大切な友達
お姉ちゃんといい、清香といい、どうして同じことを聞くのだろう。
「それ、お姉ちゃんにも言われた。」
私は戸惑いを隠せず、呟くように言った。
ちょっと不機嫌な声が出てしまったが、お姉ちゃんに踊らされている感じがして不愉快なのだから仕方ない。
それにしても、ほぼ接点のない2人がどうしてまったく同じことを聞くのか、奇跡のような偶然だ。
けど、質問の意味がよく分からない。
だいたい、お姉ちゃんも清香も物をズバズバ言うタイプだから、こんな回りくどい言い方は普通しないのだ。
何かを、私に隠していると思う。
けど、きっと聞いても答えてはくれないんだろう。
お姉ちゃんはあの後、
「少しは苦労して、答えをだしてみたら?」
と言っていた。
ますます意味が分からない。
私が眉間に皺をよせて考えていると、彩ちゃんがくすっ、と笑った。
「姉妹でも似てないもんだね〜。」
うっ…。
…そりゃね、言われているよ。言われ慣れているよ。
けど、言われ慣れていても、ダメージがないわけではない。
身長は10センチ以上離れている。
…もちろんお姉ちゃんの方が高い。
テストの5教科の合計点が100点以上違ったときもある。
…もちろんお姉ちゃんの方が上だ。
運動会のリレーでアンカーを毎年やってきたお姉ちゃんと反対に、私は走るのが遅くて、100メートルは25秒が自己最高記録だ。
姉妹だからと比べられると、あの理不尽な姉の凄さを改めて突きつけられる。それと同時に私は悲しくなる。
十人並みな顔の私と端正な顔立ちのお姉ちゃんは内面から外見まで、似ている部分がほぼない。
まぁ、性格は似なくてよかったと思うけど、頭脳や身体能力、身長や胸…は少しくらい分けてほしかった。
私は無意識に苦い顔を浮かべていたらしく、彩ちゃんはますますくすっ、と笑った。
「大丈夫!美月ちゃんには美月ちゃんのいいところがあるよ!」
彩ちゃんが私に明るく言う。
今の私には天使のように感じられた。
けど、私は照れくさくて、
「はいはい。フォローしてくれてありがとう。」
と、軽く流した。
基本的に誉められるのは苦手だ。
どう返すべきか分からず、心の中でアワアワしてしまう。
その様子を見て、清香が大きな声で笑った。
先ほどの真剣な眼差しはどこかへ行ってしまったようで、今はいつものように優しい目を向けている。
「お姉さんに先を越されちゃったのね。じゃあ…兄貴の話はやめるわ。」
私がいっぱいいっぱいになっていると察してくれたのか、清香は悠希さんについてこれ以上言わないことにしてくれた。
私は安堵の息をついて、紅茶を飲んだ。
「けど…。」
ん?
清香が呟くように続ける。
「1つだけ覚えておいてね。
私達は友達で……例えば、美月が私に気まずいからって、美月の意見を曲げることはないって。」
彩ちゃんも明るく頷く。
私は一瞬だけ面をくらった。
「それは…当たり前でしょ。」
友達だからこそ、余計な気は使わない、自分の意見はキッパリと言う。
それが今まで仲良くやってきた私達3人の共通点だ。
そのスタンスを私は変えるつもりはないし、変えようと思ったこともない。
どうして、そんなことを清香は言うのか分からないが、私はきっぱりと言った。
「そんなこと、私は考えないよ。」
清香と彩ちゃんは顔を見合わせ、そうだね、と笑った。
「ちょっと悩んだ私が馬鹿みたい。安心した。ありがとう。」
よく分からないが、清香は何かに対して不安だったようだ。
私はそのお礼の意味が分からなかったが、にっこりと笑った。
さて、と私は手をたたく。
「話に区切りがついたし、ケーキをとってこようか。」
私が席を立とうとすると、2人も行く、と立ち上がった。
「さっき食べたあそこのケーキ、美味しかったよ。オススメ。」
清香が指差した方向に彩ちゃんが食いつく。
「どこどこ?食べる!」
目を輝かせた彩ちゃんは目標を確認して、すぐさま取りにむかう。
私は隠れて笑った。
この日、私達3人は今までにないくらいケーキを堪能した。
大事な友達と過ごしたイブは、とっても楽しくて、温かい思い出となった。