱいいっぱいな状態なのに不公平だと思う。
私は少し悔しくなって、愚痴のように本音を零す。
「そりゃ、突然言われたら…混乱します。」
『あはは。そうだね。……でも、結構アピールしているつもりだったんだけどなぁ。』
…アピール、してたの。
それはそれではっきり言われちゃうと…恥ずかしいものなんですけど。
なんだか開き直ってきている彼に私はどんどん追い詰められていく。
これ以上言われ慣れていないことを言わないでほしい。
けれど、彼と普通に会話出来ていること自体は嬉しかった。
…嬉しい?
私はその言葉に少し違和感を感じて、考えてみる。
確かに前々から、悠希さんと一緒にいる時間は居心地がよいと感じてはいた。
その感覚はお姉ちゃんや清香、彩ちゃん達といる時には感じなくて、悠希さんだけが特別だった。
そう、特別…。
それは…何を意味しているのか。
そう思考した瞬間、私の頭にすんなりと一つの結論が浮かんだ。
…あぁ。そうだったのか。
『…それで、電話、どうしたの?』
彼の声がすごく近くで感じられる。
結論を裏付けるかのように、彼優しい、心地の良い声が頭に響く。
心臓がうるさいのも、落ち着かないのも、電話をかけたのも。
それはつまり、そういうこと。
…こんなの私らしくないけど、明らかに私が持っている感情なんだ。
清香とお姉ちゃんが聞きたかった答えが、やっと出た。
『美月?』
名前を呼ばれて、びくっと反応する。
あぁ、どうすればいいかなと、私は少し考えを巡らせた。
悠希さんのように伝えることは私にはできない。
だけど、電話をした理由くらい素直に言おう。
息を大きく吸って、早まる心音を少しでも収めようと努力したが、効果があったかは分からない。
私は少し小さな声で言葉を紡いだ。
「ただ、声が聴きたかっただけです。」
あぁ…。本当にらしくない。
正直な感情だから、なおさら恥ずかしい。
けど、好きと告げるよりは簡単だった。
そう考えれば多少、羞恥を軽くできた。
私は少し悶えながら、彼の返答を待つ。
『…電話でよかった。』
「はい?」
『そういうこと突然言うの反則。…あー、今、録音しておけばよかった。』
動揺したらしく、冗談混じりに彼は答える。
私は少し目を見開いてから、くすっと笑った。
電話でよかった。
顔を見たら、絶対うまく話せなかった。
私は密かに顔を赤らめて、誤魔化すように笑い続けた。