第7話 付与実験の果てに生まれたモノ
毎日こっそり錬金術を使い続け、魔力をちょびっとずつ削りながら遊んでいた俺。
気づけばもう三歳。普通の子供なら積み木やら砂遊びやらしてる頃なのに、俺は今日も一人で部屋に籠もって「怪しい実験ごっこ」である。
「ふっ……三歳児が毎日こっそり魔力放出してるとか、親に知られたらどう思われるんだろうな。
“あら、この子……隠れて一人でやってるのね”とか言われたら……いや絶対違う意味で勘違いされるじゃん!!」
そんなくだらない自虐を挟みつつ、俺は今日も錬金タイムに突入する。
いつもなら、小石を分解して砂に戻したり、逆に砂を固めてレンガにしたり――そういう「お遊びレベル」の繰り返し。
だが、今日は違う。俺の中で革命的なひらめきがあった。
「……錬金術で作った物に魔法的な効果を付与できたら最強じゃね?」
そう、付与魔法の実験だ。
いや、正直言うと自分が“付与魔法”とか使えるかどうかもわからない。
けど、錬金術そのものが“物質に魔力を混ぜ込む”みたいなものだから、応用すれば何か出来るんじゃないか……そんな妄想である。
対象はいつもの石ころ。
俺のちっちゃい手に乗る、ただの灰色の丸っこい石。
「よし、いくぞ……! 光よ、宿れ!」
思わず口に出した台詞は、中二病全開だった。
だってさ、無言で実験するより盛り上がるじゃん?
仮にも俺、まだ三歳だぞ。せめて自分のテンションくらいは上げていかないと。
だが、何も起きなかった。
「……チーン。はい、終了。おつかれさまでしたー。
……って諦めるかよ! なにが“光よ宿れ”だ。アホか俺は。宿ってくれるわけねぇだろ」
そう悪態をつきながらも、諦めきれず石にじわじわと魔力を注いでいく。
すると、妙な変化が起こった。
手のひらにある石が、ほんのりと温かくなったのだ。
まるで電気カーペットの弱モードみたいに。
「……お? おぉ? なんか温かいぞ?」
さらに魔力を注ぎ込むと、今度は石がじわっと光を帯び始めた。
ポッ……と豆電球みたいな小さな輝き。
「おおお!? おおおおお!? 光ったぁぁぁぁ!!」
思わず声が出た。
……やべ、親に聞こえたか?
俺は慌てて耳を澄ませたが、隣の部屋からは別の意味で怪しい音が聞こえてきて顔をしかめる。
ギシッ……ギシッ……。
時折混ざる、母さんの妙に甘ったるい声。
「……あー……また始まってんのかよ。
いや、健康的で結構なんだけどさ……三歳児の俺に聞かせるのはどうなんだ?
てかこの光る石、タイミング最悪すぎんだろ! “両親の営みに合わせてピカッピカッ”とか完全に下ネタアイテムじゃねーか!」
チカッ……チカッ……。
石は俺のツッコミに合わせるかのように、点滅を繰り返す。
一定の間隔で光るその様子は、まるで豆電球。いや、もはや豆電球そのもの。
「おいおい……俺、錬金術で電気発明しちまったのか? 三歳児の理科実験じゃねーぞコレ。
いやでも……ちょっと便利じゃね? これ夜道歩くときとか使えんじゃん」
だんだんと興奮よりも笑いがこみ上げてきた。
狙った効果とはまったく違う。
けど、結果的に新しいモノが生まれたのは間違いない。
「ふふ……“光る石”か……。
いや違うな。“夫婦の営みを盛り上げるムードライト”だこれ。絶対に使えねぇ!」
俺は慌てて石――いや、点滅石を布でくるみ、こっそり隠してある木箱に押し込んだ。
さすがにこれを両親に見られたら「なんでこんな変な物作ってるの?」と問い詰められるに違いない。
最悪の場合、“両親の営みを覗き見して作った石”とか疑われたら俺の三歳児ライフは終了である。
「……危なかった……いやでも、使い道はあるかもしれないよな。
夜に一人でトイレ行くときとか……あ、三歳児ってまだオムツか。……いやオムツ外れたし、セーフ!」
自虐で自分を励ましながら、俺は布団に潜り込む。
頭の中では、光る石の使い道を想像してワクワクが止まらなかった。
「……もしかしたら、この世界で俺、ランプの発明者になれるんじゃね?」
そんな妄想を抱えたまま、俺はニヤニヤしながら眠りについた。




