雨上がりの帰り道
(ああ、大丈夫だと思ったけど。やっぱり降ってきた。ああ、傘を持ってくるんだったな)
内心でそう毒づきながら、僕は学校からの帰り道を走っていた。
今日は図書室で自習をしていたのだが、先生に手伝いを頼まれて、帰りが思ってたより遅くなってしまった。空模様が怪しくなってきた時には、嫌な予感がしたが顔に雨粒が当たった時に、その予感は的中してしまった。
それから、走っているのだが学校から家まで30分もかからない位だ。今は、公園をショートカットしているからもっと早く帰れる計算だったが、一瞬空が光ったと思ったら、重く低い音が体を叩いた。
その音を聞いた時に、一瞬体が竦み、反射的に公園に設置してある遊具の下に潜り込んでいた。
「ああ、びっくりした~落ちたか?結構近かった気がするけど?」
思わずそう口にする。
「あ~あ服ビショビショ。鞄と中身は無事っと。けど、どうしよっかな?」
僕は、言葉にしながら状況を確認して、一息ついて乱れた呼吸を整える。走っている時は感じないようしていた濡れた服の不快感を感じる。
「タオルは無いし。ハンカチはないよりはましか・・・」
僕は遊具の下で、濡れた顔と眼鏡をハンカチで拭いて頭や肩についた水分をハンカチではたくように落とした。まだ少し濡れているが、あのままよりはマシだった。
改めて、遊具を見回す。
「懐かしいな…」
思わず言葉が漏れる。僕が雨宿りしている遊具は、コンクリート製で山の形をしており、斜面は滑り台や、登れるように突起物がついていた。そして、中が空洞でもっと小さい時は洞窟探検みたいでワクワクしていたのを覚えている。
「…っと。そうだ、スマホで天気確認しよっと」
鞄の中から、スマホを取り出した。いつも通りの認証、慣れた手つきで操作して時間の雨雲レーダーを見る。
スマホの画面には雨を示す青いマークが徐々に東へ移動していく様子が映っていた。
「……あ~まあ。2~30分で弱まるかな?……まあ、ちょっとはここで雨宿りしていくか」
そう結論づけて、僕は濡れた上着を脱いで先ほど手の届かなかった背中側の水分を取るように服を叩いた。
パン。パン。と小気味いい音が、僕しかいない空間に響く。
その時、ニャーっと猫の鳴き声が聞こえた。
「えっ」
思わず、声が漏れる。周りを見渡すと、壁際の光のささない位部分に金色の瞳が浮かんでいた。
そこに居たのは、真っ黒な毛並みをした一匹の猫だった。
目が慣れてきて、改めて見つめなおす。
「うわぁ……」
思わず、声が漏れた。
恐らく野良猫だろうけど、すこし濡れた黒い毛並が艶やかで、瞳は金色に輝いて、伏せている姿は気品すら感じられた。
その姿に見惚れていると、猫がニャーと一鳴きした。金色の瞳と視線が合う。それは、数分にも感じられた。猫が興味をなくした様に、スッと視線を外し毛繕いを始めた。
「……いいなぁ」
羨望の言葉が漏れる。自由で気の向くまま、何があっても自分本位に行動する。そんな猫の姿が、僕は好きだった。
気づけば、猫の方に足が動いていた。じゃりっと地面をこする音が遊具内に響く。黒猫の体が一瞬で立ち上がり頭を低くし、警戒するように見てきた。
僕は、動きを止めて。ゆっくりと、少しずつ距離をとった。壁に体重を預け、けど視線は外さずに静かに座る。
こちらの、意図が伝わったのか、それとも興味をなくしたのか、猫はまた伏せて毛繕いを再開した。
(ああ、やっぱり良いな……)
口にせず、頭の中で思う。
雨は、まだ止まない。
僕は、雨音に耳を傾けながら猫を見る。猫は毛繕いが、終わったのか丸まったまま僕を見る。
数秒見つめ合い、猫の方が視線を反らし欠伸をする。
(……ずっと、見てくる変な奴とでも思ってるのかな、それとも、そこら辺の石と同じみたいに思ってるのかな、それとも……)
じっと見てると、確かめようの無い事も想像してしまう。
猫と僕だけが居る。ここだけ、音が遠い気がした。
(何て、中二病過ぎるかな)
僕に興味が無くなったのか、目を閉じて寝入っているように見えた。
気づけば腰を浮かしていたけど、また猫と目が合い腰を下ろす。
(まあ、野良猫がそんな簡単に警戒は解かないよね)
猫から視線を切って外を見るが、雨はまだ降っていた。
(そうだよな、君も雨宿りしてるんだよね)
そう思うと、そのまま壁に体重を預けた。
だから、無理に近づくのは辞めてゆっくりと雨宿りしていこう。
時間が、何時もよりゆっくりと流れている気がする。
僕と猫しかいない世界が、しばらく続いた。数分だった気もするけど、何時間にも感じられた。
猫は、変わらずに丸まっていた。もう、僕は猫に近づこうとは思わなかった。
猫が不意に、顔上げこちらを見た。ニャーと僕に向かって何かを伝えるように鳴き、立ち上がると外に飛び出していった。
「あっ、外は……」
雨が降っていると思い、言葉が漏れる。
が、雨はいつも間にか止んでいた。
遊具の外に出ると雨は上がり、曇天模様の空は茜色に染まり日が落ち始めていた。
「雨……上がってたんだ……」
夕日照らされた猫は、ニャーと僕に別れを告げるように鳴いて。公園から立ち去っていった。その姿に迷いはなく清々しくあった。
「……うーん、僕も帰ろうかな」
一度伸びをして、猫が立ち去った方に視線を向けて家路についた。
読了、感謝です。




