聖夜の帰り道
クリスマスライブが終了し、悠希さんに連れられてここへ来た。
隠れ家のような小さなお店だが、出される料理はどれも美味しいらしい。
暖かい店内に美味しそうな匂いが広がっていて、食欲がそそる。
悠希さんのお気に入りのお店だということで、期待が膨らんだ。
私達は料理が来るまでの間、ライブの感想を言い合う。
「めちゃくちゃ感動しました。」
私は興奮が治まらず、上擦った声で語り出す。
安定した歌唱力。
魅せる演奏の格好良さ。
トークもパフォーマンスも巧みで、来ていた100人前後のファン達は歓声をあげていた。
彼らが手がけた音楽自体も素敵だった。
詞もメロディーもキャッチーで、CDデビューしていたバンドだったら、私は絶対買っていたと思う。
「CD、文化祭で限定販売してたやつ、貸そうか。」
「いいんですか!?」
私は勢いよく、悠希さんの話に飛びつく。
悠希さんは嬉しそうに笑いながら、頷いた。
ライブが始まる前に紹介してもらった悠希さんのお友達は、バンドのリーダーでボーカルを担当している人だった。
ムードメーカーでチームをまとめるのが上手だった彼は、とても話しやすい人だ。
にこやかに挨拶してくれた。
そんな彼らのバンド、『SKY』は大学のサークル活動みたいなものらしい。
大学内でも有名らしく、今日来ていたお客さんのほとんどは大学生のようだった。
SKYのメンバーは5人。
ギター、ドラム、サックス、ピアノといろんな楽器を使い分ける4人の演奏者とボーカルが1人。
ジャズやロック系の曲調で、生の演奏の迫力は凄かった
私は彼らの音楽にどんどん吸い込まれていった。
耳から、目から、生の音楽に酔いしれた。
2時間のライブはあっという間に感じられたけど、本当に最高な時間だったと思う。
行けてよかった。
「今日は誘ってくれて、ありがとうございました。」
悠希さんの目を見ながら、私は言う。
彼の優しさを思い起こして、自然と頬がゆるんだ。
悠希さんはライブ中、曲やメンバーのことを教えてくれたりした。
始めて行ったライブだったけど、緊張せず、心から楽しむことが出来たのは彼のおかげだと思う。
趣味が同じ人と過ごすって、こんなにも心地よいんだなぁ、と知った。
清香や彩ちゃん達と過ごす時間も心地よいが、何かが違う。
言葉では表せないが、確かな違いがそこにはあるのだ。
「またライブがある時、誘うよ。」
悠希さんがにっこりと笑いながら言った。
私は無性に嬉しくなって、ぜひ!、と勢いよく返事した。
今から、すごくその時が待ち遠しい。
◇◆◇◆
悠希さんと過ごした一時はすごく居心地がよくて、楽しくて、あっという間だった。
料理も本当に美味しかった。
中でも、チキンのグリルが最高で、私は幸せな気分を満喫した。
家についた。
今日、悠希さんは車で来ていなかったが、夜道は危ないということで、家まで送ってくれた。
「わざわざありがとうございました。」
私はきちんとお礼を言った。
本当に楽しいクリスマスだった。
悠希さんと一緒にいると、不思議と時間が早く感じられて、帰り道の寒さもそれほど感じなかった。
ただ、悠希さんが帰り道、そわそわしていたのが気になる。
私はその理由を聞こうと口を動かそうとしたが、彼が先に言葉を紡いだ。
「あのさ。」
ゆっくりと話し出す。
どうしてか、照れたような思い切ったような顔をしている。
「今日、美月を誘ったのには理由があってさ。」
「…理由?」
私が心底わからないというように、聞き返すと悠希さんは苦笑した。
「やっぱり分かってないな。」
悠希さんはため息をつきそうな声で呟いた。
いつもの悠希さんとは少し違う、何かを含んだ物言いに私は気になって、彼の顔を見上げた。
真剣な照れたような眼差しが私を捕らえる。
私は目がそらせなかった。
「俺、美月が好きなんだ。」
悠希さんは白い息をはいて、静かな冬の空気に声をのせた。