第四章:火の手
ある晩、フミの薬草小屋に、見知らぬ男たちが踏み込んだ。
黒装束に身を包んだ、王都直属の貴族の私兵たち。
「……この小屋を“公の管理下”に置く。貴族様が使えるようにしろ、と。」
言葉とは裏腹に、彼らはすでに火種を投げ込もうとしていた。
あくまで「力づくで従わせる」つもりだった。
その瞬間――
「……よくも。勝手に入ってきたね。」
フミがかざした手から、光があふれ出す。
バフ魔法【身体強化・極】を自分に、そして【精神操作解除】で相手の威圧を打ち消す。
だが戦うつもりはなかった。ただ、拒絶するだけだった。
そこに、森の奥からアレクが現れ、剣を構える。
「この人の前で、好き勝手するなよ。」
アレクが私兵たちを追い払い、小屋は燃やされずに済んだ。
けれど、王都の貴族たちにとって、フミの存在はもはや“放置できない”存在になってしまった。
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静かに、穏やかに、誰にも従わずに生きていきたかった。
けれど――助けるたび、噂されるたび、フミの世界は少しずつ、騒がしくなっていく。
それでもフミは、決して自分から動かない。
“来る人だけを癒す”、その姿勢は変わらない。
そして次に訪れるのは――貴族の血を引く少女。
「……助けてください。私、逃げてきたんです。」