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愛とはどんなものかしら 番外編  作者:
紗幕越しのnottE
3/5

IF:夏祭り

注意!本編とは全く関係ありません。現代パロ。佐藤が男でド変態で、荏田とつきあってます。おそらく、佐藤の夢(願望)です。本編の須藤や南條や他のキャラは存在しないか、出会っていません。何度も言いますが、佐藤が男でド変態です。

 部屋は熱気に包まれていた。

机に置いたコップの中の氷は既に原型を留めていない。

それでも喉の渇きを潤すには十分だった。


「……ぬる」


 夏休みに入って、タイミングを見計らったかのように壊れたクーラーを呪う気力すらおきない。

比較的冷たい床に肌を押し付ける。

トランクス一枚だというのに体が熱い。

これ以上何を脱げと?

冷たい床がだんだん熱に浸食される。

俺は早々に寝転がり、未だ熱に犯されていない床に肌を押し付ける。

暑い。

冷蔵庫の中のガリガリ君を残しておけばよかった。

とりあえず、夕方になれば涼しくなるだろうし、それまでは我慢…。


「うあっ!」


 突然床に転がっていた携帯が震える。

メールを交わすほど親しい相手が片手で数えられる俺は即座にその相手に見当をつけた。

携帯に手を伸ばす。

若干熱を持っている携帯を手に取るとちょうど震えは収まった。

俺はメールを開いた。


『あついしね』


 一瞬何のことかさっぱりわからなかった。

熱で朦朧とした頭がゆっくりと動き出す。

圧、医師ね?


「暑い、死ね?」


 こんな理不尽な八つ当たりをしてくる相手は一人しかいない。

慌てて送信先を見る。


「え、だ、ちゃん!」


 だらけていた体を起こし、床に正座をしてえだちゃんからのメールを何度も読み返す。

えだちゃんから俺にメールが来るなんて、滅多にない。

それだけにテンションが上がり、クーラーもアイスも夏の暑さも一瞬にして消え失せた。

さらにメールには何か画像が添付されていた。

俺は内心ときめきながら、恐る恐る開く。


 次の瞬間、頭が真っ白になって、それから爆発した。


 目は携帯から離れない。

体が硬直し、しばらく何も考えられなかった。

額から汗が零れる。

その汗が目に入り、俺は漸く現世に戻る。

そして再び固まる。

これは一体どういうことなんだろう。

頭の中が携帯の画像に覆い尽くされる。

俺は慌てて鼻に手をやる。

よかった、鼻血は出ていない。

 ほっとするのも束の間、俺は大変なことに気がついた。

トランクス一枚というのがまずかった。

俺の愚息がくっきりと自分を主張していたのである。

最低だ。

落ち込みながらも、男の生理現象だから仕方がないと諦める。

それにしてもえだちゃんからこんなものを送ってくるなんて……誘っているのか?

脳裏で瞬時に「俺を誘うえだちゃん」が浮かび上がる。

最低だとはわかりながらも妄想は止まらない。

ごめん、えだちゃん…


「最低。死ね変態」

「……え?」


 慌てて振り返る。

そこには淫らに誘っていたえだちゃんが汚物を見るような目で、もちろんちゃんと衣服を着て、仁王立ちで立っておられた。


「なっ、ななんで!」

「まずはそれをどうにかしろ」


 心底嫌悪と侮蔑を顔に出したえだちゃんの足で伸ばしていた足を蹴られる。

その拍子に一層固くなった。

最低である。

えだちゃんがすごい顔でこちらを見ている。

もう一度言う。

最低である。


「これは夢だ」


 思いっきり否定してみるが現実からは逃げられない。

俺は興奮を抑えられず、えだちゃんを伺った。


「…あの、まず、一回イっていい?」


 えだちゃん本人がいるからすぐにイける、と頼み込んだら殴られた。

その拍子にイッた。

えだちゃんが蔑んだ目をした。

胸がときめいた。

俺のなんだかわからないレベルが上がった。


「…えっと…何しにきたの?」


 後始末を簡単に済ませ、不機嫌に仏頂面をするえだちゃんを恐る恐る伺う。

常に何かしら余裕が感じられる笑みはなく、余程俺の姿が不愉快だったらしく表情は固い。


「…メール」

「見たよ見た!二十四回見た!何、あの写メ!」


 そう言うと再び脳内でえだちゃんの淫靡な姿が…すいません、だから辞書投げるのだけはやめて!


「思ってること顔に出過ぎ。気持ちわりぃ」

「仮にも彼氏に向かって気持ち悪いって…」

「…後一週間の我慢だ俺」

「えっ!まじで1ヶ月なの?!もっと俺とラブラブを謳歌しようよ!」

「あの時ポーカーで五万もすらなきゃこんな奴なんかと…」


 ひどい言われようである。

でも、えだちゃんが俺のことを彼氏だと認識しているという事実に顔がにやけてしまう。

 一か月前。

学校内の生徒間で秘密裏に行われている闇賭博のポーカーで所持金五千円のえだちゃんが五万円をすった。

えだちゃんは賭け事が大好きなわりに、かなり弱い。

賭け事は運だけでは勝てないし、技術だけでも勝てない。

えだちゃんにはその両方がなかった。

えだちゃんに言わせれば「だからおもしろい」らしいが、俺には勝ちが見えない賭けの何が面白いのかわからない。

だからえだちゃんが賭博に手を染めるのを自重したほうがいいんじゃないかと常々思っていた。

だけど今回だけは話が違った。

五万円をすったえだちゃんがその肩代わりをしてくれる人間に1ヶ月恋人になる権利をポーカーで賭けたのだ。

もちろん俺は即座に参加の意思を示した。

それからは男女問わずの火花散る白熱戦。

まあ俺に言わせればズブの素人がいくら頑張ったところで無駄だけどな。

結果、俺は見事えだちゃんの恋人の座を手に入れたということだ。

その代わり大きな出費もしたが、まあそれはブラックジャックで取り返したからいい。


「ね、えだちゃん。俺達恋人なのに手もつないでないし、キスもその先もしてないよね」

「殺すぞ」

「じゃ、じゃあ、せめて、デートくらいはっ!」


 迫りくる俺の顔を手で押しながら、えだちゃんはため息をついた。


「…だから、メール送ったのに…」

「え?」


 メール?


「それ見て、まさかおったてるとは…」


 えだちゃんの絶対零度の目に冷汗が垂れる。

やっぱり、えだちゃんに見られたのは失敗だった。

でもいいわけさせてもらえれば、俺以外にもえだちゃんで抜いてる奴はいるんだよ。

だから、俺だけが変態みたいな目で見ないで!男はみんな変態なんだから!リアルに傷つく!


「…あれが、デートとどう関係が、あるんでしょうか」


 とりあえず、話題を俺のそらすことにした。

その俺の思惑がえだちゃんにも伝わったのだろう。

えだちゃんは冷たい目はそのままに、話をすすめてくれた。


「祭りの写真だったろ」

「うん。浴衣かわいかったあ」


 少し着崩した赤い浴衣から見える白い柔肌。

その首筋に唇を這わせて、浴衣に手を差し込み、えだちゃんの柔肌を堪能したい。

しかも浴衣を着ながらえだちゃんが舐め…食べていたものがやばかった。

あれで誘ってないというのか?

いやいや、嘘つくなって。


「佐藤」

「すみまっせん!」


 危ない危ない。

自分に都合のいい方に現実を歪曲するところだった。


「…本当は祭りに誘ってたメールだったんだけど、やっぱ止める。お前はせいぜいあの写真見て俺とデートしてる気分でも味わってろ」

「ぅえ?!」


 そう言い残して俺の部屋を出ようとするえだちゃんを必死に止める。


「ちょ、ちょっと、待て!だって、メールでは何も言ってなかったじゃん!あれで気付くほうがどうかと…って違う!そうじゃなくて!なんで?!お祭り行こうよ!そのためにえだちゃんわざわざ迎えにきてくれたんでしょ!」

「でも、俺、変態と一緒にいるのやだ」

「あれは出来心だったんだ!許して!」

「諦めろ」

「俺たち、今つきあってるじゃん!」

「何のこと?」

「今さらしらばっくれないで!ちゃんと契約書も書いたじゃん!俺持ってるから!」

「…こうしよう。8日後に祭りに行こう」

「祭り終わってる!なあ頼む!もう、俺には一週間しか残されてないんだ!えだちゃんの彼氏であるうちに何か思い出を残したいんだよ!」


 えだちゃんの体を後ろから抱きこみ、お腹に手を回す。

俺は荏田より身長が少しだけ高いから、えだちゃんのつむじが間近に見える。

柔らかいえだちゃんの体からは甘い匂いがした。

細い腰に思わずうっとりしてしまう。


「ね?駄目?おごるから」

「離れろ」


 荏田から繰り出された肘が見事腹に決まり、体が崩れ落ちる。

油断していたから身構える暇もなかった。

俺は痛む腹をさすり、冷めた視線を向けるえだちゃんを見上げる。


「ひ、ひど、えだちゃぁん」

「呼吸が荒くて気持ち悪かった」


 下心がばればれだった。

空気が更に重くなるのを感じた。

夏だというのに、どんどん気温が低くなっていく。

俺は耐えきれず、視線を床に落とす。


「ごめん」


 これ以上えだちゃんに嫌われたくなくて零れた謝罪。

えだちゃんは大きなため息をついた。


「……じゃ、帰る」

「…う、ん。気をつけて」


 えだちゃんとお祭り行きたいのは確かだけど、これ以上えだちゃんに無理を言って、嫌われるのは避けたかった。

だから俺は言葉を呑み込み、玄関までえだちゃんを見送った。

玄関は何故か少し気温が低かった。

俺は汗をぬぐいながら、玄関の扉を開け、えだちゃんに微笑んだ。


「今日は来てくれてありがとう」


 えだちゃんが俺の家に来るのはこれが最初で最後かもしれないと思ったら、嬉しさと切なさが入り混じって、胸の中がぐじゃぐじゃにかき乱された。

太陽の光を受け、きらきらと光る汗のしずくがえだちゃんの額からこぼれるのを見た。


「…佐藤」


 扉が閉まる前にえだちゃんがぽつりと呟く。


「金持って、6時に俺の家にこい」


 えだちゃんの体が扉にさえぎられて見えなくなった。

俺の頭はえだちゃんが呟いた言葉をゆっくりと何度も繰り返していた。

いつの間にか、夏の暑さも胸の苦しさも消えていた。

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