第二章:癒し手は、森から出ない。
それから数ヶ月、フミは森の薬草小屋で静かな暮らしをしていた。
通りすがりの旅人、道に迷った子ども、戦で傷ついた兵士――誰であっても、フミは分け隔てなく手を差し伸べた。
「……私は、森から出ないよ。」
そう言いながら、必要最低限の関わりだけを持つ。けれど、癒された人たちは、皆フミに特別な感情を抱いて去っていった。
“あの人は、本当にこの世界の人なんだろうか”と。
そんなある日、血まみれの男が倒れ込むようにフミの小屋の扉を叩いた。
「くっ……ぜぇ……た、助けてくれ……頼む……!」
男の背には、貴族の紋章を持つ者の刺客が放った“呪毒の矢”が刺さっていた。
「……これはただの毒じゃない。呪いも混ざってる。」
フミは静かに呟くと、手をかざしてバフ魔法“精神集中”を自身にかけた。
そのままハーブと魔力で調合した特製の解呪薬を使い、じっくりと男の命を救っていった。
「助けられるかはわからないけど、助けたいと思ってる。……それで十分でしょ?」
やがて目を覚ました男は、自分の命を救った者が森の奥の治癒師だと知る。
彼は名をアレクと名乗った。かつて王都で名を馳せた冒険者だったが、とある貴族の陰謀に巻き込まれ、追われる身となっていた。
「もう誰とも関わりたくないって顔してるけど、悪い。オレは借りは返す主義でね。」
それから、フミの静かな暮らしの周囲には、少しずつ異変が現れ始める。
“王都の治癒士にしか作れないはずの薬”が流通している。
“貴族の病が、なぜか癒された”という噂が広まる。
そしてついに――
「森に、“異端の癒し手”がいる」
そんな噂が貴族の耳に届いたことで、フミの静かな日常が揺らぎ始めた。