第六章:一時の安息
リィナは森での生活に少しずつ慣れていった。
上品な所作と豊かな教養を持ちながらも、どこか素朴な一面もあり、ハーブの香りや小動物たちに心を和ませていた。
「……ねぇ、フミさん。」
「ん?」
「わたし、このままずっとここにいてもいいですか?」
「……ううん、無理だよ。」
フミの言葉は冷たくはなかった。ただ、現実を静かに突きつけていた。
「貴族の血を持ってるなら、いつかまた“迎え”が来る。そうなった時、私は守れない。」
「それでも……わたし、逃げ続けたい……。」
フミはしばらく黙ったあと、少しだけ声を落として言った。
「じゃあ、逃げ切れる準備だけは、しておこうか。」
⸻
アレクは森の外れで警戒を続けていた。
王都ではすでに、リィナに高額の賞金がかけられているという情報も入ってきている。
「フミ。あの子をかばえば、今度こそ貴族と全面対立になるぞ。」
「……それでも、今は“助けたい”と思ってる。それでいい。」
そしてフミは、リィナに森の薬草の知識や、簡単な解毒の方法を教え始めた。
「ただの避難者」ではなく、「逃げる術を持つ者」になれるように。
⸻
けれど、王都は動き出していた。
「“森の癒し手”が、貴族の娘をかくまっている――」
そんな噂が、すでに王の耳にも届いていた。
次回:第七章『包囲の森』
王都の追手がついに森へと迫る。
でもフミは、相変わらず森の中でハーブを干していた。