表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ひなまつり

作者: さば缶

 首のもげた女雛が畳の上に転がっていた。

血に濡れた衣がゆっくりと揺れているようで、まるで生気を宿しているかのようだった。

「どうしてこんなことになってるんだろう。」と妹の麻里が青ざめた顔でつぶやく。

俺は答えられないまま人形を見つめ、喉の奥が焼け付くように感じた。


 古びた雛壇には、他の人形たちが怪しく並んでいる。

灯りの下で微かに輝く瞳は、こちらを見下すように冷たい。


 廊下からは風の唸る音がして、家全体が軋むように揺れる。

「早くここを出よう。」と俺は言うが、足が竦んで動きそうにない。

雛壇の前に立つと、見えない力が背後から絡みつくように迫ってくるのだ。


 いつからか、鼓膜をかすめる鈴の音が耳から離れない。

それはまるで幼子の囁きにも似て、俺の意識を徐々に奪い始める。

女雛の首の断面からは、黒い汁が滴り落ちて畳を蝕んでいた。

麻里が小さな悲鳴を上げ、「なにか、足を掴まれてる!」と訴える。


 見ると、畳の隙間から白い指のようなものが伸びて妹の足首を絡めとっていた。

その指がどこに繋がっているのかは分からないが、まるで深い井戸の底から伸びてくる亡者の手のようだ。

「離せ!」と俺は必死に叫ぶものの、声は虚空に散るばかりだった。

廊下から吹き込む風が急に止み、屋敷の気配がさらに淀んだ。


 突然、雛壇の近くの障子が破れ、中から大きな羽音が響いた。

その羽音は鼓膜を突き破るほど耳障りで、同時に強烈な悪寒が背筋を走らせる。

何か巨大な鳥のような姿が闇の中でうごめいていると分かったが、俺には正体を見極める勇気がなかった。

「助けて!」という麻里の声に振り返ると、そこには言葉を失う光景が広がっていた。


 畳一面が暗い血に染まり、女雛の体がくぐもった声を上げている。

麻里はその声に誘われたかのように人形のそばへ引きずられ、悲鳴を上げる間もなく闇に溶けていった。

俺はただ立ち尽くすことしかできず、背後で響く鈴の音が狂気を煽る。

次の瞬間、闇の奥から転がり出たのは血塗れの女児の生首だった。

それはまだ微かに動いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ