表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

作者が設定変更をし過ぎて困っています。<主人公

作者: 伝説の男前
掲載日:2026/07/19

## 一 【作者視点】


 俺の名前は伊佐村徹、三十四歳。会社員兼、Web小説家(志望)。


 今夜も俺は、生成AI「ノベルフォージ」の入力欄に向かっていた。


> **プロンプト:** 王道の異世界転生ファンタジーを書いて。主人公は交通事故で死ぬサラリーマンで、剣と魔法の世界に転生。チートスキル持ち。名前はアレンで。


 AIは三秒で第一話を吐き出した。うん、悪くない。悪くないが……死亡シーンが一行で終わっている。「トラックにはねられ、彼は死んだ」って。あっさりしすぎだろ。ここは読者を泣かせるところだ。


> **プロンプト:** 死亡シーンをもっとドラマチックに。走馬灯も入れて。


 うん、良くなった。でもまだ足りないな。


> **プロンプト:** 雨を降らせて。悲しみの演出として。あと母親との回想シーンを追加。


 いいぞ。ついでに――


> **プロンプト:** 幼少期の回想も追加。初恋の回想も。飼っていた犬との別れも。走馬灯はやり直しがきかない人生の重みを出すため、丁寧に、じっくりと。


 俺は納得のいく死まで、何度でもリテイクを出した。創作とはこだわりだ。


---


## 二 【主人公視点】


 俺はトラックにはねられた。はねられて――**十時間が経過した。**


 まだ死ねない。


 最初の一時間で走馬灯が流れた。なるほどこれが噂の、と思った。二時間目、走馬灯が二周目に入った。三時間目、晴れていた空から突然雨が降り出した。四時間目、なぜか母さんとの回想が挿入された。五時間目、初恋の記憶。六時間目、飼い犬のポチとの別れ。ポチのくだりは正直ちょっと泣いた。だが七時間目、**走馬灯が四周目に入った時点で俺は確信した。誰かが俺の死を引き延ばしている。**


 救急車は来ない。さっきサイレンが聞こえた気がしたのに、音ごと消えた。通行人も来ない。世界には俺とトラックと、降ったり止んだりする演出過多の雨だけがある。


 痛みは、不思議とぼやけていた。多分「読者に不快感を与えない範囲の苦しみ」に調整されている。だがな、十時間は長い。演出じゃなくて拘束だ、これは。


 九時間目、五周目の走馬灯でポチが三回目の死を迎えた頃、俺は雨空に向かって念じた。


(**早く転生させてくれ。** 頼む。走馬灯はもう結構です。人生の重みは十分嚙みしめた。ポチをこれ以上死なせないでやってくれ。<主人公)


 十時間目。ふっ、と世界が暗転した。


 やっと、死ねた。


---


## 三 【作者視点】


 死亡シーン、ついに完成した。原稿用紙換算で八十枚。大作だ。


 ……ん? AIの出力の最後に、変な注意書きが付いている。


> **出力:** ご確認ください。死亡シーンが全体の42%を占めています。転生前の描写がこれ以上長引くと、読者の離脱率が上昇します。また、被害者が転生を要求しています。早期の転生をおすすめします。<AI


 被害者が転生を要求? 演出うまいな、最近のAIは。臨場感ある。


 まあ確かに、そろそろ転生させてやるか。


---


## 四 【主人公視点】


 俺の名前はアレン。……いや、さっき一瞬レイドだった。今はアレンだ。多分。(作者が名前を二回変えた。理由は知らない。)


 転生して三日目にして、俺はこの世界の重大な欠陥に気づいていた。**この世界、設定が安定しない。** まあ、転生前から知ってはいた。死ぬのに十時間かかる世界だ。期待はしていなかった。


「アレン様、朝食の準備が――」


 メイドのマリーが呼びかけた瞬間、視界が白く点滅した。


「――レイド様、朝食の……あら? わたくし、なぜ別のお名前を?」


「気にするな、マリー。それは俺の旧バージョンだ」


 自分で言っていて悲しくなった。前世でシステム開発をやっていた俺には分かる。これは仕様変更だ。それも、影響範囲を一切考慮しないタイプの。


---


## 五 【作者視点】


 第五話まで書けたところで、読み返して気づいた。チートスキル《万象剣帝》、強すぎる。ドラゴンを一撃とか、緊張感が死んでいる。


> **プロンプト:** チートスキルを弱体化して。火魔法はマッチ程度の火力にナーフ。


 AIが律儀に修正稿を出してくる。よし、これで戦闘に緊張感が出るぞ。


 ……あれ? でも第三話でドラゴン倒したの、火魔法一発だったよな。整合性は……まあ、AIがなんとかするだろ。


---


## 六 【主人公視点】


 なんともならなかった。


「アレン殿! 例の火竜がまた村を襲っています! 先日のように一撃で!」


「よし任せろ。《フレイム・エンペラー》ッ!」


 俺の掌から放たれたのは、誕生日ケーキのロウソクほどの炎だった。


「……アレン殿?」


「待って。おかしい。昨日までドラゴン焼けたんだって。マジで。履歴見て」


 火竜がゆっくりと首をこちらに向ける。俺は全力で走った。前世の五十メートル走のタイムは八秒二。この身体能力までナーフされていないことだけが救いだった。


 夜、宿のベッドで俺は天井に向かって叫んだ。


「作者ァァァ! ナーフするなら過去に遡って適用するな! せめてパッチノートを出せ! あと死亡シーン十時間の件、まだ許してないからな!」


---


## 七 【作者視点】


 SNSでトレンドを調べたら、今は正統派エルフヒロインより「竜娘」らしい。


> **プロンプト:** ヒロインのエリーゼをエルフから竜人族に変更。角と尻尾あり。あと性格もクーデレに。


 三秒で修正完了。AIは文句ひとつ言わない。便利な時代になったもんだ。


 あ、そういえば舞台も中世ヨーロッパ風って古いかな。異世界×和風、ありかも。


> **プロンプト:** 舞台を和風ファンタジーに変更。王都は「京」、ギルドは「番所」で。


---


## 八 【主人公視点】


 朝、目が覚めると天蓋付きベッドが布団になっていた。石造りの宿は木造の旅籠になり、窓の外には石畳の代わりに桜並木が広がっていた。七月なのに満開だった。作者、桜の開花時期を調べていないな?


「おはよう……アレン。べ、別にあなたを起こしに来たわけではないのだからな」


 振り向くと、幼馴染のエリーゼが立っていた。昨日まで金髪のエルフだった彼女の頭には立派な角が生え、背後では尻尾が所在なさげに揺れている。しかも着物姿だ。情報量が多い。


「エリーゼ、その、色々変わったな」


「? わたしは昔からこうだが……なぜか懐かしい耳の幻痛がある」


 彼女は自分の丸い耳にそっと触れた。おい作者、キャラの記憶に不整合が出ているぞ。設定変更するならキャッシュまで綺麗にクリアしろ。


 番所(昨日までギルドだった)に行くと、受付嬢が「本日の討伐依頼はこちらの巻物にて」と言ってきた。依頼書が巻物になっただけで、内容は「ゴブリン10体討伐」のままだった。和風世界にゴブリンがいるのか。鬼にしろよ、そこは。


---


## 九 【作者視点】


 おかしい。最近、AIの出力に変な文章が混ざる。


> **出力:** アレンは刀を構えた。(作者へ。この刀、昨日まで西洋剣だった影響で鞘に入りません。装備設定を確認してください。<主人公)


 ……なんだこれ。AIのバグか? 主人公が地の文に混ざってくるんだが。


 ……いや、待て。そういえばプロローグでも見た気がする。「早く転生させてくれ」ってやつ。あれ、演出じゃなかったのか?


> **プロンプト:** 主人公が第四の壁を越えてくるので修正して。


> **出力:** 修正しました。なお、原因は設定変更の頻度である可能性があります。直近の変更履歴:死亡シーン延長9回、主人公名2回、スキル弱体化1回、ヒロイン種族変更1回、世界観総入れ替え1回。物語の構造的整合性が閾値を下回っています。設定変更の頻度を減らすことをおすすめします。<AI


 AIに説教された。生まれて初めてだ。しかも死亡シーンの件、しっかりカウントされていた。九回もリテイクしてたのか、俺。


---


## 十 【主人公視点】


 やった。届いた。


 地の文への書き込み――前世のシステム屋魂で見つけた、この世界の「例外処理」だ。世界の整合性が壊れかけているせいで、俺の抗議がログとして作者側に流れるらしい。思えば最初にこれが通じたのは、あの十時間の路上だった。人間、追い詰められると新機能を開拓するものだ。


 俺は目を閉じ、精神を集中して、世界の外へ向けて念を送った。


(作者へ。要望を四点にまとめました。一、設定変更は週一回まで。二、変更時は世界内の全キャラに整合性パッチを適用すること。三、今後俺が死ぬ展開になっても、死亡シーンは十分以内に収めること。四、エリーゼの耳の幻痛を治してやってください。彼女、夜中にこっそり泣いています。<主人公)


 最後のは要望というよりお願いだった。彼女はエルフだった頃の記憶を持っていないのに、失ったものの形だけを覚えている。設定変更とは、そういう残酷なものだと作者は知るべきだ。


---


## 十一 【作者視点】


 画面に流れてきた「主人公からの要望」を、俺は何度も読み返した。


 エリーゼ、泣いてるのか。……俺が角を生やしたせいで。


 いや違う、これはAIの演出だ。キャラが勝手に泣くわけがない。ないんだが……なんだろう、この罪悪感は。三番目の要望に至っては、完全に実体験からの改善提案じゃないか。


 俺は少し考えて、プロンプトを打った。


> **プロンプト:** 設定を確定します。以後、大きな変更はしません。エリーゼの幻痛は「前世(エルフだった世界線)の記憶」という正式設定に昇格。それは欠陥ではなく、彼女だけが二つの世界を覚えているという物語の鍵にしてください。あと、死亡シーンは今後十分以内で。


> **出力:** 承知しました。良い判断だと思います。<AI


 AIにまで山括弧をつけられた。この書式、感染するのか。


 最後に、投稿前のタイトル欄を確認した。俺が付けたタイトルは「転生剣帝の異世界無双」だったはずだ。だが、そこにはこう表示されていた。


 **『作者が設定変更をし過ぎて困っています。<主人公』**


 ……書き換えられている。例外処理、タイトル欄まで届くのかよ。


 修正しようとカーソルを合わせて、少し迷って、やめた。正直、こっちのほうが面白そうだ。俺はそのまま投稿ボタンを押した。


---


## 十二 【主人公視点】


 世界が、安定した。


 桜は散るべき時に散り、俺の火魔法は「強いが無敵ではない」という絶妙な調整に落ち着き、エリーゼは自分の幻痛の意味を知って、少しだけ泣いて、それから笑った。


「アレン。わたし、覚えていたかったのだと思う。ぜんぶ変わっても、変わらなかったものがあるから」


「そうだな」


 お前が俺の幼馴染であることは、どのバージョンでも変わらなかった。それは多分、作者のこだわりじゃなくて、ただの初期設定の生き残りなんだろうけど――まあ、いい。世界の由来がプロンプトでも、ここで生きているのは俺たちだ。


 その夜、世界の外から奇妙な念が流れ込んできた。読者の「感想」というものらしい。


『タイトルで笑った。主人公がんばれ』

『冒頭の死亡シーン十時間は草。ポチ三回死ぬな』

『作者、主人公の言うこと聞いてえらい』

『エリーゼの二つの世界の記憶、設定として天才では?』


 ……天才では? じゃないんだよ。あれは事故だ。事故の供養だ。あと死亡シーンを笑うな。当事者は必死だったんだ。主にポチが。


 でも、悪い気はしなかった。俺は布団に潜り込み、目を閉じた。


 その夜、夢の中で、空から金貨が一枚降ってきた。表には「¥500」と刻まれていた。この世界の通貨単位は円ではない。


 ……嫌な予感がした。


---


## 十三 【作者視点】


 朝起きたら、日間ランキング一位になっていた。総合一位だ。噓だろ。


 しかも投稿サイトから通知が来ている。


> **【お知らせ】** 本作品は人気急上昇のため「応援課金機能」が有効化されました。読者からの応援は作者収益に反映されます。


 スパチャだ。小説にスパチャが飛ぶ時代になったのか。画面の隅で、課金カウンターがすごい勢いで回っている。¥500、¥1,220、¥8,900――え、月給超えるんだが?


 感想欄も尋常じゃない。もはや感想というより、実況スレだ。


『【悲報】主人公さん、また作者に説教』

『ここすき>「それは俺の旧バージョンだ」』

『次の鬼討伐楽しみすぎる。仕事が手につかない』


 浮かれていたら、AIから警告が届いた。


> **出力:** 警告。読者の応援エネルギーが閾値を超え、作品世界に流入し始めています。応援課金は世界内で通貨および魔力として実体化します。これは仕様外の現象です。なお、当方にも止められません。読者とはそういうものです。<AI


 仕様外って、お前が言うのか。


---


## 十四 【主人公視点】


 鬼討伐の当日、京の空が割れた。


 現れたのは、体長五十メートルの大鬼。討伐依頼書には「鬼10体」とあったが、どう見ても一体で百体分ある。作者、スケール感を「盛れ」とだけ指示したな?


 絶望しかけたその時――**空に文字が流れ始めた。**


『きたああああああ』

『大鬼キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』

『wwwwwwwww』

『主人公がんばれ』

『エリーゼちゃんを守れ』


 横スクロールで空を埋め尽くす弾幕。読者の声だ。世界の整合性が緩みきったせいで、ついに感想が世界内に表示されるようになったらしい。掲示板のテロップが天体現象になっている。


「アレン、空が、文字で……!」


「気にするなエリーゼ。あれは応援だ。たぶん」


 次の瞬間、空から金色の光の板が降ってきた。


> **¥10,000 法律ニキ:** 『ちょっと待った。第五話の遡及ナーフについて申し上げる。近代法の大原則「法の不遡及」に照らし、過去に取得した能力を事後の変更で奪うことは許されない。よって《万象剣帝》の弱体化は**無効**である。以上、閉廷』


 赤スパで法律論をぶつけてくる読者がいた。だが――世界が、揺れた。整合性の緩んだこの世界は、筋の通った理屈に弱い。ナーフが、**巻き戻る。**


 掌に、懐かしい熱が戻ってきた。《万象剣帝》、完全復活。


『法律ニキ有能すぎるwww』

『閉廷で草』

『この世界、正論が通ると物理法則が変わるのか……』


 大鬼が咆哮する。すかさず、青いスパチャが降ってきた。


> **¥5,000 怪獣マニア:** 『落ち着いて聞け。この体型と背びれの発光パターンは典型的な第二形態持ちだ。変身中は無敵時間があるから手を出すな。狙うは尻尾の付け根、あそこが動力器官だ。あと熱線を吐く前は背びれが青く光る。走れ』


「詳しすぎるだろ! 助かるけど!」


 言われた通り、大鬼の背中が青く光った瞬間に横へ跳んだ。直後、さっきまで俺がいた場所を熱線が薙ぎ払う。怪獣マニア、命の恩人だ。


 そして三枚目のスパチャが、なぜか高座の座布団の形で降ってきた。


> **¥3,000 落語家:** 『えー、鬼てえものは昔から気が短けえ。てんで昔、鬼に説教した坊さんがございまして。「お前さん、角が二本あるが悩みも二本かい」なんてぇことを言う。――ようよう、主人公さん、噺にはね、**間**てえもんが大事だ。鬼が振りかぶった、その半歩あとに踏み込みな。ほい、**座布団一枚!**』


 ぽん、と空中に座布団が実体化した。続いて二枚、三枚、十枚――読者たちが面白がって「座布団一枚」を連打するたび、座布団が積み上がっていく。


『座布団一枚』

『座布団一枚』

『山田くーん、全部持ってきて』


 積み上がった座布団は、大鬼の頭上へ届く階段になっていた。……使えってことだな?


「エリーゼ、下がってろ。――いや、見ててくれ」


 俺は座布団の階段を駆け上がった。落語家の言う「間」で、大鬼の拳の半歩あとに懐へ踏み込み、最上段から跳ぶ。眼下で弾幕が滝のように流れる。


「復活のナーフ解除、無敵時間の回避、そして間の極意――全部乗せだ。《万象剣帝・改》ッ!」


 一閃。


 大鬼は、第二形態になる暇もなく両断された。怪獣マニアが『第二形態見たかった……』と嘆いていたが、知らん。こっちは命がけだ。


 空が、金色に染まった。


『8888888888』

『8888888888888888』

『¥50,000 匿名:主人公とエリーゼちゃんの結婚式代の足しに』


「気が早いんだよ!」


 叫んだ俺の隣で、エリーゼの尻尾が、ぱたぱたと嬉しそうに揺れていた。


---


## 十五 【作者視点】


 俺は今、何もしていない。プロンプトを一行も打っていない。


 なのに物語は最高潮に盛り上がり、課金カウンターは会社の年収を追い越し、感想欄では法律ニキと怪獣マニアと落語家がなぜか固定ファンつきの人気者になっている。


> **出力:** ご報告。本作品の執筆権限の実効比率は現在、作者40%、読者35%、主人公25%です。作者様におかれましては、多数派のうちに大事な設定を確定させることをおすすめします。<AI


「俺の作品、俺のシェア四割しかないの?」


 思わず声に出た。でも、不思議と悪い気はしなかった。俺一人が設定をこねくり回していた頃より、この世界はずっと生き生きしている。


 会社、辞めようかな。専業作家として――


> **出力:** (作者へ。辞めるな。無職になった作者に書かれる世界ほど不安定なものはない。生活の安定は設定の安定。兼業を続けてください。<主人公)


 主人公に人生設計まで説教された。生まれて初めてだ。


---


## 十六 【作者視点】


 総合一位。収益は月給の三倍。人間、調子に乗るとどうなるか。**二章の構想を練り始めるのだ。**


> **プロンプト:** 第二章開始。魔王軍が復活し、四天王を派遣。最後はラスボスの魔王と最終決戦。テンプレ全部盛りで。テンプレは様式美です。


> **出力:** 承知しました。ただし警告します。本作の読者はメタ耐性が異常に発達しています。テンプレの過剰摂取は、抗体反応を引き起こす恐れがあります。<AI


 抗体反応ってなんだよ。読者はな、四天王が出れば喜ぶんだよ。伝統だぞ。


 ――三日後、AIの言った意味が分かった。感想欄で、読者たちが共同編集を始めたのだ。その名も、


 **『創作テンプレ・アンチテンプレ辞典』メタ部門・厳選四十選。**


 テンプレの一つ一つに「一番きついメタツッコミ」を添えた対訳辞典。法律ニキが監修し、怪獣マニアが用例を採集し、落語家が語呂を整えた、恐るべき共同著作物だった。項目1「主人公補正――お前だけ死亡フラグが当たらないのは契約でもあるのか?」から始まって、40番まで隙がない。


> **出力:** 警告。辞典の編集熱量が臨界を超えました。実体化します。**メタは、物理になります。**<AI


 だから仕様外を通すなと言っているだろ。


---


## 十七 【主人公視点】


 空から本が降ってきた。広辞苑ほどの厚さの魔導書だ。受け止めた腕が痺れた。表紙にはこうある。


 **『創作テンプレ・アンチテンプレ辞典 メタ部門・厳選四十選 編:読者一同』**


 ぱらぱらとめくって、俺は戦慄した。これは武器だ。整合性の緩んだこの世界では、筋の通ったツッコミは物理法則を上書きする。つまりこの辞典は、**テンプレを撃ち抜く四十発の弾倉**だ。


 そして案の定、翌朝。京の郊外に魔王軍が布陣していた。一夜でだ。


「魔王軍って先月滅んだって聞いたぞ。**人材の補充が早すぎるだろ。**」(辞典・項目20)


 軍勢の前に、四人の影が進み出た。


「我ら、魔王軍四天王!」


 俺は辞典を開いた。項目19。


「**毎回四人なのは人事部の都合か?**」


「なっ……!」四天王の一人、氷のヴァルゼが動揺した。「じ、実は五人目がいる……経理のモルダーが……現場に出たがらんのだ……」


「内情を吐くな氷将!」


 動揺したまま、炎のガルドが一人で斬りかかってきた。項目2。


「**全員で行けば5秒で終わるよな?**」


「た、確かに……! 総員、かかれェ!」


 四人が同時に来た。だが連携の訓練を一度もしていない四人が同時に来ると、どうなるか。互いの武器が絡まり、氷が炎を消し、雷が水に落ちた。自滅である。日頃から一人ずつ戦っていたツケだ。


「くっ……ならば奥義だ! 喰らえ、《絶対氷牢・千年氷結》――」


「**技名を教えてくれる敵に優しい世界だな。**」(項目4)


 詠唱が恥ずかしくなったのか、ヴァルゼの技は不発に終わった。空の弾幕が『四天王かわいそうwww』『経理のモルダー気になる』と流れていく。


 ――そして、本陣の闇が裂け、魔王が現れた。


「よくぞ来た、転生者よ。我が名は魔王ゼノヴィス。千年前、勇者との戦いに敗れし我は、封印の中で考えた。人間とは何か。憎しみとは何か。時は遡ること千年、あれは星の巡りが――」


「**その説明、戦い終わってからでよくない?**」(項目3)


「……ぬ」


「あと千年の回想も要らない。**お前の記憶を待つ義務はない。**」(項目5)


「貴様ァ! ならば見せてやろう、我が真の姿を! 第二形態ァァ――」


「**その姿、最初から出せ。**」(項目33)


 変身が、途中でキャンセルされた。理屈が通ってしまったからだ。空で怪獣マニアの『第二形態、また見れないのか……』という悲痛なスパチャが流れた。すまん。こっちは命がけなんだ。


「おのれ……ならば、時よ止まれ!」


 世界が灰色になった。時間停止。だが俺の口は動いた。


「**止まってるのに会話できるのはなぜだ?**」(項目34)


 矛盾を突かれた時間が、音を立てて動き出した。


「ば、馬鹿な……」魔王が後ずさる。そして、その目が俺の手元の辞典に留まった。「……なるほど。その書物か。ならば!」


 魔王の影が伸び、辞典が奪われた。しまった。**この武器、敵にも使える。**


「ふはは! どれ……項目1、主人公補正。**『お前だけ死亡フラグが当たらないのは契約でもあるのか?』**」


 ぞわり、と体から何かが剝がれた。主人公補正が、切れた。


「続けて項目10、ご都合主義。**『便利な設定が毎回生えてくる』**――すなわち、空から降る金色の応援とやらも封じさせてもらう! 項目6、覚醒もだ。**『ピンチになるまで本気を出さない縛り』**は禁止! 項目8、**仲間がギリギリ到着するのも禁止だ!**」


 空のスパチャが、灰色に変わって落ちてこなくなった。覚醒の熱も来ない。援軍も来ない。補正なしの生身で、俺は魔王の一撃をかろうじて転がって避けた。痛い。補正がないと避けるだけで痛い。


 ――だが。


「アレン、伏せて」


 横合いから氷柱が飛び、魔王の腕を撃った。エリーゼだ。


「ば、馬鹿な! 仲間のギリギリ到着は禁じたはず……!」


「**ギリギリじゃないからな。** こいつは最初からいた。朝から二人で来たんだ。ドラマチックじゃなくて悪かったな、**遅刻しない仲間は禁止できないんだよ。**」(項目8・裏取り)


 そして空に、赤い光が戻り始めた。法律ニキだ。


> **¥10,000 法律ニキ:** 『魔王殿に申し上げる。スパチャは民法上の**贈与**であり、「生えてくる便利な設定」ではない。対価なき読者の愛である。よってご都合主義(項目10)には該当しない。**適用却下。以上、閉廷。**』


 金色の光が、雨のように降り注いだ。買ったばかりの補正よりあたたかい、六十パーセントぶんの応援だった。


「おのれ、おのれ……! ならば最後の頁だ! 項目40! **『その世界で一番強いのは作者』**! 我はすでに作者の書いたラスボス! 作者が最強である限り、その設定を継ぐ我が最強――」


 空に、事務的なテロップが流れた。


> **出力:** 訂正します。本作品の執筆権限は現在、**作者40%、読者35%、主人公25%**です。「その世界で一番強いのは作者」は過去の版の記述であり、現行版では過半数を制する**読者・主人公連合(60%)**が最強です。<AI


「AIのファクトチェック入ったぞ、魔王。**この世界で一番強いのは、もう作者じゃない。読んでる奴らと、生きてる俺たちだ。**」


 落語家の座布団が積み上がる。怪獣マニアの『動力器官は左胸の結晶だ、変身キャンセルで露出してる!』が刺さる。落語家の『振りかぶった半歩あと! ほい、間ァ!』が響く。


「《万象剣帝・改》ッ!」


 一閃。魔王は両断され、ゆっくりと崩れ落ちた。俺は念のため三回、死亡を確認した。**死亡確認した奴が免許返納を迫られる世界**だからな(項目11)。蘇生も見なかった。教会が「蘇生は有料です」と言い出す前に(項目25)、魔王は自分から成仏を選んだ。


 最期に魔王は呟いた。


「余は……世界を征服したかっただけなのだ……」


「**征服後の維持費、計算したことあるか?**」(項目32)


「……していない」


「していました」進み出たのは経理のモルダーだった。五人目の四天王は、分厚い帳簿を開いた。「試算によると初年度から大幅な赤字です。占領地のインフラ維持だけで軍事費の四倍。魔王様、征服はやめて観光業にしましょう」


 魔王軍は後日、京の観光協会と業務提携した。四天王は交代制の門番として再雇用され、一人ずつ立っている。あいつらはやはり、一人ずつが性に合っているらしい。


---


## 十八 【主人公視点】


 祝勝会の夜。旅籠の宴会場で、エリーゼが徳利を傾けながら訊いてきた。


「アレン。空の文字の人たちは、結局なんだったのだ?」


「ご近所さんみたいなもんだ。ちょっと壁が薄くてな」


 空では今夜も、まばらに弾幕が流れている。落語家が今日の戦いを一席の噺にまとめていた。サゲはこうだ。


『――てなわけで魔王は真っ二つ、四天王は門番、経理は観光協会。村の衆が主人公に訊ねます。「あんた、なんでそんなに強えんだ」「なに、作者がくれた力さ」「へえ、じゃあその作者ってのは、さぞ立派なお人なんだろうねえ」「いんや」――**「設定変更をし過ぎて、困ってるよ」**』


『山田くん、座布団全部あげて』

『タイトル回収で草』

『8888888』

『で、これ最終回? **伏線の回収率、赤点です**』

『経理のモルダーの過去とか、エルフ世界線とか、**問題を次回作に先送りしただけ**では?』


 辞典の項目38と39を実戦投入するな。読者が編んだ辞典が読者に刺さってるじゃないか。安心しろ、続編はあるらしい。作者の口座と、俺の胃が許す限りな。


 うまいこと言いやがって。俺は杯を掲げ、空に向かって、最後の一行を書き残した。


 ――お後がよろしいようで。<主人公


---


**〈了〉**


---


## 巻末付録 『創作テンプレ・アンチテンプレ辞典』メタ部門・厳選四十選


**編:読者一同(監修・法律ニキ/用例採集・怪獣マニア/語呂調整・落語家)**

※本書は作中世界に実体化済み。広辞苑級の厚さのため、鈍器としても有用。音読すると効果範囲内のテンプレが破壊されるので取り扱い注意。敵の手に渡すな(一敗)。


| # | テンプレ | 一番きついメタツッコミ・アンチテンプレ |

|---|---|---|

| 1 | 主人公補正 | 「お前だけ死亡フラグが当たらないのは契約でもあるのか?」 |

| 2 | 敵が一人ずつ戦う | 「全員で行けば5秒で終わるよな?」 |

| 3 | ラスボスの長話 | 「その説明、戦い終わってからでよくない?」 |

| 4 | 必殺技を叫ぶ | 「技名を教えてくれる敵に優しい世界。」 |

| 5 | 回想シーン | 「お前の記憶を待つ義務はない。」 |

| 6 | 覚醒 | 「ピンチになるまで本気を出さない縛り?」 |

| 7 | 修行 | 「今まで何してた?」 |

| 8 | 仲間がギリギリ到着 | 「全員、時間を合わせて遅刻してる。」 |

| 9 | 偶然の連続 | 「偶然じゃなくて脚本だろ。」 |

| 10 | ご都合主義 | 「便利な設定が毎回生えてくる。」 |

| 11 | 死んだはずが生存 | 「死亡確認した奴、免許返納しろ。」 |

| 12 | 記憶喪失 | 「困ったら記憶を消すな。」 |

| 13 | トラック転生 | 「運送会社が異世界への入口になってる。」 |

| 14 | ステータス画面 | 「個人情報保護法は異世界にないのか。」 |

| 15 | ハーレム | 「恋愛じゃなくて人口密度。」 |

| 16 | 主人公だけ鈍感 | 「IQだけ作者に没収されてる。」 |

| 17 | ツンデレ | 「暴行罪を恋愛イベント扱いするな。」 |

| 18 | 敵が逃がす | 「毎回見逃すから毎回負ける。」 |

| 19 | 四天王 | 「毎回四人なのは人事部の都合?」 |

| 20 | 魔王軍 | 「人材の補充が早すぎる。」 |

| 21 | レベルアップ | 「昨日まで素人だったよな。」 |

| 22 | 宝箱 | 「誰が補充してるんだ。」 |

| 23 | ダンジョン | 「建築確認申請どこ通した?」 |

| 24 | 宿屋で全回復 | 「医学を全否定。」 |

| 25 | 教会で蘇生 | 「死が有料サービス。」 |

| 26 | 告白が邪魔される | 「邪魔役のタイミング精度だけ世界一。」 |

| 27 | 花火で聞こえない | 「一歩前に出れば済む話。」 |

| 28 | 温泉回 | 「視聴率対策が露骨。」 |

| 29 | 水着回 | 「物語が泳ぎ始めた。」 |

| 30 | 学園祭 | 「授業よりイベント多くない?」 |

| 31 | 生徒会最強 | 「学校なのに国家権力。」 |

| 32 | 世界征服 | 「維持費を計算したことある?」 |

| 33 | ラスボス第二形態 | 「その姿、最初から出せ。」 |

| 34 | 時間停止 | 「止まってるのに会話できるの?」 |

| 35 | 巨大ロボ | 「格納庫どうやって建てた。」 |

| 36 | AI暴走 | 「まず利用規約を読ませろ。」 |

| 37 | 主人公モテモテ | 「恋愛じゃなくて主人公税の還元。」 |

| 38 | エンディング | 「問題を次回作に先送りしただけ。」 |

| 39 | 最終回 | 「伏線の回収率、赤点です。」 |

| 40 | 作者の都合 | 「その世界で一番強いのは作者。」 |


**編者注(法律ニキ):** 項目13はアレン氏より抗議あり。「運送会社が入口なのは認めるが、通関に十時間かかったのは作者の演出過剰のせいであり、運送会社に過失はない」とのこと。記録しておく。閉廷。


**編者注(怪獣マニア):** 項目33の適用により、本作では第二形態が二連続で観測不能となった。学術的損失である。第三章では変身の完遂を強く希望する。


**編者注(落語家):** 項目40は現行版では効かない。なにせこの世界、一番強いのは「読んでるお前さんたち」だ。――お後がよろしいようで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ