表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の薬師(仮)  作者: ルゥ
9/25

第九章:もう一人の癒し手

山あいの小さな村――

隠れ家のような古びた納屋を借りて、フミたちはひっそりと暮らしていた。


薬草畑を作り直し、近くの人たちに少しずつ信頼され始めていた頃。

ある晩、小さな女の子が息を切らして納屋の扉を叩いた。


「おねーちゃん……!おにいちゃんが……山でケガして……!」


驚く村人、戸惑うアレク。

けれどフミは動かなかった。


「……リィナ、行って。」


「えっ……わ、私が?」


「うん。私のやり方、見て覚えてきたでしょ。やれるよ。」


不安げだったリィナは、フミの言葉に少しだけ目を見開き――

やがて静かに、うなずいた。



山小屋にいた少年は、落石に巻き込まれ足を負傷していた。

大きなケガではなかったが、放っておけば感染の恐れもあった。


リィナは震える手で道具を並べ、傷を洗い、薬草をすり潰して包帯を巻いた。

手順は完璧じゃなかった。でも、丁寧だった。


「……ありがとう。すっごく痛かったの、へったよ。」


「よかった……!」


少年の言葉に、リィナは思わず涙ぐんだ。


それはフミのように“当たり前にやれる”ことではなく、

彼女にとっては初めての“誰かを救えた”瞬間だった。



夜、納屋に戻ってきたリィナは、土まみれの手を見つめながらフミに言った。


「……うまくできたか、自信ない。でも、少し“なれた気”がした。」


フミは黙って、リィナにハーブの入ったお湯を差し出した。


「“なれる気がする”は、もう“なってる”ってことだよ。」


その言葉に、リィナの頬がほんの少し、ゆるんだ。



けれどその裏で――王都では、フミたちの捜索に新たな動きが出ていた。


貴族の一人が、リィナの逃走によって王家との縁談を失い、

その怒りから賞金稼ぎたちを動かし始めたのだ。


「癒し手と、逃げた貴族の娘を見つけた者には、金貨千枚。」


その額に、欲望に目を光らせる者たちが動き始める――

静かな日々に、また新たな影が落ちようとしていた。


次回:第十章『癒し手狩り』

名も知らぬ者たちが、欲望だけを携えて森を歩き出す。

フミは、戦わずしてどう“守る”のか。リィナは再び、選ばされる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ