ワガママ女王様
小さい頃から、私は不思議にずっと思っていた。
そして、高校2年生となった今でも、その疑問は消えずに…
むしろ、理不尽な遺伝子のいたずらに腹立たしささえ感じてしまう。
「美月、私の部屋にある雑誌もってきて。」
リビングのソファーで携帯をいじりながら、私に向かって命令する。
長く艶のある茶髪にゆるいパーマを本日かけてきたばかりだという私の姉、咲良。
「ベッドのそばのテーブルに置いてあるから、早くしてよね。」
現在、私は今日の授業の復習をしている。
リビングのテーブルで。
彼女の睫毛で覆われた大きな瞳は飾りなのか、それとも私が勉強していようが関係ないのか。
…9割の確率で後者だろう。
まず、何様かと聞きたい。
「美月〜。」
少し強い口調で急かすお姉さまに、無意識にも頬が引きつる。
久しぶりに早く帰ってきた姉と2人きりでお留守番など、始めからいい予感はしていなかった。
けど、さすがに私も我慢の限界だった。
「さっき、コーヒー淹れてあげたでしょ!その後、せっかく淹れてあげたコーヒーが冷たくなったからって、また温めさせたのは誰よ!」
私は椅子から立って、あくまで冷静にお姉ちゃんに聞く。
「だって、猫舌なんだもの。熱いコーヒー冷ましてたら、思いのほか冷めちゃったんだからしょうがないじゃない。」
こちらを見向きもせず、淡々と答える姿にまたイライラが募った。
「じゃあ、携帯の充電器をもって来させたり、お姉ちゃんの洗濯物を干したり畳んだりしたのは誰のお願い?」
家に帰ってきて、早2時間。この間、私は勉強できていないに等しい。
すべて、彼女の命令により使われた。
「私しかいないじゃない。母さんは買い物に言ってるし、お父さんは今日も夜勤だし。
そんな少し前のことも、分からなくなるくらい記憶力がないのかしら?」
…もう限界です。
鼻につくような言葉運びで、蔑まれた。
その勝ち誇った顔に欠点があれば、もう少しこの怒りは落ち着いていただろうに。
もしくは私の容姿が平凡でなければ、この敗北感は和らいだかもしれない。
力の入る拳の行き場のなさに、わざとため息をもらす。
少しだけ冷静になれた気がする。
…気のせいかもしれないけど。
そして、ある結論にたどり着いた。
自分の部屋に戻って勉強しよう。
お姉ちゃんの命令は無視。無視。何が何でも無視。
イヤホンを耳栓代わりにして、聴覚をシャットアウト。
これで、お姉ちゃんの声は聞こえない!
私は勉強道具を素早く片付けて、自分の部屋へと向かう。
つもりだったのに…。
「こんなもんしたって無駄よ。この間のテストは誰のおかげで赤点免れたのかしら?」
…いつの間にか背後に立っていたお姉ちゃんにイヤホン没収され、おまけに弱みを出された。
えぇ…私の苦手科目である数学が前回のテストで90点の高得点を取れたのは、認めたくないけど、お姉ちゃんの教育のおかげ。
努力しなくちゃ覚えられない私と違って、授業さえ聞いていればテスト期間など必要なかった彼女の説明は、悔しいがめちゃくちゃ分かりやすい。
「そうね、今月中ずっと私の言うとおりに動けば、来月の中間テストの成績が中の下から、上の中くらいにはなるかしら?」
「…雑誌をすぐに持ってきます」
私はまとめた勉強道具をテーブルにおいて、2階の彼女の部屋へと渋々向かうことにした。
めちゃくちゃ嫌みな言い方だったが、留年したくはないから、しょうがない!
私は階段をのぼった。
だが、私はこの時気づいていなかった。
今日が12月1日だということを、
つまり、31日間もお姉ちゃんのわがままを聞かなくてはいけないということを。
その事実に気づいたのは、もう少し後の話で、
すぐさま激しい後悔に襲われたのは言うまでもない。
そんな私に向かって、
「笑っちゃうくらい、単純よね。美月は。」
とムカつくくらい綺麗な微笑を浮かべて、読み終えた雑誌の片付けを私に命令した。