IF:ハロウィン
ハロウィンパラレル。本編とは全く関係ありません。東洋も西洋もいろいろごちゃまぜ。
ハロウィン。
その日は俺たちお化けにとって一大行事だ。
かく言う俺は今大財閥主催のハロウィンパーティーに参加している。
というのも俺の大親友である西洋の魔物サキュバスなえだちゃんが主催側の吸血鬼に捕らわれているからだ。
サキュバスたちの噂を聞いて俺はすぐに行動に移した。
だけど、さすがというべきか、吸血鬼に隙はなく、えだちゃんと接触することすらできない。
だが俺も諦めたわけじゃない。
虎視眈々と奴の隙を窺い、今回のパーティーを嗅ぎつけたのだ。
そんなわけで、パーティー会場に潜り込んだ俺は早々にえだちゃんを見つけた。
慌ててえだちゃんに駆け寄る。
「お前も来てたのか」
俺の顔を見るとえだちゃんは嫌そうな顔をした。
よかった、思ってた以上に元気そうだ。
「えだちゃん、無事だったんだ。心配してたんだよ」
「は?」
「誘拐されたっていうから、俺助けようと思って来たんだよ。大丈夫、一緒に逃げよう」
「誘拐?何それ。誘拐とかされてねぇよ」
笑うえだちゃんがいつのまにか隣にいた男に「な?」なんて可愛く首をかしげてみせる。
睨みつける俺に気付いているはずの男は完全無視でえだちゃんだけに微笑してみせる。
女たらしの外見で笑うものだから、えだちゃんも少しだけ見惚れてるようだった。
おい、少し顔が美形だからって調子に乗るなよ。
えだちゃんは性に奔放なサキュバスなのに、性行為が面倒臭くて嫌ってるんだからな。
男の相手は一度もしたことがないんだから、お前を相手にするわけない。
「ぐるるるる」
思わずうなってしまう俺にえだちゃんは気付いて、頬を赤くしながら、こちらを向いた。
やめて、もう俺涙目だから。
「こいつ、猫又の佐藤。で、こっちは吸血鬼のカズ」
これだけの説明で俺は号泣して、その場を立ち去った。
な、名前呼びとか、知り合ってから50年の俺ですらされてないのに…!
うわーん!と泣きながら走る俺を周囲はドン引きした眼で遠巻きに見守る。
うん、その反応、馴れてる。
パーティー会場の人気のない庭の隅に座り込み、ポケットからティッシュをとりだし、鼻をかむ。
ボロボロと零れる涙の雫が地面に落ちる。
それを呆然と見守っていると、肩を叩かれた。
ほっといてほしくて、そのまま無視をしていると、後ろからそっとハンカチを差し出される。
その優しさがささくれ立った俺の心にしみた。
再び号泣した俺はハンカチを受けり、目に押し付ける。
「あ…ああありが、と、ござ……」
後ろを振り向き、潤んだ視界でハンカチの主を見て、背を向けた。
もう一度、ちらりとうしろを見やる。
嗚咽が抑えられなくなった。
なんで日本にこのお方がいるの。
まさか、ハロウィンで浮かれてとか…絶対ない。
「…泣きやんだか」
声を聞いて、びくっ、と耳としっぽが逆立つ。
肩を掴まれ、体を反転させられる。
「まだ、泣いているのか…」
うなだれた俺の顔を覗き込む顔に気が遠くなりかけた。
これ、夢魔の見せる悪夢とかじゃないですよね?
いや、むしろ悪夢であってほしい。
これが現実だとしたら笑えない。
「おい」
「ひゃああああああ!ありがとうございます!お手数をおかけしました!俺のような下賤な下等生物にハンカチをお与えしてくださるあなた様の優しさに感謝いたしますぅぅ!ごめんなさいいいいい!!」
ずしゃーっと地面に土下座して、何度も頭を下げる。
「立て。汚れる」
命令されたとたん立ち上がると、目の前のお方は何を思ったのか、俺の服についた汚れをはらい、涙で汚れた頬をぬぐってくれた。
もちろん、涙は止まらない。
ハンカチはすでに涙でぐしょぐしょだった。
「名前」
「佐藤でっす!」
「そうか」
魔王須藤様はそれをきいて満足そうに頷き、さりげなく俺の耳を触った。
この出会いが俺の不幸の始まりだと気付くのはそのまま須藤様にさらわれて一週間たった後である。