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ボランティア部で行った幼稚園で「お嫁さんになる!」って言ってきた三人の女の子たちが、二か月後に同い年になって戻ってきた件  作者: きたみ詩亜


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第1話「ゆうにいと、三人の約束」

---


 俺──益田勇斗がボランティア部に入った理由は、正直、深いものじゃなかった。


 部活に入らないと怒られるし、運動部はきつそうだし、文化部は合わなさそうだった。

 担任に勧められたのが、地域施設への訪問をするボランティア部だった。


 その活動の一つが、近所の幼稚園での読み聞かせ会。


 最初は緊張した。

 小さな椅子。

 落ち着きのない子どもたち。

 絵本を開く前から走り回る園児。


(……向いてないかも)


 そう思いながら絵本を開いた、そのときだった。


「ゆうにい!」


 一番前に座っていた、小さな女の子が手を挙げた。


 茶色のおかっぱ頭。

 丸い目。

 名札には「さくらば・ひな」と書いてある。


 その隣には、黒髪で無表情な女の子。

 さらに隣には、体を揺らし続けている落ち着きのない子。


 名札は、

「しらいし・しずく」

「ほしの・みな」


 三人は、なぜか最初から俺の近くに集まっていた。


 読み聞かせが始まると、ひなは絵を指さして話に入ってくる。

 しずくは無言でページをめくるタイミングを見ている。

 みなは、結末がわかると先に言ってしまう。


「みな、だめー」

「……しー」


 そのやり取りが、少しずつ楽しくなった。


 読み終わると、三人は必ず寄ってくる。


「ゆうにい、またくる?」

「……また、よんで」

「つぎはなに?」


 それが、当たり前になった。


 週に二回。

 俺が来る日は、三人は必ず最前列に座る。


 保育士さんに言われたことがある。


「益田くん、あの子たち、あなたがくる日、すっごく元気なんですよ」


 少しだけ、誇らしかった。


 読み聞かせの後は、園庭で遊ぶのが恒例になった。


 ブランコ。

 すべり台。

 砂場。


 ひなは俺の服を掴んで歩き、

 しずくは無言で手を差し出し、

 みなは全力で走り回る。


「ゆうにい、あしたもくる?」

「また来るよ」


 約束なんてしたつもりはなかった。

 でも、そう答えると、三人は笑った。


 ある日、園庭で休憩していたときだった。


 ひなが、急に俺の前に立った。


「あたし、ゆうにいの、およめさんになるー!」


 砂場から、みなが振り向く。


「あたしもー!」


 しずくも、俺の服の裾を掴んで、小さく言った。


「……しずくも」


 俺は苦笑いした。


「ま、まぁ……おっきくなったらな……」


 軽い気持ちだった。

 その場を和ませるための、適当な返事だった。


 でも、三人は本気の顔でうなずいた。


「やくそく!」

「ぜったい!」

「……まもる」


 胸の奥が、少しだけざわついた。


 その日も、いつも通り読み聞かせをして、園庭で遊んだ。


 夕方。

 迎えの時間。


 保育士さんが名前を呼ぶ。


「桜庭ひなちゃん」

「白石しずくちゃん」

「星野みなちゃん」


 ……来ない。


 もう一度、呼ぶ。


 それでも、来ない。


「おかしいですね……」


 園の空気が、急に冷たくなった。


 俺は落ち着かなくなって言った。


「家、近いですよね。見てきます」


 走った。


 一軒目。

 灯りが消えていた。


 二軒目。

 鍵がかかっている。


 三軒目。

 郵便受けがいっぱいだった。


 どの家にも、人の気配がなかった。


(……なんだよ、これ)


 その夜、警察が来た。


 パトカーの赤い光が、住宅街を照らした。


 ニュースになった。


『幼稚園児三名、行方不明』


 翌日。

 幼稚園は騒然とした。


 三人の席は、空いたまま。


 読み聞かせをしても、

 最前列はぽっかり空いている。


 誰も「ゆうにい」と呼ばない。


(俺が……あのとき……)


 意味のない後悔ばかりが頭を回った。


---


 それから、二ヶ月。


 季節が少し変わった頃だった。


 放課後。

 校門を出たときだった。


「……勇にい」


 その呼び方で、足が止まった。


 振り向くと、

 そこには同い年くらいの少女が三人立っていた。


 ひな。

 しずく。

 みな。


 顔は、あの頃のままだった。

 ただ、背が伸び、

 幼稚園児とは思えない──胸元や、

 体つきが、子どもじゃない姿になっていた。


「……なんで……」


 声が震えた。


 ひなが、少し照れたように言う。


「あたしたちね」


 みなが、笑って続ける。


「勇にいのお嫁さんになるために、」


 しずくが、はっきり言った。


「……おっきくなって、戻ってきたよ」


 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。


 あの日の言葉が、はっきりと蘇る。


『おっきくなったらな』


 ――俺が言った。


 冗談だった。

 軽い言葉だった。


 でも。


 この三人にとっては、

 約束だった。


 なぜ消えたのか。

 なぜ、同い年で戻ってきたのか。

 なぜ、俺の前に現れたのか。


 その理由を、

 俺はまだ知らない。


 けれど。


 最前列に座っていた三人は、

 今も、同じ目で俺を見ている。


 ――ここから、物語は始まる。

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