第2話ponziさん
下北沢の小さなライブハウスの薄暗い照明の中、ガールズバンド「しろぴあ」の演奏が始まる。ボーカルでギターのきーちゃんが掻き鳴らす力強いコードに乗せて、少しハスキーな歌声が響き渡る。観客はまばらだが、それでも彼女たちの音楽には確かな熱がこもっていた。
「しろぴあ」は、きーちゃんを中心に結成された中堅バンドだ。東京近郊のライブハウス、千葉、埼玉、神奈川といった場所を定期的にツアーで回り、地道にファンを増やしてきた。ライブハウス特有の熱気と、きーちゃんの飾らないMCが、じわじわと彼女たちの音楽を広げていた。
そんな中、きーちゃんは動画配信サイト「ポコチャ」でのライブ配信も積極的に行っていた。主な目的は、細やかながらも副収入を確保することと、何よりもバンド「しろぴあ」の宣伝だった。ライブの告知はもちろん、日常のちょっとした出来事や音楽への想いを語ることで、彼女の飾らない人柄に惹かれる固定ファンが着実に増えていった。
ある夜のことだった。いつものように自宅の一室から配信を始めたきーちゃんの画面に、「ponziさん」という見慣れない名前のリスナーが現れた。最初は、コメント欄に時折現れる面白いおじさん、くらいの印象だった。しかし、ponziさんの書き込む言葉は、他のリスナーとはどこか違っていた。
何気ないきーちゃんの言葉尻を捉え、ふいに深い哲学的な考察をしてみたり、時には誰も思いつかないような奇抜な視点から日常を切り取ってみたり。そのコメントは、最初はきーちゃんを戸惑わせたが、次第にその話の深さと面白さに彼女は引き込まれていった。配信が終わった後も、ponziさんのコメントが頭の中で反芻されることが増えていった。
「一体どんな人なんだろう、このponziさんって…」
きーちゃんは、画面の向こうにいる見えない哲学者の存在が、少しずつ気になり始めていた。